バラがかかるやっかいな病気「根頭がん腫病」について。どんな病気なのか、どのように発症するのか、その予防のしかたとバラ苗メーカーの取り組みについて知識メインでまとめています。


根頭がん腫病は、バラの株元や根にコブ状の塊をつくる病気

▲根頭がん腫病のコブ 写真提供/天女の舞子

ラには、やっかいな病気が3つあります。葉を真っ白にして生育障がいを引き起こす「ウドンコ病」、葉に黒い点が現れやがて広範囲に落葉させてしまう「黒点病」、そして「根頭がん腫病」の3つです。ウドンコ病と黒点病は頻繁にみられる病気で、薬剤で治療しても毎年のように繰り返すやっかいな病気です。

 

「根頭がん腫病」は、バラの株元や根にコブ状の塊をつくる病気です。そんなに頻繁にみられる病気ではありませんが、この病気のやっかいなところは、治療がほぼできないことにあります。さらに感染力が強く、簡単に広がってしまうところもやっかいです。

 

頭根がん腫病のコブをそのまま放置しておくと、やがて根からのスムーズな栄養補給ができなくなり、その株はじょじょに衰弱しやがて枯れてしまいます。

 

根頭がん腫病は土中のウィルスから感染する

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頭がん腫病を引き起こす細菌は、正式には「Rhizobium radiobacter」です。が、一般的には「Agrobacterium tumefaciens」(アグロバクテリウム ツメファシエンス)と呼ばれます。長らくこちらの名称で呼ばれてきたので多くの方がこちらの呼称を使っているようです。

 

この細菌はじつはそう珍しいものではなく、普通に土の中にいる細菌のひとつです。この細菌が根頭がん腫病を引き起こす確率は0.1%以下という、感染力の弱い細菌です。

 

根頭がん腫病が発生する植物は、バラ、桜、梅、梨などバラ科の植物をはじめ、ブドウや菊でも発生します。ブドウや梨などは果実の収穫量が落ちるので、生産農家では大きな問題になっているようです。

 

傷口から感染し、肥大化するにつれ黒っぽく変色する

▲初期のがん腫は白っぽい色をしている 写真提供/天女の舞子

染経路はバラの傷口からです。バラの苗木はいくつかの段階を経てつくられます。

 

まず台木農家が台木を生産します。ある程度育った台木は、掘り上げ根を切り詰めて出荷されます。このときに感染するリスクがあります。さらに育種家のナーセリーで台木の株元近くに傷を入れ、咲かせたいバラの枝を接ぎ木して苗をつくります。ここでも感染するリスクがあります。これを畑に植え、あるていど育ったら掘り上げます。

 

この苗木は日本中のナーセリーに送られ、新苗ならナーセリーで輸送用ポットに植え付け販売されます。大苗なら畑に植え付けます。畑に植えた大苗は、もう一度掘り上げて輸送用ポットに植えて販売されます。大苗を掘り上げるときも根が切れるので感染するリスクがあります。

 

ここまでが生産者サイドでの感染リスクです。

 

わたしたちがバラ苗を購入してからも感染リスクはあります。バラの根を食い荒らすコガネムシの幼虫被害にあったときも、また、冬の植え替えで太い根を切り詰めたときも土から感染するおそれがあります。

 

▲癌腫コブは大きくなるにつれ黒くゴツゴツしたコブになる

 

 

初期のがん腫は白っぽい色をしていますが、肥大化するにつれ褐色を経て黒く乾いたごつごつしたコブに成長します。初期のコブは指で簡単にはがし、潰すことができます。

 

根頭がん腫病によくにた症状に「カルス」(callus)があります。これは傷口を塞ごうとしてバラが自分でつくる「かさぶた」のようなもの。接ぎ木部分にできるコブががん腫なのかカルスなのかは、とても見分けがつきにくいのですが、指やナイフで簡単にはがすことができるならがん腫の可能性が高いです。

 

根頭がん腫病は、二次感染力が強く、根治することができないやっかいな難病

▲剪定ばさみで感染した根頭がん腫病

頭がん腫病の怖いところは、二次感染力が強いところです。二次感染つまり、感染株から他の株へ感染しやすいのです。感染株を掘り上げるときに根を切ったシャベル、感染株が植わっていた土、感染株を植えていた鉢、感染株の枝を切った剪定ばさみからも、さらにがん腫を触った手からも容易に根頭がん腫病は感染します。

 

上のイラストは、剪定ばさみを介して感染した根頭がん腫病の発症例です。枝先にあるのは花ではなく、がん腫です。枝を切ったところにがん腫が発症してコブができたのです。このように、根頭がん腫病は簡単に感染するので、感染株を切ったハサミやナイフは、その都度、消毒しなければいけません。取り扱いがとても厄介なので、初心者は感染株を発見したら即廃棄処分をおすすめします。

