大切なバラに「根頭がん腫病」が発症してしまったら! どうすればいいか、実際の対処のしかたを紹介します。初心者には廃棄処分と消毒のしかたを、中級者以上の方向けに治療のしかたをまとめています。
対処1、購入したバラ苗に「根頭がん腫病」が発生したら! まず販売店に相談を!
▲バラの「根頭がん腫病」は、夏に活性化する 写真提供/天女の舞子
バラ苗を購入したら、それから1年間は鉢栽培しましょう。
バラ苗を購入するのは、一般的に冬~春にかけてです。もしそのバラ苗が根頭がん腫病にかかっていても、この時期はがん腫病の菌はあまり活発ではないので、特有のコブを発見することはできません。
気温が上がり夏になると、根頭がん腫病の細菌は活発に活動します。そのため、秋以降にがん腫のコブを発見するケースが増えてきます。もっとも多いのが、冬の植え替えのときです。株を鉢から抜いて初めて、根頭がん腫病に気付くというケースがほとんどです。
購入した株をいきなり庭に植えてしまうと、冬の植え替えで根頭がん腫病に気付くことができません。なので、1年間は鉢栽培する方が安全なのです。
相談材料として、根頭がん腫病の株を撮影しよう!
▲必要な写真① タグつきの株の全体像
もしも根頭がん腫病に気付いたら、証拠写真をしっかり撮っておきましょう。販売店に相談する場合、写真をメールで送付するよう求められることがほとんどです。
販売店からすると、それが本当に交換に応じるべきものかどうか判断するために、写真で確認したいのですね。
必要となる写真は2種類です。
1、品種タグがしっかり写った状態の株の全体像。この株が確かに自分の店から購入したものかどうか、判断するために必要です。上の写真の品種タグはあまりしっかり写っていません。もっとしっかり写っているものの方が望ましいです。
2、がん腫のコブがしっかり写っている写真。それが、確かにがん腫かどうかを判断するために必要です。
▲必要な写真② 根頭がん腫病のコブがよく分かる写真
がん腫のコブは外さずに、株についた状態で撮影しましょう。写真は何枚か多い目に撮っておくといいと思います。
▲①冬の植え替えで発覚した場合の写真
植え替えで発覚した場合も、念のためタグを添えて撮影します。ここでも必要なのは、やはりタグです。あるていど全体像が分かるように撮影します。
▲②がん腫コブのアップ
さらにがん腫コブのアップも撮影します。
撮影後も、がん腫株は捨てずに保管しておきます。販売店により対応はそれぞれですが、「直接、がん腫株を引き取りに伺います」という販売店もありました。
購入後1年以内なら、だいたい保証してもらえる
▲左手前が根頭がん腫病発症株、右奥が保証でいただいた株
近年は根頭がん腫病が増えていることもあり、購入から1年以内なら、どこの販売店も保証に応じてくれると思います。
購入から1年以上たっていると、さすがに購入後に罹患したケースが考えられるので、補償対象にはならないでしょう。
根頭がん腫病ではなくカルスのことも!
▲接ぎ口にできたカルス
根頭がん腫病のコブは、文字通り「根の頭」つまり株元にできることが多く、この場所にできたコブは巨大化しやすいのですが、バラの枝の傷ついたところにできる「カルス」と紛らわしいときがあります。
「カルス」は、傷ついた枝を修復しようとする「かさぶた」のようなものです。たとえば上の写真は接ぎ口にできた「カルス」です。ちょっとがん腫のコブのようにも見えますが、これは正常です。
▲つるバラの折れ曲がったところにできた「カルス」
「カルス」は、枝の折れ曲がったところにもできます。枝を包むような感じでできるので、「がん腫」と区別がつきます。「がん腫」の場合は指でもぎ取ることができますが、「カルス」は指で取ることができません。
「がん腫」か「カルス」か分からないときにも、販売店に相談してみるといいと思います。
対処2、「根頭がん腫病」のバラは、初心者なら迷わず廃棄処分に!
▲土は廃棄、鉢やシャベル、ハサミは消毒を!
