秋口に行う「夏剪定」または「秋剪定」ともいいますが。近年増えているシュラブ系統のバラとは少し相性が悪い手入れです。シュラブ系統のバラに夏剪定する方法とその考え方を紹介します。
そもそも夏剪定は「四季咲きの木立ちバラ」に行う手入れ
▲フロリバンダ系統の「イントゥリーグ」 写真提供/ハナたろう
夏剪定は、日本の気候とバラの性質を考慮して考案された、日本独自の手入れです。必ず必要な手入れではありませんが、これを適切に行うことで、秋の開花に適した気温のころにまとまってバラの秋花を咲かせることができます。
じつはこの手入れは昭和の時代に考案されたもの。昭和時代のバラといえば、木立ち樹形のハイブリッド・ティー系統のバラかフロリバンダ系統のバラ、もしくはつる樹形のつるバラしかありませんでした。
つるバラは春のみ咲く一季咲きのバラです。つるバラに夏剪定をしても秋に咲かせることはできません。つまり夏剪定は、ハイブリッド・ティー系統かフロリバンダ系統のバラに行う手入れとして考え出されたものなのです。
ハイブリッド・ティー系統とフロリバンダ系統のバラは「枝先をカットすれば、次に伸びてきた新しい枝先に適切な温度さえあれば必ず蕾をつける」性質をもちます。この性質から「四季咲き」と呼ばれるのです。
つまりこれら2系統のバラは「四季咲きの木立ちバラ」と言い換えることができます。本来、夏剪定とは「四季咲きの木立ちバラ」に行う手入れなのです。
近年のバラは、ほとんどが「シュラブ系統」のバラ
▲シュラブ系統のバラだけで構成されたガーデン
ところが近年作出されるバラは、ほとんどが「シュラブ系統」のバラです。あなたのバラも、その多くがシュラブ系統のバラでしょう。
シュラブ系統のバラは、「四季咲きの木立ちバラ」ではありません。
▼バラの系統について知りたい方はこちらをどうぞ
▼シュラブの性質について知りたい場合は、こちらの記事が分かりやすいかな?
シュラブ系統のバラは品種により性質がまちまちで、「四季咲きの木立ちバラ」そっくりな性質の品種もあれば、「一季咲きのつるバラ」そっくりな性質の品種もあります。
そしてほとんどのシュラブ系統の品種は、両者の中間的な性質をもっています。比較的「四季咲きの木立ちバラ」寄りの品種や、比較的「一季咲きのつるバラ」寄りの品種などさまざまです。
しかもシュラブ系統のバラは環境による影響を受けやすいところがあるので、たとえ同じ品種でも育てている家庭により違った育ち方になることがあります。
つまり「シュラブ系統のバラはこうすればいい!」とひとくくりに言い切れない難しさがあります。このあたりが「シュラブは難しい」と、苦手意識をもつ方が多い原因になっているんですね。
シュラブ系統のバラは、夏剪定向きの品種と夏剪定に向かない品種がある!