 

しかも根頭がん腫病を発症させるアグロバクテリウムは、特異な特徴をもっています。なんと、とりついた植物の遺伝子を書き換えてしまう能力があるのです。遺伝子操作して植物を異常活性させることで、あのコブを作り出しているのですね。

 

遺伝子操作されてしまったバラは、たとえ体内からアグロバクテリウムを除去してもがん腫を作る能力を持ち続けます。つまり根頭がん腫病は、根治することがほぼ不可能な難病なのです。

 

根頭がん腫病の予防のしかた

▲庭におろすのは、鉢で1年間育ててから!

症してしまったら、根治できない上に二次感染力の強い根頭がん腫病ですが、最初に書いたように発症率は0.1%以下という弱い病原菌から引き起こされます。まず発症しないように、予防に努めるのが第一です。

 

根頭がん腫病を起こす「Agrobacterium tumefaciens」(アグロバクテリウム ツメファシエンス)は、どこの土にでもいる細菌です。予防では、この細菌の力を弱めるようにします。その方法をいくつか紹介します。

 

1、有用微生物たっぷりの土でがん腫病菌の密度を下げる!

中にはさまざまな菌がいます。それらの中にはがん腫病菌(アグロバクテリウム ツメファシエンス)を食べる放線菌などもいます。こういった有用微生物がたっぷりいる環境では、がん腫病菌が繁殖することができません。つまりがん腫病予防には、たい肥をたっぷり含んだ良質な土をつくることが大事なのです。

 

2、感染株の根を残さない!

し庭で根頭がん腫病が発生したら! 根頭がん腫病に感染した株は基本的に廃棄処分しますが、この株が植わっていた土に残った根には大量の細菌がついたままです。根に付着した細菌は、3年も4年も生き続けるそうなので、感染株の根を残さないのが重要です。感染株を廃棄処分するのはもちろん、周りの土を広範囲に入れ替える必要があります。

 

土を広範囲に入れ替えることができないなら、土壌消毒してからたい肥をすきこんだ有用微生物の多い土に土壌改良する必要があります。この上で、できれば数年何も植えずに土を休ませた方が良いようです。

 

3、そもそもバラは鉢で育てる

度発症してしまうととても厄介なバラの根頭がん腫病ですが、そもそも鉢栽培で育てれば大きな問題になりにくいものです。鉢栽培の土は基本的に毎年入れ替えるので、バラが根頭がん腫病にかかる確率がとても低くなります。さらにもし根頭がん腫病にかかっても、そのバラを処分または隔離栽培すればいいわけで、大掛かりな土の入れ替え作業に悩まされなくて済みます。

 

4、庭に植えるのは、1年間、鉢栽培で様子をみてから

うしてもバラを庭に植えたいなら、苗を購入後1年間、鉢栽培で様子をみてからの方が安全です。がん腫病菌(アグロバクテリウム ツメファシエンス)は25度ていどの高温多湿の条件でもっとも発症しやすく、低温期は感染していてもまだコブを作っていないケースがあるからです。

 

根頭がん腫病は冬の植え替え時に発見されることが多いのですが、このときにはまだコブがなくても保菌している苗のことがあります。1年間、鉢で育ててコブができなければ、その株は感染株ではないといえます。

 

5、予防薬を使う

▲バクテローズ 出展/日本農業株式会社公式サイト

頭がん腫病の予防薬として広く知られているのが日本農業の「バクテローズ」です。バラ苗の移植または定植時に「バクテローズ」の希釈液に1時間浸すことで、根頭がん腫病の発症を防ぐ効果があります。「バクテローズ」は微生物の生菌を含む薬剤のため常温で3ヵ月しかもたず、しかも常に流通している商品ではないので、やや入手が難しい予防薬です。

 

活力剤の「バイネキトン」(ローズバイネキトン)も、がん腫病予防効果が認められるとされ、じっさいに効果があったという報告もありますが──令和元年に後継者不足のためメーカーが廃業してしまいました。現在は京成バラ園で取り扱いがありますが、今後の入荷は難しいかもしれません。

 

6、根頭がん腫病株を持ち込まない!

つはこれが一番重要なのですが、根頭がん腫病のバラ苗を持ち込まなければいいのです。バラ苗を購入したら、1週間以内に植え替えしましょう。そして、植え替えのときしっかり株元や根をチェックして、怪しいコブがないか確認を。多くのバラ苗メーカーが返品・交換に応じてくれる期間はほぼ1週間ていどなので、その間に根頭がん腫病の苗でないことを確認しましょう! もしコブを見つけてしまったら、写真を添付してすぐに販売店に連絡を!

