バラの夏剪定とは何か? どうしてするのか、しなくてもいいのか。夏剪定する品種としない品種など、夏剪定のさまざまな疑問をまとめています。
初心者ロザリアンYOUです。バラの手入れに「夏剪定」っていうのがあるけど──じつはウッカリしていて「夏剪定」しないで秋になってしまったの。どうすればいい? そもそも、夏剪定って、どうしてやるの?
「夏剪定」は、四季がはっきりしている日本独自の手入れ
じつは「夏剪定」は、日本だけで行われている手入れで、欧米では「夏剪定」なんてやりません。その理由は、日本の気候と深い関係があるのです。日本の気候とバラの花の関係について、まず紹介しましょう。
日本でバラがきれいに咲くのは春と秋
▲「ブルーパフューム」の春花(左)と、夏花(右) 写真提供/天女の舞子
日本と欧米では気候が大きく異なります。ほとんどのバラは、欧米の寒冷な気候に適しています。欧米の夏は日本の5月ていどの気温のことが多く、夏の間ずっとバラが良い状態で咲くことができます。
ところが同じ品種を日本で栽培すると、欧米とはまったく違った育ちかたをします。木は大型になり、夏の花は蕾が充実することなく短期間であっさり貧弱な花を咲かせます。
上の写真を比較すれば明らかですね。左の春花は花径10cm超の大輪花なのに、右の夏花は花径6cm。花びらの枚数も少なく、咲き方もまったく違っていて、同じ品種とは思えません。
▲大輪に咲いた「カインダブルー」の秋花
夏が過ぎ、気温が下がってくると、またバラは大輪の良い花を咲かせるようになります。つまり日本でバラは、春と秋に状態の良い花が見込めるのです。
だから、「バラまつり」は春と秋に行われる
▲2019年5月開催の「ばらフェスタ」
四季咲きバラは、温度さえあれば何度も蕾を上げ花を咲かせます。でも、日本で良い花が見込めるのが春と秋なので、「バラ祭り」は春と秋に開催されるのです。良い花が見込めない夏の蕾は小さいうちに取り除き、花を咲かせようとするエネルギーを株を充実させる方に回すという管理が主流です。
ここで問題になるのが、「バラまつり」に花が一斉に咲き揃うかどうかです。
春花はどのバラも一斉に咲きそろいますが、秋花はそうはいきません。それを人為的に一斉に咲きそろわせようというのが「夏剪定」の大きな目的のひとつです。
あるていど気温が下がってから蕾がつき、充実した花をいいタイミングで咲かせるには、いつどれくらい剪定すればいいか──を、逆算して考案されたのが*8月下旬または9月初旬に行う「夏剪定」です。このタイミングで「夏剪定」すれば、10月中旬~下旬に秋バラがそろって咲かせることができます。
補足
*昭和時代に「夏剪定」が考案されて以降、長らく8月下旬~9月初旬に「夏剪定」を行うとされてきましたが、年々温暖化している現状を踏まえ、2020年以降は9月中旬に行うのが一般的になってきています。このため、もはや「夏」とは言えない時期の剪定なので「秋剪定」という呼び方がされるようになってきています。
夏剪定は、バラ園の手入れから考案されたもの。家庭園芸なら、してもしなくてもOK!
▲一斉に花咲く秋のバラ園
ここまで読んでくると気づくと思いますが、じつは「夏剪定」は、お客さんを招いて公開する「バラ園」の手入れとして考案されたものです。良い花が見込める秋の「バラまつり」期間に、すべてのバラが一斉に花咲くことを目指したものなのです。
──と、いうことは。「夏剪定」をした方が一斉に花が咲いていいけれど、「夏剪定」しなければバラにダメージになるとか、そういうわけではないのね?
