GWに開催された「横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2024」のもようを2回に分けて紹介します。第2回目は新しいガーデンデザインの提案とフラワーデザイナーによるパリをコンセプトにした展示、JFSのもようをたっぷりと。
緑縁-りょくえん-Japandi style garden
▲ジャパンディ・スタイルの庭「緑縁」全景
横浜ローズコレクションの奥には、プロのガーデンデザイナーがデザインしたショーガーデンがあります。ガーデンタイトルは「緑縁-りょくえん-」。
ガーデンデザイナーは「アトリエナナ」代表の小林裕子さん。「国際バラとガーデニングショウ」2016コンテスト大賞、2017主催者展示「平野レミのキッチンガーデン~レミ・アン・ローズ~」デザイン施工の実績をもつ方です。植栽担当は「(株) M’ S PLANNING」代表の溝口望さん、構造担当は「髙建興業」代表の髙橋透さんです。
数年前からヨーロッパで盛んに取り上げられている、人気のインテリア・スタイルがあります。それが「JAPANDI-ジャパンディ-」。これは「ジャパン」×「スカンディナヴィア」を意味していて、北欧風のシンプルでモダンなテイストをベースに和の要素、たとえば和紙や畳や障子を取り入れたスタイルを指します。
どちらもシンプルでミニマル、自然素材を多く使い居心地の良い空間を作り出すという共通点の多いインテリア・スタイルです。
これをガーデン・スタイルでも表現してみようという試みが今回の「緑縁」のコンセプトです。見どころと、実際の庭に取り入れやすいアイデアをいくつか紹介します。
1、居心地の良い、人の居場所をつくる
▲人が憩う場所を定めるところからガーデンデザインを決める
北欧スタイルのメインカラーは白・グレー・ベージュなどのシンプルな色が中心です。枠組みだけのガーデンハウスも屋根と柱が白、入り口が木のベージュ、床がグレーになっています。
アクセントに取り入れた和テイストは、籠のランプシェード。右奥に置かれたランプシェードも籠製です。
アウトドアリビングとして人が気持ちよく過ごせる場所をまずつくれば、そこからの眺めや光の入り方を考えることで、ガーデンデザインをまとめやすくなります。
▲気になる視線を上手くそらすガーデンウォール
居心地の良い場所をつくるために取り入れたいのが、ガーデンウォールです。これは、人の視線を適度に遮る役目をもちます。
ガーデンウォールの色はグレイッシュな白ですが、決してコンクリートブロックでないところがミソ。緑縁のガーデンウォールは経年でウエザード(風化した感じ)した白く塗った木のような風合いですね。
▲庭で憩う場所はベンチでもいい
ガーデンウォールの内側には長いベンチがあり、これも居心地の良い居場所となります。ガーデンハウスのように大掛かりなものはムリでも、これくらいの小さな場所なら、どんな庭でも取り入れられそうですね。
2、ボーダー花壇に花色を統一した植物を
▲花壇以外の空間を広く取り、花色を限定する 写真提供/天女の舞子
緑縁の庭では、庭のスペースに対して植栽スペース(花壇)は狭いめです。庭を取り囲むようにボーダー花壇があり、その中はほとんど緑の芝生。
ガーデンデザイナーの小林裕子さんによると「花で溢れた庭は美しいけれど、管理には時間も手間もかかります。植物に慣れてない方は負担に思ってしまうでしょう。だから植物の世話はほどほどに、だれでも庭で過ごす時間を楽しめるように」と考えられているのだとか。
じつは中央に植わっているシンボルツリーはしだれ柳です。これも和テイストですね。緑縁のしだれ柳は輸送のためか、あまり葉がありませんでしたが、葉が茂ったしだれ柳は緑のレースカーテンのように軽やかに視界を遮りながらも存在感があるので、とても素敵だと思います。
花壇の花色はほぼ紫と白で統一されています。丸い花をつける「アリウム・ギガンチウム」が庭に楽しいリズムをつくっています。アリウム以外は「ニゲラ」や「スカビオサ」、「アルケミラモリス」「シダ」など。「バラ」もあります。
石積みの左右に咲かせている濃い紫色のバラは「ミステリューズ」かな? ステキな花色ですね^^