前回の記事「バラの「根頭がん腫病」とは?「根頭がん腫病」の知識と予防のしかた!」でも書きましたが、「根頭がん腫病」は厳密には完治することができず、しかも感染力の強い病気です。感染株の管理はとても面倒なので、初心者なら迷わず廃棄処分をおすすめします。
罹患しているバラ苗と土は廃棄処分。鉢、シャベル、もし枝を切っているならハサミも消毒してから再利用します。罹患しているバラが植わっていた土を靴底で踏んでしまっていたら──念のため、靴底も消毒しておくと安心です。
鉢やシャベル、ハサミなどの消毒(殺菌)のしかた
▲「ハイター」は「次亜塩素酸ナトリウム」6%溶液
鉢やシャベル、ハサミなどは、「次亜塩素酸ナトリウム」0.1%(1000ppm)溶液に漬けておけば、安全に消毒(殺菌)できます。「次亜塩素酸ナトリウム」というと分かりにくいのですが、衣類の除菌や漂白に使われる「ハイター」が「次亜塩素酸ナトリウム」6%溶液、赤ちゃんの哺乳びん消毒に使われる「ミルトン」で約1%溶液です。
1リットルの水に20ml(ハイターのキャップ8分目)のハイターを入れて混ぜれば、だいたい「次亜塩素酸ナトリウム」0.1%溶液ができます。この消毒液に器具を2~3分漬けこんでおけば殺菌できます。
消毒液をつくるさいは、原液が指などの皮ふにつかないよう、使い捨て手袋を使うなど注意してください。また、次亜塩素酸ナトリウムは金属の腐食作用があります。ハサミや金属製シャベルを消毒したあとは、水洗いしてから使ってください。
鉢を漬け込むのは難しいので、泡状に出るハイターをそのまま使うとやりやすいです。
ウイルスは熱で殺菌することもできます。たとえば剪定ばさみを鍋で煮沸消毒したり、刃にライターの火を当てることで殺菌することができます。切り花生産農家ではウイルスの感染対策のため、1株切るごとにライターで熱消毒を心がけていると聞きます。
【追記】
プロの園芸店で「逆性石けん」の希釈液に漬けこんで器具の消毒をしているという情報を得ました。逆性石けんは、「オスバンS」「ベンザルコニウム塩化物液」などの、いくつかの商品名で薬局で販売されています。
食器・器具の消毒には200~500倍に薄めて使用します。
★使用期限2025年以降【第3類医薬品】オスバンS 600ml おすばん【武田コンシューマーヘルスケア株式会社】【逆性石けん液】【定形外郵便不可】
逆性石けんは、原液がつくと皮膚に炎症を起こすおそれがあるので、必ずゴム手袋を使用する。必ず薄めて使用するなどの注意点があります。また、使用期限があるので、そこも注意してください。
上記のタイプで約1000円です。
食器やまな板などの殺菌にも使えるようですよ!
対処3、どうしても廃棄処分したくないバラの治療方法
▲失ってしまえば二度と手に入らない、あいびーのお気に入り(名前不肖)
根頭がん腫病の株は廃棄処分が基本とはいえ──たとえばお気に入りの品種だったり、既に廃版で入手不可能なものだったり、大切な人から贈られた品などのとても思い入れのある株のこともあります。こんなときには、他のバラに感染しないようしっかり対策しながら、バラの治療を試みることもできます。
その後の管理が面倒になるので初心者にはおすすめしませんが、中級者以上の方ならチャレンジしてもいいと思います。その方法を紹介します。
ここでは木酢液やトップジンMペーストで患部を殺菌する方法と、次亜塩素酸水を使った方法の、2つの治療法を紹介します。
患部を殺菌しながら治療する方法
治療のしかた1、がん腫コブを取り除く
▲株元のコブはナイフで削り、根のコブは根ごと切り取る
株元にできたがん腫は、コブをガーデンナイフやカッターナイフを使い削り取ります。根にできたがん腫コブは、根ごとしっかり切り取ります。
がん腫の切り取りに使ったナイフやハサミは、二次感染を防ぐため使用後に殺菌しておきましょう。