 

販売苗の1/10はがん腫病!

▲販売苗の1/10ががん腫病というデータも! 写真提供/天女の舞子

れまでみてきたように、根頭がん腫病を引き起こす「Agrobacterium tumefaciens」(アグロバクテリウム ツメファシエンス)はどこにでもいる土壌細菌ですが、0.1%にも満たない弱い感染力しかもちません。数字上、感染株は1000株に1株未満のはずです。ところが、現在販売されているバラ苗の1/10は根頭がん腫病の感染株だという怖いデータもあります。

 

事実この冬、応援レポーターの天女の舞子さんは約20株のバラ苗を購入したうちなんと3株が発症株でした。感染率高いですよね!

 

*2024年現在、感染確立はもっと上がっていると思われます。きちんとしたデータを元にしたわけではありませんが、感覚的に半数は根頭癌腫病の感染株のように思えます(--

 

根頭がん腫病は、バラ苗メーカーにとっても悩みの種です。もちろん発症株は不良品なので、返品・交換または返金に応じなければいけません。ときに「がん腫病菌はどこにでもいる普通の細菌ですから!削っておけば育ちますから!」と、強い態度に出るメーカーもあるそうですが、ひるんではいけません。明らかに不良品です。

 

根頭がん腫病が蔓延している原因と、メーカーの対応策

▲日本のノイバラ(ロサ・ムルティフロラ)

来、弱い感染力しかもたないはずの根頭がん腫病がこんなに蔓延している理由はなんでしょう? その原因は、バラ苗メーカーの怠慢にあるとする意見と、これまでにない新しいタイプの強力な根頭がん腫病が輸入された! とする意見があります。

 

バラ苗づくりは、いくつかの作業工程での分業制になっています。バラ苗の台木は、台木だけをつくる台木農家が生産しています。日本では日本の環境に適したノイバラを台木として使っていますが、ノイバラは比較的根頭がん腫病にかかりやすいバラです。

 

ノイバラを何百と植えた台木畑で根頭がん腫病が発生してしまったら──場合によってはそれだけで廃業に追い込まれてしまうほど、台木の生産農家にとって根頭がん腫病は怖いものです。ところが、たとえ根頭がん腫病が発生しても、その後の畑の徹底管理をすることなくまた台木を植えてしまうケースが多いというのです。なぜなら、土壌の徹底消毒と管理はコストがかかるから──だそうです。これでは、がん腫病苗が増えるのは当然です。

 

これまでと同じように台木生産していても、近年これだけ根頭がん腫病が増えているのは、これまでにない強力ながん腫病菌が海外から入り込んだせいだ──という意見もありますが、こちらはまだ噂にすぎません。

 

もちろんメーカーも根頭がん腫病対策はとっています。根頭がん腫病にかかりにくいノイバラを選抜選定して使うようになったり、がん腫病を出さないようこだわったバラ苗づくりを目指しているメーカーもあります。もちろん、台木農家もコストをかけずになんとか根頭がん腫病を出さないよう、日々努力していることでしょう。

 

▼がん腫病対策にこだわったバラ苗づくり「ゆうきの園芸ショップ ピーキャット」

 

「ゆうきの園芸ショップ・ピーキャット」は、取り扱い量が少ない、価格がやや高い、シーズンオフ(3~4月、7~9月)は出荷しないなど、大手バラ苗メーカーに比べて不便なところもありますが、がん腫病対策にはこだわったバラ苗を生産しています。10年間、癌腫株を出していないといいます。

 

ほかにも根頭癌腫病の罹患率の少ないバラ苗メーカーはありますが、どこも小規模です。

 

まとめ

今回は、バラがかかる厄介な病気「根頭がん腫病」について、知識と予防をメインにまとめました。

 

根頭がん腫病を引き起こす「Agrobacterium tumefaciens」(アグロバクテリウム ツメファシエンス)は、どこにでもいる感染力の弱い土壌細菌です。ところが近年、この根頭がん腫病がとても増えています。根頭がん腫病を発症している株からの二次感染力が強く、しかも根治ができない難病なので、初心者は他のバラに感染させないよう、株の廃棄処分をおすすめします。

 

根頭がん腫病はバラ苗メーカーでも悩みのタネです。その対策も急がれていますが、まだ十分とは言えません。次回は、根頭がん腫病の実際の対処のしかたについてまとめようと思います。

 

▼根頭がん腫病の実際の対処方法については、こちらをどうぞ!

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