春花が終わった後、多くは梅雨時期に伸びてくるベイサルシュート(ベーサルシュート)やサイドシュートの処理・手入れのしかたを詳しく紹介します。今回は鉢植えバラでのやり方。それぞれの手入れの理由もあわせてご紹介。参考にして!
バラのシュートが出たら、シュート用の特別な手入れを!
▲いい向きに発生してくれた「リュシオール」のベイサルシュート
春花が終わった後、梅雨時期を中心にバラから特別勢いの良いシュート、なかでも株元から発生する「ベイサルシュート」が出てきたら、この枝には来年以降たくさんの花が咲くと約束されているも同然です!
バラ栽培でもっとも重要といわれる「ベイサルシュート」が出てきたらどうすればいいか、一般に「シュート処理」と呼ばれる手入れのしかたを紹介します。
バラには「木立ちバラ」と「つるバラ」、その間の性質をもつ「シュラブローズ」(「シュラブ系統のバラ」または「半つるバラ」)という大きく3つの性質をもつバラがありますが、今回は鉢植えの「木立ちバラ」と「高さ1mちょっとまでに管理するシュラブローズ」のシュート処理について紹介します。
地植えでの場合や、つるバラや、大型でつる仕立てにするシュラブローズは、今回とは違った手入れになります。これらは、また別のページで紹介します。
▼【地植え編】は、こちらをご覧ください!
【鉢植え】木立ちバラのベイサルシュートの理想的な処理(手入れ)のしかた
▲株元から発生した「ベイサルシュート」
シュート枝だけに行う特別な手入れを一般的に「シュート処理」といいます。「処理」というと「切って捨てる」とマイナスイメージに捉えられかねないので、「シュートの手入れのしかた」とか「シュート管理」とか「シュートの育て方」と、プラスイメージのある言葉で表現したいのがシュートの特別手入れです。
なぜならシュートは、来年以降の主幹となり、花をたくさんつけるVIP待遇すべき重要な枝だからです。
まず鉢植えでの「ベイサルシュートの理想的な手入れのしかた」を3ステップで紹介します。その後で、それぞれの手入れの理由を説明します。
ステップ1、ベイサルシュートが20~30cmの高さで最初のピンチ!
▲高さ20~30cmで最初のピンチを!
ベイサルシュートが伸びてきたら、高さ20~30cmで最初のピンチをします。小・中輪品種なら20cmていど、大輪品種なら30cmていどを目安にします。
内芽・外芽は気にせず、どの向きの葉の上でピンチしても大丈夫です。
ピンチのしかた
▲①ベイサルシュートの枝先を指でつまんで
「ピンチ」とはバラの専門用語で、枝先をつまんで折り取ることをいいます。
枝先ならまだ柔らかいので、上の写真のように指先でポキリと折ることができます。
▲②ポキリと折り取る
折り取る長さの目安は2~3節。枝先に葉が密集しているあたりを摘み取ります。あまり長く(深く)切り取りすぎないよう注意してください。
▲蕾がついたら即ピンチ!
もしもベイサルシュートが20~30cmの長さになる前に蕾がついたら。その時点で蕾ごと枝先をピンチして取り除きます。
内芽、外芽を気にしなくてもいい理由、あまり深く切り取ってはいけない理由は、下記のページをご覧ください。
▼柔らかい枝のピンチと硬い枝のピンチの育ち方の違いを紹介しています
ステップ2、ベイサルシュートの蕾は夏の終わりまで咲かせずピンチし続ける
▲蕾のふくらみがみえたらピンチ!
最初のピンチ後は、枝先に蕾をつけるたびにピンチを繰り返します。夏の間は花を咲かせません。
枝先に蕾のふくらみがみえたら、蕾が小さいうちにピンチします。
ステップ3、ほかの枝と同時に夏剪定して秋花を咲かせる
▲ベイサルシュートもほかの枝と同様に夏剪定する
夏の終わりの8月下旬~9月上旬は、バラの夏剪定を行う時期です。
ここまでピンチを繰り返して育ててきたベイサルシュートは、ほかの枝と同じように夏剪定をし、秋花を咲かせます。上の写真では、右端の枝がベイサルシュートです。
▲ベイサルシュートにも秋花を咲かせる
春花後に発生したベイサルシュートの先に秋花が咲きました。
ここまでで、ベイサルシュートの手入れは完成です。これ以降はほかの枝と同じ管理をします。
【鉢植え】ベイサルシュートの処理、それぞれの理由は?
