希釈タイプの農薬散布をしてみたいという農薬初心者が知っておきたい農薬の基礎知識を10、まとめて紹介します。どんな農薬を選べばいいか、また、混用する農薬を考えるさいのヒントになる大切な基本情報ばかりです。


初めての希釈タイプの農薬散布も、注意点をしっかり守れば大丈夫!

▲希釈するタイプの農薬は、手間はかかるけどコスパがいい

ラの株数も増えてきたし、そろそろ希釈タイプの農薬を使ってみようかというときは、いろいろな疑問がわいてきますよね。知識のある人が近くにいればいいけれど、まるっきり一人で対応しなければいけないというときは、使うものが農薬だけに心配でいっぱいになります。

 

ここでは、希釈タイプの農薬を初めて使う方が参考になるような、基本情報を10個まとめて紹介します。

 

1、バラに使える農薬は、バラまたは「花卉(き)類」に適用がある農薬だけ

▲オルトラン液剤の商品説明 出展/住友化学園芸

薬にはさまざまな種類がありますが、商品ごとに使える植物が決まっています。

 

バラに使う農薬は、バラまたは花卉(き)類に適用のあるものだけが使えます。農薬取締法上、適用のない農薬をバラに使うことはできません。

 

バラに使われる主な農薬を一覧にしているので、そちらを参考にしてください。

 

▼バラに使われる希釈タイプの主な農薬一覧

2、農薬は混ぜる(混用する)ことができる!──でも、基本は自己責任で

▲農薬の混用は自己責任で

釈タイプの農薬は、それ単体で使うのはもちろん、他の農薬と混ぜて使うことができます。

 

でも、なかには相性の悪い農薬というのもあって、効果が落ちたり薬害が出たりするものがあります。酸性の薬剤とアルカリ性の薬剤を混ぜると有毒なガスを発生させるので危険です。

 

バラに使われる農薬でいうと、冬にカイガラムシ駆除に使われるマシン油は、石灰硫黄合剤、ボルドー液などのアルカリ性薬剤やジチアノン剤、TPN剤、DCP剤などの水和剤および銅剤と混用すると薬害が出ます。

 

こうした使用上の注意は、商品ラベルやメーカーの商品紹介ページをよく読めば書いてあります。が、必ずしもすべての方が読むわけではないし、すべての農薬の混用事例が公表されているわけでもないので、農水省では農薬の混用を推奨していません。

 

「やるなら自己責任で!」というスタンスです。

 

3、農薬混用の基本は「殺虫剤」と「殺菌剤」の組み合わせ!


オルトラン液剤 100ml 住友化学園芸 浸透移行性 殺虫剤

トップジンMゾル 30ml 住友化学園芸 計量容器付 殺菌剤

庭園芸用に小さいサイズで販売しているバラの農薬は、だいたい混用することができます。混用の基本は「殺虫剤」+「殺菌剤」の2種混用です。

 

上の例でいけば、アブラムシ・チュウレンジハバチの防除効果がある「オルトラン液剤」に、黒星病の防除効果がある「トップジンMゾル」を混用すれば、害虫にも病気にも効果のある薬剤(殺虫・殺菌剤)を1回の散布で済ますことができます。

 

この2種混合液に、必要に応じて展着剤をプラスして薬液を作ります。展着剤についてはまた別の項目をご覧ください。

 

農家では5種類もの農薬を混用するケースもあるそうですが、薬剤の種類が増えるほど相性や希釈率、混ぜる順番などが複雑になるので、農薬初心者は2種類までにとどめて置いた方が良さそうです。

 

4、農薬の剤型に注意!

▲農薬にはさまざまな剤型がある

釈タイプの農薬には、さまざまな剤型があります。水和剤・液剤・乳剤・エマルション・水溶剤・・・。同じ薬剤でも水和剤と乳剤がある商品や、液剤と水溶剤がある商品もあって、どれをどう選んでいいか分かりにくいですね。

 

バラの農薬に使われている薬剤の、剤型別の特徴を紹介します。

 

水和剤(粉末) 水に溶かして使う微粉状の薬剤で、保管しやすいというメリットがある。しかし水に溶けにくく沈殿しやすい、薬液をつくる時に粉塵が舞い上がって吸い込んでしまうなどのデメリットがあり使いにくい。
フロアブル剤(水和剤の一種) 水和剤をあらかじめ溶かして液状にしたもの。水に溶けやすく、粉塵が舞うこともなく扱いやすい。デメリットは、長期保存に向かないこと。
顆粒水和剤・ドライフロアブル(水和剤の一種) 水に溶かした水和剤をふたたび乾燥・顆粒化したもの。粉立ちが少なく、水に溶けやすい。
乳剤 殺虫剤に多い剤型。水に溶けやすく、薬液をつくりやすい。石油由来の有機溶媒に成分を溶かしてあるので火気厳禁。自動車の塗装を溶かすこともある。有機溶媒によっては、薬害が出ることがある。
エマルション剤・EW(乳剤の一種) 乳剤を改良したもの。危険物である有機溶剤を使わず水をベースにした乳剤。有機溶剤由来の事故や薬害が出ない。
液剤 水溶性の有効成分を水に溶かしたもの。
マイクロエマルション剤・ME(液剤の一種) 水に溶けない有効成分を、少量の有機溶剤や界面活性剤で水に溶かした農薬。