しかし意外にも根頭がん腫病の細菌はがん腫コブにはいなくて、導管を伝ってバラの株全体に広がっています。つまりこのコブを切り取ったからといって、バラの株から菌がいなくなるわけではありません。
治療のしかた2、切り口に木酢液の原液を塗る
「木酢液」は、木炭をつくる際に生じる水蒸気を冷やして集めた液体です。有機酸やアルコール、フェノール類、ビタミン、ミネラルなど200種類以上の成分が含まれていて、さらに木酢液の原液はpH2.8~3.2と強酸性のため、殺菌・殺虫能力にすぐれる液体です。
全体散布をする場合は原液を100倍以上に薄めて使うのですが、根頭がん腫病の治療には、がん腫を切り取ったところに原液のまま筆などで塗ります。これは、傷口からがん腫病菌が入り込まないようにするためです。
▲傷口の癒着を促進する「トップジンMペースト」 写真提供/天女の舞子
傷口からの細菌の侵入を防ぐ効果は、「トップジンMペースト」でも得られます。木酢液か「トップジンMペースト」、どちらを使っても構いません。
治療のしかた3、殺菌した鉢と新しい培養土で植え直す
▲殺菌した鉢と新しい培養土で植え付けを
根頭がん腫病が発生した株が植わっていた鉢は洗ってから消毒液で殺菌、それまでの土は廃棄処分して新しい培養土で植え直します。
根頭がん腫病発症株は、他の株から離して置きます。根頭がん腫病はとても感染力が強く、たとえば枝がこすれて感染することもあります。物理的に距離を置いて管理することが重要です。
治療のしかた4、再発するたびに1~3の工程を繰り返す
▲「根頭がん腫病」はくり返し発症する 写真提供/天女の舞子
ここまで紹介した方法を行っても、そう簡単に「根頭がん腫病」は治りません。一度処置をしても、「根頭がん腫病」はくり返し発症します。そのたびに1~3の工程をくり返します。
がん腫を取り続けることで、やがてがん腫ができなくなることも!
がん腫を取り除いて木酢液を塗る方法を何年も繰り返しても、がん腫が再発してしまうことはよくあります。でも根気よく取り続けることで、やがてがん腫ができなくなることがあります。こうなればしめたもの。根頭がん腫病を克服したといえるでしょう。
しかし根頭がん腫病株を隔離栽培するのは面倒くさく、がん腫株は弱りやすいので、健康なまま根頭がん腫病を克服できる株は発症株の30%くらいというデータも見かけました。
根頭がん腫病の治療に取り組むなら、ダメ元の心意気で! また、もしがん腫コブができなくなり克服したと思える株だとしても、じつは発症していないキャリア株の可能性が高いです。
これまで通り隔離栽培をし、剪定バサミを使いまわさない、一度使ったら消毒するという管理を続ける必要があります。
次亜塩素酸水を利用した治療方法<確実性を取るならコチラ!>
▲次亜塩素酸水を生成するキット
ゆうきの園芸ショップピーキャットは、次亜塩素酸水(人体にも植物にも安全な消毒薬)をバラ栽培に取り入れ、バラの無農薬栽培とくに根頭がん腫病の予防と改善に力を入れている園芸店です。
▲次亜塩素酸水に根を浸けこんで体内洗浄!
ピーキャット流の根頭がん腫病の治療法は、とてもユニークです。次亜塩素酸水にバラの根を浸し、根から殺菌液(次亜塩素酸水)を吸わせることで、バラの中から根頭がん腫病菌を殺菌するというのです。つまり、体内洗浄です。
▼実際の方法は、こちらをご覧ください
次亜塩素酸水は、強力な殺菌効果がありながらも人体に安全な弱酸性の液体です。次亜塩素酸水に正確に浸けこむことで、ほぼ根頭がん腫病菌を除菌することができるそうです。
「ゆうきの園芸ショップ」では、定期的に次亜塩素酸水の沐浴を取り入れてつくられた「癌腫保証付きのバラ苗」を販売しています。大手のバラ苗ナーセリーに比べれば種類も数もそう多くありませんが、それでも10年以上がん腫株を出していないのはサスガです!
▼ゆうきの園芸shop公式サイト
厳密には「根頭がん腫病」を根治することはできない!