ステップ1、20~30cmでピンチするのはなぜ?
▲芽の位置を調整するために、20~30cmで最初のピンチをする
これは「リュシオール」のベイサルシュートです。いま22cmあります。販売元のデータによると花径4~5cmの小花品種だそうなので、そろそろピンチする時期です。
もっと長く伸ばしてもいいというバラの先生も多いけれど、この段階でピンチを勧めるのには理由があります。
▲高さ52cmで最初のピンチをしたベイサルシュート
たとえば上の写真の右端に写っているのは、適切な時期にピンチしそこなったベイサルシュートです。かなり長くなっていたものを、52cmの高さにピンチしてあります。
やがて冬になり、このベイサルシュートを短く冬剪定しようという段になると、困ることが起きやすいです。
▲鉢植えバラはかなり短く冬剪定するけれど・・・
鉢植えバラの冬剪定では、かなり思い切って主幹を短くしますが、ちょうどいいところに芽がなくて、仕方なく内芽の上で切ることになったり、他の枝と高さを合わせられなくなったりということが起きやすいのです。
20~30cmで最初のピンチをしておけば、ピンチしたあたりで必ず芽がいくつも発生します。こうすることで、冬剪定で良い位置に芽がなくて困るのを防げるのです。
▲今から高さ20cmにカットするのはNG!
それじゃ今からでも高さ20cmくらいの青い線のところで切ってもいいかというと、そうはいきません。今から青い線のところで切ろうとしても、もう枝が硬くなってしまっています。
硬い枝のところまで切り戻すと、後に伸びるのは弱々しい細枝になってしまい、主幹に育てることができません。
ピンチする枝の硬さと、ピンチ後に伸びる枝の関係については、下記のページをご覧ください。
▼柔らかい枝のピンチと硬い枝のピンチの育ち方の違いを紹介しています
ステップ2、ベイサルシュートの蕾を秋まで咲かせてはダメなのはなぜ?
▲ベイサルシュートの1番花は、ほうき状になる
もし一度もピンチしていないベイサルシュートの先に蕾をつけたら、たくさん分枝して大きな10輪以上の房咲きになります。こういう状態の咲き方は、よく「ほうき状」と表現されます。枝の長さも、他の枝よりずっと長くなります。
イメージとしては、上の写真に描き足した図ような、こんな感じです。
ここまで長く伸ばすと、頂芽優勢の原理で、このベイサルシュートにだけ養分が集まり、他の枝の生長が極端に悪くなります。
さらに来年の主幹として枝を充実させなければいけないベイサルシュートなのに、その養分を花に使うことで、枝が充実する妨げにもなります。
また長く飛び出した蕾や花いっぱいの頭でっかちなベイサルシュートは、強風にあおられるなどの衝撃で、付け根から折れやすいというリスクもあります。
まとめると。
①ベイサルシュートが長くなることで、他の枝が生長できなくなる
②ベイサルシュートの充実に使うべき養分を花に取られる
③花がついた頭でっかちのベイサルシュートは、付け根から折れやすい
これらの理由から、ベイサルシュートの花は、秋まで咲かせないようにした方が良いのです。
▲秋まで蕾を摘み続ける
ということで。ベイサルシュートの先に蕾をみつけたら、その都度ピンチして取り除きましょう。ベイサルシュートの蕾は、夏の間はずっと摘み続け、秋花から咲かせます。
ステップ3、秋花を咲かせる、その理由は?