そういうこと。「夏剪定」すると一斉に咲く。でも家庭園芸なら、あっちに1輪、こっちに1輪って感じでもいいからずっと咲いていてほしいという考えの人もいますよね? そういう考えなら、別に「夏剪定」しなくても構わないのよ。咲いたら切り戻すの、都度剪定でOKです。
欧米の手入れの主流は都度剪定
欧米のバラの花期は日本よりも短く、6月から、遅くとも9月まででしょう。そのため、バラは夏に咲くものと認識されているそうです。
欧米ではバラ咲く季節の間、「花が終わったら切り戻す」を繰り返す「都度剪定」(または「花後剪定」はなごせんていorかごせんてい)が主流のようです。
大型化しやすいバラを、「夏剪定」で低く咲かせる!
▲「クイーンエリザベス」の秋花 写真提供/天女の舞子
良い花が見込める10月中旬に、そろって花を咲かせるように考案された「夏剪定」には、観賞しやすい高さに咲かせるという意味もあります。
上の写真は「クイーンエリザベス」です。世界バラ会議で殿堂入りしたバラとして、現在でも人気が高い品種ですが、このバラ、日本で育てるととても背が高くなりやすいです。夏剪定してさえ、秋花はこの通り身長を超える高い位置で咲いています。これでは花の後ろ姿しか見えませんね。
ほかにも、ハイブリッド・ティー系統のバラには背が高くなりやすいバラがいくつもあります。秋花をなるべく低い鑑賞しやすい位置に咲かせるのも、「夏剪定」の目的です。
これもバラ園ベースでの考え方なので、家庭園芸で「多少高いところに咲いてもOK」という方なら、夏剪定する必要はありません。
つるバラにも「夏剪定」をするの?
▲春だけ咲くつるバラ「ピエール ド ロンサール」
ところで「木立ちバラ」の夏剪定のやり方はよく書いてあるんだけれど、「つるバラ」の夏剪定のやり方って書いてないのよね。どうすればいいの?
「つるバラの夏剪定」って・・・。うーん。最近、そういうことを紹介する方が増えているのは知っているけど・・・その言い方はちょっと混乱する元かなぁってわたしは思うな。
大前提として、つるバラは夏剪定してはいけない!
▲旺盛にシュートを伸ばす夏のつるバラ
夏剪定は、木立ち樹形の四季咲きバラに行う作業です。それ以外のバラには行いません。
つるバラは、枝を長く伸ばすバラです。春の花が終わると、つるバラはどんどん枝を長くのばします。この長く伸びた枝(シュート)に来年たくさんの花が咲くので、つるバラにとって夏は枝を伸ばすための重要な季節なのです。
つるバラのシュート管理の基本は、なるべく長く枝を伸ばしてくれるよう、頂芽優勢の原理を利用してまっすぐに立てたままにします。曲げると長くなるのをやめ、貧弱な脇芽ばかりが出てくるので、曲げないように注意するのです。
ましてや剪定で短くしてしまうなんて、とんでもない! つるバラは、「夏剪定してはいけない」バラです!
原則として、つるバラに「夏剪定」してはいけないのですが、例外もあります。次に、「夏剪定」してもいいつるバラをいくつか紹介します。
夏剪定してもいいつるバラ その1
▲高さ180cmに伸びた「ジュードジオブスキュア」 写真提供/とらうさぎ
今世紀に入って、バラの世界では「シュラブ系統」のバラが人気です。「シュラブ系統」のバラの代表としてイギリスのデビッド・オースチン氏が生み出した「イングリッシュ・ローズ」があげられます。
上の写真は「イングリッシュ・ローズ」の「ジュードジオブスキュア」。なんと高さ180cmまで伸びています。多くのシュラブ系統のバラは、このように枝が長く伸びるため、短いめのつるバラとして使えます。本当のつるバラのように3m以上に達するものはなく、長くても2mまでのコンパクトなサイズです。
本当のつるバラがほぼ春だけの一季咲きなのに対して、シュラブ系統のバラはくり返し花を咲かせます。このため、秋にまとまった花が咲くのを期待して「夏剪定」する場合もあります。
でも、シュラブ系統のバラの蕾のあげ方は割と気ままで、切り戻した枝先に蕾がつくこともあれば、つかないこともあります。期待したほど蕾が上がらないので、「夏剪定」しないことも多いです。