▲「グラハムトーマス」は、ほぼ一季咲きのつるバラ
たとえばイングリッシュローズの名花「グラハムトーマス」は、シュラブ系統のなかでも大型になる品種で、通常はつるバラ扱いされます。
少し返り咲きしますが、「一季咲きつるバラ」に近い性質です。こういう品種に夏剪定しても、秋にまとまって咲かせるのは難しい。つまり「グラハムトーマス」は、夏剪定に向かない品種といえます。
▲小型シュラブの「アレゴリー」は、ほぼ「四季咲きの木立ちバラ」と同じ性質
これはデルバールの「アレゴリー」です。「アレゴリー」もシュラブ系統のバラですが、樹高80cmていどの小型シュラブで、四季咲き性の強い品種です。
春の1番花の後、2番花、3番花と、花がらを切り戻したところに必ず蕾をつけます。シュラブ系統とはいえ、ほぼ「四季咲きの木立ちバラ」と同じ性質をもつ品種です。
▲「アレゴリー」の秋花
こういう品種なら、「四季咲きの木立ちバラ」と同じ夏剪定をすることで、10月中・下旬ごろにまとまって秋花を咲かせることができます。つまり、夏剪定向きのバラなのです。
ここまで見てきたように、シュラブ系統のバラは品種により性質がまちまちなので、夏剪定向きの品種と夏剪定に向かない品種を見分けることが大事です。
目安は、大きくなりすぎない四季咲き性の強い品種が夏剪定向き
▲図の左寄りの品種ほど夏剪定向き
シュラブ系統のバラは、まず夏剪定向きの品種か夏剪定に向かない品種かを判断する必要があります。目安として「あまり樹高が伸びない四季咲き性の強い品種」が夏剪定向きのバラです。
上の図はどれもシュラブ系統のバラの樹形です。左にいくほど「四季咲きの木立ちバラ」に近い性質で、右にいくほど「一季咲きのつるバラ」に近い性質になります。
上で紹介した「アレゴリー」はかなり左寄りの品種です。木には20%ほどのエネルギーしか使わないので大きくならず、花に80%のエネルギーを使うので連続して次からつぎへと花を咲かせます。左寄りの品種ほど、夏剪定向きといえます。
逆に「グラハムトーマス」はかなり右寄りの品種です。木に80%ほどのエネルギーを使うから大型になり、花に20%のエネルギーしか使わないので春にまとまって咲いた後はポツリポツリと返り咲くていどです。右寄りの品種ほど、夏剪定に向かないといえます。
例外もあるので、とりあえず一度、夏剪定した結果から判断する
▲「レディ・エマ・ハミルトン」の夏剪定後の秋花
しかし例外が多いのもシュラブ系統の特徴です。なので「品種ごとに夏剪定向きか夏剪定に向かないかを見極める」が、もっとも正しい対処法と言えそうです。
たとえばイングリッシュローズの「レディ・エマ・ハミルトン」は、樹高1mていどとあまり大きくならないし春~夏ほんとうによく蕾を上げます。夏剪定向き品種に思えたのでバッサリやってみたところ──。
9月10日に夏剪定した後、80日かかって11月下旬に1輪、90日かかって12月10日にもう1輪が咲きました。それが上の写真です。
この品種が夏剪定に向いていないのか、我が家の環境のせいか、それともその年の気候のせいかハッキリしませんが、とりあえず我が家で「レディ・エマ・ハミルトン」に夏剪定するのはあまりいい結果につながらないのが分かりました。
▲9月12日の「レディ・エマ・ハミルトン」
上記の結果をふまえて、今年の「レディ・エマ・ハミルトン」には夏剪定しませんでした。9月12日時点で樹高は65cm、蕾は9個あります。
10月中・下旬に一斉に咲きそろうことはありませんが、今後はこの株のペースで咲いてもらいます。
と、いうことで。
この品種は夏剪定向きだろうな~と思えたら、とりあえず夏剪定してみましょう! それで上手く行ったら来年以降も夏剪定すればいいし、思うように咲かなかったらもっと浅い弱剪定にする、もしくは夏剪定しないと、それぞれの家庭で判断するのがベストだと思います!
【実践】シュラブ系統のバラの夏剪定のしかた
1、1週間前に追肥
▲固形の緩効性化成肥料で追肥
前置きが長くなりましたが、つぎに実際に、シュラブ系統のバラに夏剪定する方法を紹介します。やり方は、四季咲きの木立ちバラの夏剪定とほぼ同じです。
夏剪定してからの芽吹きを良くするため、夏剪定する1週間前にあらかじめ追肥をします。使うのは固形の緩効性化成肥料。地植えで土壌劣化が気になる方は、有機質肥料を使っても構いません。(暑い時期の有機質肥料は溶け出しが早くバラに強くあたることがあるので、しっかり株から距離を取って入れてください)。
2、枝先をカットする
▲赤または青いラインで剪定する
剪定する位置は、上1/3を切り取る赤いラインです。全体にドーム型になるよう、だいたい同じ長さにそろえて切ります。花や蕾があっても残さず、すべて切り取ります。
これは四季咲きの木立ちバラの夏剪定と同じ方法です。木立ちバラに近いシュラブなら、この方法で夏剪定します。
もしくは、上1/4を切り取る青いラインで浅く剪定する方法もオススメです。理由は後で説明しますが、木立ちバラより伸びやすい性質があるとか、品種紹介が「四季咲き」ではなく「繰り返し咲き」になっているなら、こちらの方法で秋バラがどう咲くか様子見するといいと思います。
3、夏剪定後は薬剤や活力剤を活用
住友化学 ベニカ Xガード 粒剤 550g 関東当日便 |
ハイポネックス リキダス 800ml 植物用活力液 (4977517162582) |
夏剪定をしたら、病気と害虫予防に「ベニカXガード」や「オルトランDX」を株元に散布。ちょうどコガネムシの幼虫が発生する最後の時期なので、このタイミングで薬剤散布しておけば、来年の春までコガネムシの幼虫に根を食い荒らされる心配はありません。
微量要素を補うため適宜、「リキダス」などの活力剤も利用して元気な芽を育て、キレイな秋花を咲かせましょう!