 

ここで注意したいのは粉末の「水和剤」です。粉末の水和剤はただ水に入れただけでは溶けず、水面に浮いてしまうので、薬液をつくるにはコツがいります。

 

バケツに少量の水と水和剤を入れ、小麦粉を練る要領でペースト状にしてから噴霧器のタンクに入れ、さらに水を混ぜて薬液をつくります。手間がかかる上に、舞い上がった粉塵を吸ってしまう危険性もあるので、扱いにくい剤型の薬剤です。

 

同じ水和剤でも「フロアブル剤」や「顆粒水和剤」があれば、そちらを選んだ方が扱いやすいです。

 

5、薬剤を混ぜる基本は「水和剤or液剤+乳剤」で!

▲基本の組み合わせは「水和剤or液剤」+「乳剤」

薬を組み合わせるときの基本は「水和剤or液剤」+「乳剤」です。

 

ここでいう「水和剤」には「フロアブル剤」や「顆粒水和剤=ドライフロアブル剤」も含まれます。ただの「水和剤」より「フロアブル剤」や「顆粒水和剤」の方が扱いやすくてオススメです。

 

「乳剤」には「エマルション剤=EW」も含まれます。

 

「水和剤or液剤+乳剤」以外の組み合わせでは、薬害が出やすくなったり、効果が落ちたりします。

 

水和剤or液剤+乳剤 効果UP
水和剤+水和剤 効果ダウン
乳剤+乳剤 薬害がでやすい

 

6、「ダイン」などの展着剤は「水和剤」に入れるもの!

▲少量販売で使いやすい展着剤「ダイン」

着剤は、界面活性剤の力で農薬を混ざりやすくしたり、水をはじきやすい植物にも付着しやすくする効果があります。農薬が本来の効果を発揮しやすくするために追加する補助剤です。

 

展着剤でよく知られているのが上の写真の「ダイン」です。「ダイン」の主成分は界面活性剤。界面活性剤といえば台所用洗剤にも使われている成分で、水と油をなじませる性質があります。

 

少量なら問題ありませんが、界面活性剤を多く入れると薬害が出ます。

 

農薬には必ず展着剤を入れなければいけないと思う方も多いのですが、そうではありません。展着剤は、基本的に「水和剤」に使うものです。「水和剤」のデメリットを補うために入れるものなのです。

 

じつは「乳剤」には既に界面活性剤が入っています。そのため、乳剤に展着剤を入れると、界面活性剤が多くなりすぎて薬害が出やすくなります。

 

展着剤には界面活性剤ではなくパラフィンを主成分にしたものもあります。パラフィン主体の展着剤なら乳剤に入れても薬害が出にくいです。

 

7、バラの展着剤は、黒星病対策なら「アビオンE」がオススメ!


ダイン 100ml 住友化学園芸 薬剤の効果を高める 展着剤

スカッシュ 500ml

アビオン アビオンE 500ml

着剤には、少量販売で価格も安い「ダイン」以外にも、さまざまな商品があります。これら展着剤は、大きく3つのタイプに分けられます。

 

スプレッダータイプ

植物表面の濡れ性をアップし、水をはじきやすい植物にも農薬がよく付着するようにする効果があるのが「スプレッダータイプ」の展着剤です。

 

多く入れると薬害が出ます。乳剤にも界面活性剤が入っているので、乳剤に混ぜると薬害が出やすいです。

 

「ダイン」(住友化学園芸)、「グラミンS」(エムシー緑化)など。

 

アジュバントタイプ

スプレッダータイプの濡れ性アップ効果に、しみこませる効果を追加したのが「アジュバントタイプ」の展着剤です。昆虫の体によくしみこむので、殺虫剤や殺ダニ剤に混ぜると効果的。

 

多く入れると薬害が出ます。乳剤にも界面活性剤が入っているので、乳剤に混ぜると薬害が出やすいです。

 

「スカッシュ」(丸和バイオケミカル)、「アプローチBI」(丸和バイオケミカル)など。

 

スチッカータイプ

パラフィンを主成分とした展着剤です。パラフィンで葉の表面を覆うことで、薬液が雨で流れてしまうのを防ぎます。

 

薬害が出にくいので、乳剤と混ぜて使えます。

 

「アビオンE」(アビオン)など。

 

バラの展着剤には、黒星病対策なら「アビオンE」が、ウドンコ病対策・殺ダニ剤や殺虫剤ならアジュバントタイプがオススメです。

 

8、農薬を混ぜる順番は「テ→ニ→ス」で!