小さいボール状の黄色の花を咲かせる「クラスペディア」(ゴールデンボール)も、少し見かけました。黄色みの強い葉のアルケミラモリスとバランスを取っているのでしょう。
そういえば「シダ」って、最近少し人気が出てきています。繊細な葉が好まれて、イングリッシュガーデンでは以前からよく使われていたそうですが、日本でも感度の高い人を中心に取り入れられるようになってきています。緑縁で使われていたのは「クサソテツ」のようです。
3、ナチュラル感を盛り上げる石や枯れ枝使い
▲存在感ある自然の石積み壁 写真提供/天女の舞子
緑縁にはナチュラル感を盛り上げるアクセントがいくつもあります。
まず目を引くのがガーデンハウスの奥にある自然の石積みの壁です。じつはこの壁「ドライストーンウォーリング」(英国式石積み)という技法で作られていて、自然の石をハンマーで形を整えながらモルタルなどの接着剤を使わずに積まれています。
イギリスのコツウォルズ地方は景観の美しい田舎として知られていますが、どの家の壁も庭を囲む塀も畑の仕切りも橋も、同じ蜂蜜色の自然石を積み上げて作られています。そのため景色に統一感があり、明るくのどかな雰囲気がするのです。
その技法を用いた石積みの壁は、ナチュラル感を盛り上げる最高のアクセントです。日本のどこかの田舎の塀が、ブロック塀ではなくすべてこの石壁だったら、どんなにステキだろうと想像してしまいます。(北海道の銀河庭園のポタジェがそんな感じですよ^^)
▲自然石を立てて並べる方法ならマネしやすい 写真提供/天女の舞子
花壇の縁取りに薄い自然石を立てて並べるこんなアイデアも、ぐっとナチュラル感を盛り上げてくれます。これなら石さえ入手できれば、自分の庭にも取り入れられそうです。
▲枯れ枝の柵や薪もナチュラルなアクセント 写真提供/天女の舞子
シンボルツリーのしだれ柳の根本は、枯れ枝で組んだ小さな柵で囲んであります。
枯れ枝の柵は、見た目も美しくデザインするポタジェ(フランス風家庭菜園)でよく見かける手法です。ちょっと鳥の巣のようにも見えて可愛らしいですね。
庭のフェンス、 枝編み細工品庭の柵、休日の装飾ペットを防ぐ庭を守り、丈夫な柵インストールが簡単、季節を問わず ljianw (Color : Brown, Size : 35X60CM)
ポタジェ人気のためか、既製品も見つけました。本来なら自分で集めた木の枝を編んで作りますが、現実には枝を集めるのも苦労します。その点、既製品なら気軽に取り入れられますね。壁際に置かれた薪も、ナチュラル感を盛り上げるアクセントになっています。
庭づくりの参考にしてください。
パリの小さな秘密の空間-Petit jardin secret parisienes-
▲パリの一角を再現した展示 写真提供/天女の舞子
次に紹介するのは、パリ出身のフラワーデザイナー、ローラン・ボーニッシュさんが手がけた「パリの小さな秘密の空間」という展示です。花が大好きなパリっ子が暮らす、石造りのアパルトマン(集合住宅)の一角が再現されました。
パリの街並みは19世紀後半から20世紀初頭に建てられた古い石造りの建物が多く、内装こそリフォームで快適に生活できるようになっていますが、外観は昔のままの古びた雰囲気が残ります。
ローラン・ボーニッシュさんは、そんな古びた石造りの空間に植物をセンスよく配置することで、見た目におしゃれで居心地の良い住空間を作り上げました。
シチュエーションとしては、パリの重厚なつくりの門の内側にあるアパルトマンの中庭。写真手前側は通路、右側は小さな部屋で左側はテラスという構造。テラスにはさまざまな植物の鉢が配置されていて、中央には作業台があります。ここで、ボーニッシュさんのフラワーアレンジメントの実演が行われました。
日本で石造りの古い洋館にお住まいの方は稀でしょうが、この雰囲気を自宅に取り入れたい方は多いでしょう。そんな方の参考になりそうなポイントをいくつか紹介します。
1、葉の質感と花色を厳選した植物をチョイス
▲乾いた質感の葉をもつオリーブを窓の左右に 写真提供/天女の舞子