4、秋花の咲き方をチェック!
▲秋花の咲き方で、夏剪定してもいい品種かどうか判断する
どちらの方法でも、その結果、秋花がどうなったかをよく観察して、来年以降の夏剪定の参考にしましょう。
どの枝からも蕾が上がり、狙い通り10月中・下旬にそろって咲いたなら、それは夏剪定向きの品種です。上の方で紹介した我が家の「レディ・エマ・ハミルトン」のようにほとんど咲かなかったなら、それは夏剪定に向かない品種といえます。
シュラブ系統のバラ。夏剪定に迷ったら弱剪定で!
▲頂芽から1段下がったところから新芽が伸びている
通常の夏剪定は上1/3をカットしますが、夏剪定していい品種かどうか迷ったときには、上1/4をカットするに留める弱剪定がオススメ。
なぜなら、シュラブ系統のバラは必ずしも頂芽が伸びるわけではないから。
上の写真のように、頂芽から1段2段下がったところから新芽が伸びることもよくあります。また、シュラブ系統のバラは比較的細い枝からも花が咲くことが多いので、上1/4ていどをカットする弱剪定でも十分なのです。
多くのイングリッシュローズは、弱剪定の方が向いているといわれます。
必ずしも秋花が咲くとは限らない!シュラブって気まぐれだから!
▲枝先に必ず蕾がつくとは限らない
せっかく夏剪定したのに、新しく伸びてきた枝先に蕾がつかなくてガッカリ──なんてこともあります。それは夏剪定のしかたが悪いわけではありません。
じつはシュラブ系統のバラって、そんなもんです!
頂芽が伸びたり1段下がったところから伸びてきたり、枝先に蕾がついたりつかなかったり。たとえ咲いても夏剪定から40日で咲いたり80日かかったり・・・。
四季咲きの木立ちバラが、どんな品種でもほぼ例外なく「夏剪定から40~45日ていどで咲く」という規則正しい性質があるのに比べ、シュラブ系統のバラは品種によっても気候や環境によってもきままに咲き方が変わります。
つまりシュラブ系統のバラって、狙い通りに咲かせるのがとても難しいバラなんです。でもそんな、人の思い通りにならない気ままなところも、シュラブの魅力だったりします。
咲いたらラッキーくらいの、ゆったりした気持ちで付き合うのがいいですよ^^
まとめ
今回は、シュラブ系統のバラの夏剪定について紹介しました。いろいろ書きましたが、シュラブってもともと、あまりキッチリ規則正しい育ち方をするわけじゃないので夏剪定と相性が良くないバラなんです。
日本の四季を考慮して考えられた夏剪定。「四季咲きの木立ちバラ」に似た性質のシュラブの品種ならどんどんやってください。たとえば我が家の「アレゴリー」は、秋花もとてもキレイに咲いてくれます^^
でも、狙い通りに行かない品種もたくさんあります。こういう場合は、シュラブ系統のバラってそんなもんと諦めてください^^
我が家の「レディ・エマ・ハミルトン」のように、夏剪定に向かない品種は、咲き終わったら切り戻すの都度剪定を繰り返します。やがて気温が下がるともう蕾を上げることができなくなるので、そうしたらバラの季節はおしまい。
シュラブとの付き合いは、職人技で狙い通りに咲かせるゾ! なんて気負わずにね^^
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