▲農薬を混ぜる順番は「テニス」で覚えて

薬を混ぜるときには、水に溶けやすいものから順番に入れていくと楽です。

 

まず界面活性剤入りの展着剤*。界面活性剤の効果で、後から混ぜる農薬が水に溶けやすくなります。

 

次が乳剤。乳剤にも界面活性剤が入っています。

 

最後にフロアブル剤や水和剤。水に溶けにくい水和剤ですが、展着剤や乳剤の界面活性剤の力を借りて、溶けやすくなります。これで薬害が出るようなら、展着剤の量を減らしましょう。

 

それぞれの頭文字をとって「テ→ニ→ス」の順に入れて混ぜるのが基本とされます。

 

*ただし、展着剤のなかでも「アビオンE」「まくぴか」などは薬液が泡立つので、最後に入れるコト。

 

さらにいろいろな剤型を混ぜるなら「テエニスドフス」で!

まざまな剤型の農薬を混ぜるなら「テエニスドフス」の順番で混ぜます。

 

テ/展着剤*→エ/液剤→ニ/乳剤→ス/水溶剤→ド/ドライフロアブル剤→フ/フロアブル剤→ス/水和剤

 

*ただし、展着剤のなかでも「アビオンE」「まくぴか」などは薬液が泡立つので、最後に入れるコト。

 

9、希釈倍率250倍~500倍のとき、どうすればいい?

▲希釈率には幅がある。どうすればー?

薬の希釈率には幅があります。上の写真では「250~500倍」ですね。こんなとき、何倍に希釈すればいいかの考え方です。

 

ここに書かれている意味は「250~500倍の希釈率なら薬害なく効果を保証する」というもの。これより濃くつくれば薬害がでやすいし、これより薄くつくれば効果が薄くなるという意味です。

 

自分の環境に合わせてやりやすいように希釈すればいいわけですが、2タイプの考え方を紹介します。

 

タイプ1

どんな農薬でも若葉や夏は薬害が出やすくなります。そのため「通常は250倍で散布するが、若葉と夏はなるべく薄く500倍で散布する」という考え方。

 

タイプ2

「通常は500倍で散布するが、病虫害が出てしまった場合は濃くつくり250倍で散布する」という考え方。

 

農薬散布できる回数や、薬害・効果との兼ね合いで、それぞれに判断しましょう。

 

10、ほんとうにこの組み合わせで大丈夫か確認する方法

▲サンヨール乳剤の混用事例集 出展/米澤化学

れまで見てきたように、薬剤を混用するさいには、さまざまな配慮が必要です。相性の悪い組み合わせを避け、農薬の剤型に気を配り、さらに農薬の系統を考えてローテーション薬剤を決めていきます。

 

その結果つくった農薬の組み合わせが、本当に効果的かどうか確認するには、それぞれの農薬メーカーが発表している「混用事例集」を確認するのが確実です。

 

上の表は、米澤化学が公開しているサンヨール乳剤の混用事例集です。

 

▼サンヨール乳剤の混用事例集は、こちらからどうぞ

 

でも残念ながら、すべての農薬に混用事例集が公開されているわけではありません。

 

そんなとき頼りになるのが「ルーラル電子図書館」です。「ルーラル電子図書館」は、農文協(一般社団法人農山漁村文化協会)が運営する「有料・会員制の農業情報提供サイト」です。有料ではありますが、さまざまな有益情報を調べることができます。

 

▼ルーラル電子図書館

 

有料登録するほどでも──という方は、まずはプロのやり方をマネすることから始めるといいと思います。以前に紹介した記事が参考になるので、ご覧になってないかたはどうぞ。

 

▼プロおすすめの農薬混用例をご紹介!

 

実際にやりながら、少しずつ自分のやりやすいようにカスタマイズしていきましょう!

 

まとめ

今回は、初めて希釈するタイプの農薬散布を考える農薬初心者が覚えておきたい基礎知識をまとめました。いろいろ覚えることが多いですね!

 

こういう情報は、農業サイトや農薬に絞った書籍ではありますが、バラの愛好家向けにはなかなかありません。どれも基本的なことなので、頭に入れておいてくださいね。

 

実際に農薬を希釈するときの注意点ややり方は、別のページで紹介しています。ぜひ、そちらも参考にしてください。

 

▼実際の薬液の作り方・散布のしかたはこちらから

参考文献

「今さら聞けない農薬の話」(農文協)

「農薬のきほん」(成文堂新光社)/寺岡徹 監修

東京都産業労働局「農薬の剤型と特徴」https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/nourin/330.040.000-siryou3nouyakunozaikeitotokutyou.pdf

 

▼病気と害虫対策の記事一覧は、こちらからどうぞ

 

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