▲中央のガッシリ締まった古い主幹と、左右の瑞々しいベイサルシュート
シュートを育てるために蕾を取った方がいいなら、秋花も咲かせない方がいいのでは? そんな疑問がわいてくるかも知れません。じつは秋花を咲かせるのは、ベイサルシュートの総仕上げという意味があります。詳しく紹介しましょう。
シュート枝とそれ以外の枝との見分け方に、わたしはよく「シュートはアスパラガスのように太く瑞々しくて勢いのある枝」と表現します。
上の写真でも分かるように、出たばかりのシュートってほんとうにツルンと瑞々しいです。この枝を来年以降の主幹に育てるためには、古い主幹のようにガッシリと硬く締まった幹にする必要があります。
▲花が咲くと枝が締まる
では枝を硬く締まらせるにはどうするかというと、花を咲かせるといいのです。
花を咲かせると花に多くの養分を取られるので、枝の生長は一時的にストップします。枝が長く伸びたり太くなる代わりに、硬くしまった枝になるのです。こうすることで、枝が充実します。
ここまでを、簡単にまとめます。
梅雨ごろに発生したベイサルシュートは、夏の間蕾を取り続けることで花に取られる養分を枝に回して太らせていきます。秋までにしっかり太くなったベイサルシュートに秋花を咲かせることで、硬く締まった幹にすることができ、これでベイサルシュートの特別管理が完成するのです。
一般的なベイサルシュートの処理(手入れ)のしかた
▲一般的なベイサルシュート処理は、A・Bどちらかの方法で
ここまでは「理想的な」ベイサルシュートの処理のしかたでしたが、ここからは一般的な方法を紹介します。
多くの方がベイサルシュートに気付くのは、上のイラストのような状態のときだと思います。黒で描いたのが元からある枝、緑色で描いたのがベイサルシュートです。
枝先の赤っぽい新芽が目立つようになって「なんか勢いのいい枝が伸びてきたなー?」と、よくよく観察して初めてベイサルシュートが伸びていることに気付くことが多いでしょう。
こんなときはA、Bどちらかの方法で対処します。
Aのケース
Aのベイサルシュートのように、ほかの枝より飛び出している場合。ほかの枝より2~3cm下の位置でピンチします。指でピンチしても剪定バサミでカットしても、どちらでも構いません。
シュート枝はとても勢いがいいので、次に芽吹いた枝がすぐにほかの枝を追い越してしまいます。それを見越して、少し控えた長さにカットするのです。
これ以降に伸びた枝先に蕾がついたら、咲かせてもいいし、咲かせなくてもOK。これ以降はほかの枝と同じ管理をします。
Bのケース
Bのベイサルシュートのように、ほかの枝よりもまだ短い場合。枝先を2~3節、指でピンチします。
これ以降は、ほかの枝と高さがそろうまで、蕾をつけ次第ピンチを繰り返します。高さがそろったら、後はほかの枝と同じ管理をします。
シュート枝の長さによって、指でピンチする場合と指でもハサミでもいい場合がありますが、詳しくは下記のページをご覧ください。
▼柔らかい枝のピンチと硬い枝のピンチの育ち方の違いを紹介しています
伸びすぎたベイサルシュートはどうすればいい?
▲図1、背高く伸びたベイサルシュートの枝
高さ20~30cmのところで最初のピンチをしましょうと言われても、もうすでにグーンと伸びて枝先に蕾や花をたっぷりつけているんだけど! そういう方もいるでしょうね。
こんなときにどうすればいいかを紹介します。
▲図2、ほかの枝より少し低い位置でカット
ほかの枝の高さ(青いライン)より2~3cm低い位置の、赤いラインでベイサルシュートをカットします。花は咲かせません。
▲図3、次についた蕾から咲かせてOK
その後、ベイサルシュートからも春花(1番花)を咲かせた枝からも新芽が伸び出し、それぞれに蕾をつけます。この蕾は咲かせても大丈夫です。
高さ20~30cmの短い内にピンチをしていないので、冬剪定で芽の位置に悩むかもしれませんが、そこは仕方がありません。
サイドシュートの処理(手入れ)のしかた
▲古い主幹から直接発生するのがサイドシュート
ベイサルシュートに続き、「サイドシュート」の処理(手入れ)のしかたを紹介します。
サイドシュートは、古い主幹の途中から出てきた勢いの良い枝です。上の写真の左側に写っているのがサイドシュートです。サイドシュートも、来年以降たくさんの花を咲かせてくれる重要な枝です。
サイドシュートの処理はベイサルシュートより簡単です。2ステップで紹介します。
ステップ1、ほかの枝より少し低くカットする
▲ほかの枝より少し低くカット
サイドシュートはベイサルシュートより高い位置から発生しているので、すぐにほかの枝より飛び出して1本だけ背が高くなってしまいます。
バラは頂芽優勢の原理に従い、高い枝(ここではサイドシュート)ばかりをヒイキして養分を送ってしまいます。その結果、ほかの枝が育たなくなってしまいます。