前回の「バラの「根頭がん腫病」とは?「根頭がん腫病」の知識と予防のしかた!」の記事でも書きましたが、じつは「根頭がん腫病」を根治することはできません。「ピキャットクリア」で体内洗浄してすらがん腫ができることがあります。
根頭がん腫病を引き起こす「Agrobacterium tumefaciens」(アグロバクテリウム ツメファシエンス)という細菌は、バラの遺伝子に入り込み、遺伝子操作をしてしまう能力があります。遺伝子操作されたバラは、たとえ体内に「Agrobacterium tumefaciens」(アグロバクテリウム ツメファシエンス)がなくなっても、がん腫をつくることができます。このため、「根頭がん腫病を根治することはできない」と言われるのです。
▼前回の記事はこちらです
根頭がん腫病があっても、問題なく花が咲く
▲根頭癌腫病の株に咲いた秋花
とてもやっかいな根頭がん腫病ですが、じつは根頭がん腫病があっても問題なく花が咲きます。根頭がん腫病菌は遺伝子操作で植物を活性化させるので、一時的にバラがすごく元気になったように見えることすらあります。
ただし上で紹介したような治療を施さなければ、やがて感染株は衰弱し、花数も減り、ついに枯れてしまいます。
根頭がん腫病だと分かったうえで、木酢液やピキャットクリアによる体内洗浄、さらに剪定バサミなどの使いまわしをしないよう気をつけるなどしながらがん腫のバラを育て続けるという選択肢もアリです。
もちろん、いろいろ気をつけることが多くて大変ではありますが・・・。
まとめ
今回は、根頭がん腫病の治療のしかたについて紹介しました。──治療というか、根治できない病気なので対処のしかたと言ったほうが適切ですが。感染力が強い病気なので他のバラにうつさないよう、剪定ばさみなどの器具の消毒をしっかり行わなければいけないし、隔離管理が必要なので、初心者さんなら迷わず廃棄処分を。
どうしても廃棄処分したくない中級者以上の方なら、治療を試みてもいいと思います。手に入れやすい木酢液を利用する方法は不確実ですが、次亜塩素酸水を利用した方法なら確実性がぐんと上がります。
根頭がん腫病は近年とても流行していて、バラ業界では大きな問題になっています。バラ園のバラは、そのほとんどが根頭がん腫病にかかっているとすら言われています。今のところ予防薬として「バクテローズ」、治療方法として「ピキャットクリア」での体内洗浄がもっとも効果的だと思います。
▼バラの病虫害対策と農薬の記事はこちらからご覧ください
23年を超える古株のつるバラですが昨年までは元気に見事な花を咲かせていましたが今年になって一部の枝が一畳くらいが枯れてその他の枝は葉は出たものの大きくならず蕾も小さく開かず頭を垂れてしまっとのでインターネットで原因、対策処置を調べて色々対策をしてきましたが半月過ぎても効果が見られず段々被害がひどくなるので更に調査を続けた結果このサイトを見つけました。
直径20センチ以上ある根元を調べたところ硬いキノコのような丸いものがついていました。即除去しましたがつるバラ根頭がんしゅ病の可能性が高いように感じています。
20年以上大事に育てて来ましたので廃棄することが出来ません。何とか助けたいと思っています。アドバスをお願いします。
安積紀夫さま コメントありがとうございます。
根頭がん腫病があっても、バラは問題なく育ち花を咲かせることができます。
がん腫を見つけたら取り除いておけば、そのまま維持できるはずです。
根頭がん腫病は根治することができませんが、共存できる病気です。
古株を大事に維持しているバラ園は、ほぼすべてがん腫株だと言われるほどです。
なので、たとえそのつるバラにがん腫があったとしても、
それが原因で枯れてきているわけでは、ないように思います。
思い当たるケースといえば・・・カミキリムシの可能性はありませんか?
株元におがくずのようなものが落ちているのを見ませんでしたか?
カミキリムシは、バラの古木に産卵しやすい虫です。
安積さまのバラも古木ですし、条件は合っているように思います。
カミキリムシの場合は、一刻も早く幼虫退治をしてください。
それで間に合えば、なんとか助けられるかもしれません。
あと、コガネムシの幼虫もバラの根を食べて枯らしますが、
時期的に違うような気がします。
つい先日、レポーターさんの大きなつるバラがカミキリムシ被害に遭ったと
嘆いていらっしゃいました。
なので、カミキリムシなら時期的にぴったりかと思います。
よく観察なさってみてください。
あいびー