シュラブ系統のバラの性質は、かなりまちまちです。ほぼ木立ちバラと同じ性質のバラもあれば、ほぼつるバラと同じ性質のバラもあります。ほぼ木立ちバラと同じ性質のバラなら、しっかり「夏剪定」しても構いません。
シュラブって捉えどころがなくて、なんか難しい・・・。
そうなの。一口に「シュラブ系統のバラ」といっても、性質にかなりバラつきがあるから、品種ごとに対応しなければいけなくて、ちょっとややこしいのよね。シュラブについては、そのうち詳しくまとめるね。
▼シュラブ系統のバラの夏剪定は、こちらをどうぞ
「夏剪定?」してもいいつるバラ その2
▲元気すぎるほど伸びた夏のつるバラ
しっかり育ったつるバラは、夏にたくさんの枝を伸ばします。ときに、上の写真のように見苦しいほど枝が伸びてしまうことも。
このまま冬まで放置してもいいのですが、来年しっかり花を咲かせる良い枝に養分を集中させるために、古い枝や細枝を夏のうちに取り除く作業をすることがあります。これを称して「夏剪定」という言葉を使うことがあるようですが・・・。
「夏剪定」というと、木立ち樹形のバラと同じように「全体の2/3の高さまで刈り込む」と誤解してしまう人が多いので「枝の整理」などの、誤解を招かない言葉を使った方がいいかなと思いますね。
この作業は、かなりバラ栽培に慣れた方が、良い枝・悪い枝を見極めながら行います。やってもやらなくても良い作業なので、初心者はやらないことをオススメします。
「夏剪定」してはいけないバラ
▲調子を崩した「ボレロ」 写真提供/天女の舞子
つるバラには「夏剪定」しないのが原則ですが、木立ちバラでも「夏剪定」してはいけないバラがあります。それが、調子を崩しているバラです。
上の写真は、日照不足と肥料過多で調子を崩し、枝1本だけになってしまった「ボレロ」です。なんとか葉は残っていますが、状態はかなり悪いといえます。
この株は、とても花を咲かせられる状態ではありません。1枚でも多く葉を残して光合成してくれることが大事なので、「夏剪定」してはいけない株です。
まとめ
今回は「夏剪定」についての疑問をまとめて紹介しました。「夏剪定」は、主にバラ園での作業です。バラが良い状態で咲いてくれる季節から逆算して9月中旬ごろ(かつては8月下旬~9月上旬と言われていました)に剪定することで、秋バラをそろって咲かせようとする作業です。家庭園芸なら、育てている人の好みによって、してもしなくてもいい作業です。
日本の気候を考慮して考え出された先人の知恵なので、わたしは「夏剪定」を実践しています。まぁ、上手くいくときもあれば、行かないときもありますが・・・。
夏剪定は木立ち樹形の四季咲きバラで行う作業です。つるバラでは行いません。最近「つるバラの夏剪定」という言葉が独り歩きして、つるバラに木立ちバラと同じ夏剪定をしてしまう方が増えているようです。いわゆる「つるバラの夏剪定」(枝の整理)は、かなり上級者が行うもので、初心者はやらない方がいいと思います。
あと、ややこしいのが「シュラブ系統のバラ」。これについては、ここでは書き切れないので、また別の機会に整理したいと思います。
▼シュラブ系統のバラの夏剪定についてまとめました。こちらからどうぞ
バラって系統や品種がいろいろあるから、それぞれに合った手入れが必要なのよね。そこが難しいところだと思うわ。しかも「夏剪定」は、どんな本でも育て方の基本として載っているのに、必ず必要な手入れではないのね。うーん・・・やった方がいいのか、初心者はやらない方がいいのか・・・迷う。
元気に育っている「木立ち樹形の四季咲きバラ」なら「夏剪定」した方がいいと思う。自分の育てているバラが「木立ち樹形の四季咲きバラ」かどうかは、ネットの品種紹介ですぐに調べられるので、一度確認してみては? 育て方の基本として、「夏剪定」のやり方を覚えておいて損はないと思うわよ!
▼バラ初心者YOUのQ&A一覧は、こちらからどうぞ