こういう事態を防ぐため、ほかの枝と同じくらい、もしくは2cmていど低い位置まで切り戻しておきます。サイドシュートはほかの枝より勢いがいいのですぐに高く育ってしまうから、それを見越して、ほかより少し低くするのです。
カットのしかたは、指先で折り取っても、剪定バサミで切り取っても構いません。剪定バサミを使う場合は、なるべく外芽の上でカットします。
上の写真でいうと、中央に写っている赤い矢印の枝がサイドシュートです。ほかの枝より太くて勢いがあるのが分かると思います。
これが長く伸びてほかの枝より飛び出してきたところで、ほかの枝と高さをそろえて青い線で切ってあります。(もう2cmほど低くしても良かったですね)。こうすることで、サイドシュートからもほかの枝からも新芽が伸びてきています。
もしサイドシュートを伸ばしっぱなしにすると、ほかの芽が伸びなくなってしまいます。必ず切りましょう。
ステップ2、一度切り戻した後は、咲かせてOK
▲一度切り戻した枝先に蕾がついたサイドシュート
上の写真の赤い矢印は、サイドシュートです。
▲青いラインで最初のピンチ済み
このサイドシュートは、一度ほかの枝に合わせて青いラインでピンチしてあります。その後、黄色の矢印で示した2本の枝が左右から伸び、それぞれに蕾をつけています。
▲中央奥の赤い新芽のあたりがサイドシュート
反対側からみると、この通り。中央奥の、赤い新芽がたくさんあるあたりが、サイドシュートの枝先です。
このサイドシュートは一度ピンチしてあるので、ほかの枝より長く飛び出していません。このおかげでサイドシュートに養分が集中することなく、ほかの枝も生長することができています。1番花に続き、2番花が咲き始めています。
このサイドシュートの枝はもう十分な長さがあるので、これ以降の花を咲かせても大丈夫です。花を咲かせることで、硬く締まった枝に充実させていきましょう。これ以降は、サイドシュートもほかの枝も同じ管理をします。
サイドシュートの蕾は秋まで咲かせないという選択もアリです。暑い時期は良い花にならないから咲かせたくないと思う方もいるでしょう。そんなときは夏の間は咲かせずピンチして、秋花から咲かせましょう。
伸びすぎたサイドシュートはどうすればいい?
▲図4、1本だけ高く伸びだしたサイドシュート
もうほかの枝より長く伸びてしまっているとか、枝先に蕾や花をつけてしまっているサイドシュートをどうすればいいかを紹介します。
ここまで読んでくださっていれば、どうすればいいか分かると思います。考えながら読み進めてくださいね!
▲図5、ほかの枝より少し控えてサイドシュートをカット
青いラインで示したほかの枝の高さより少し(2cmほど)低い位置、赤いラインの位置でサイドシュートをカットします。
▲図6、次に伸びてきた枝先の蕾は咲かせてOK
その後、サイドシュートからも春花(1番花)を咲かせた枝からも新芽が伸び出し、それぞれに蕾をつけます。この蕾は咲かせても大丈夫です。
これ以降は、サイドシュートとほかの枝を区別せずに管理します。その後、9月1日前後に夏剪定をして秋花を咲かせます。
まとめ
今回は、鉢植えで管理している「木立ちバラ」と「高さ1mちょっとまでに管理するシュラブローズ」のベイサルシュートとサイドシュートの手入れのしかたについて紹介しました。
シュートは、どちらも来年以降に花枝を伸ばし樹形をつくる重要な主幹です。大事に育てたいものです。
とくにベイサルシュートは、できれば長さ20~30cmのうちに最初のピンチを行いたいです。これについて言及しているバラの先生はほとんどいないのですが、これをやっておくと、冬剪定で芽の位置に困ることがずいぶん減ります。試してみてください!
ベイサルシュートもサイドシュートも、最初につく蕾はほうき状の大きな房咲きになります。バラの先生のなかには「支柱を立てて咲かせても大丈夫!」と説明する方も見かけますが、わたしは反対です。
高い位置でたくさんの花を咲かせると、そこに養分が集中してしまい、ほかの枝が生長しなくなります。バラ自身が、背の高いシュート枝ばかりをひいきして、それ以外の枝を見捨ててしまうのです。
とくに養分が限られる鉢植えの場合、シュート枝だけが生き残り、それ以外が枯れてしまうこともあります。花を見たい気持ちを抑えて切り取り、株を育てる方を優先させた方が良いと思います!
枝を切るのが怖い初心者がベイサルシュートを切れずに、翌春には主幹1本(つまり前年のベイサルシュートのみ)にしてしまう、ということが良くあります。こうなると、それ以降の手入れが格段に難しくなります。思い切って切る方が、手入れが楽になるんですよ!
地植えの場合や、つるバラや大型シュラブローズについては、また別のページで紹介します。
関連記事
▼「季節ごとのバラの手入れ」の記事一覧はこちらから