まず植物の選び方にこだわりが感じられます。花よりも葉ものが多く、それぞれの質感や色味が厳選されているのが分かります。
窓の左右に配置してあるのはオリーブの木です。フォーマル感を出すトピアリー仕立てにする方法もありますが、今回はナチュラルな形のままです。鉢栽培なら大きくなりすぎないし剪定作業もしやすいので、サイズを保ちやすいメリットがあります。
オリーブの葉はやや白っぽい乾いた質感で、石造りの壁によく似あいますね。
窓枠に並べられた小さな観葉植物(おそらく「アジアンタム」)も可愛らしい。風景にリズム感が出ます。こういう場所はつい花咲く植物を飾りたくなりますが、観葉植物を並べることで、より洗練された雰囲気になっています。
▲花色は紫と白に絞って 写真提供/天女の舞子
テラスに置かれているのは、写真左側にバラ、ローズマリー、グラス類。右側には実のついたビワとガーデンチェアに載せたラベンダーです。
ビワはとても意外でしたが、おそらく実のなるものを配置したかったのでしょう。パリならイチジクなんかがポピュラーだと思います。ビワは実ると黄色くなりますが、イチジクなら赤紫色になるので、全体の配色にもぴったりです。
花色は白と紫で統一されています。バラの品種は分かりませんが、濃いモーブピンクのシュラブが選ばれています。ついつい、さまざまな色のバラを育ててしまいたくなるロザリアンには、ここまで花色を絞るのは難しそうですが──。
2、さまざまな鉢の色と質感をセンスでまとめ上げる
▲黒とこげ茶をベースカラーに 写真提供/天女の舞子
続いて参考にしたいのが、鉢の選び方です。さまざまな鉢を組み合わせていますが、色や質感がしっかり厳選されています。
ベースカラーは黒と、建物の壁の色によく似た白っぽいこげ茶。そこにグレーや籐素材、少しだけ明るい色のテラコッタを入れ、さらに鉢の大小をリズミカルに配置することでセンスの良い空間にしています。
中央に黒い木の台を置くことで、ぐっとメリハリが効いています。これは真似したいポイントですね。
3、乾いた質感を取り入れる
▲ナチュラルドライフラワーが雰囲気づくりに一役 写真提供/天女の舞子
室内は2つのシチュエーションに分かれています。建物の右側、つまり出入口から見える側は、ナチュラルドライフラワーと古びた木の棚が印象的な空間。
手前の椅子に置いてあるのは、グラス類のナチュラルドライフラワーをアレンジしたもの。まるで草花が自然に立ち枯れた秋の野のよう。壁に下がっているのも、ナチュラルドライフラワーです。おそらくピラミッドアジサイの花穂でしょう。
古びた木の棚に並んでいるのは、アンティークな薬瓶を花器にした茶系のバラたち。日本のわびさびにも通じるひなびた味わいです。
4、グレーで重厚感を軽減させ現代的に
▲ダイニングテーブルはステンレス製 写真提供/天女の舞子
窓から覗ける左側の室内は、ダイニングスペースです。驚いたのが、大理石でも木でもないグレーのステンレスのテーブルが、クロスなしで置かれていたこと。窓枠もグレーで、この空間にグレーが上手く取り入れられているのが分かります。
インテリアでは数年前からグレーが流行っていて、パリのアパルトマンを再現したこの展示でもそれが意識されているのでしょう。
銀器やシルバーのカトラリーを使いながらも、重厚になりすぎず軽やかで現代的な雰囲気になっていると思います。ちなみに、ブルーアンドホワイトのお皿はボーニッシュさんお気に入りの私物だとか。
ほかにもマネしたいポイントはいろいろあります。探してみてください!
青い胡蝶蘭とジャパンフラワーセレクション(JFS)
▲目にも鮮やかな青紫色の胡蝶蘭 写真提供/天女の舞子
ジャパンフラワーセレクション(JFS)とは、2006年にスタートした、日本における統一的な花の新品種のコンテストです。アメリカには「オールアメリカセレクションズ」(AAS)、ヨーロッパには「フロロセレクト」(FS)があり、JFSはアジア圏初の花の新品種コンテストとなります。
JFSにはさまざまな賞がありますが、最優秀賞を獲得した花に「フラワーオブザイヤー」の称号が贈られます。会場には「フラワーオブザイヤー2022」を獲得した青い胡蝶蘭「ブルージーン」が展示されていました。
ハッキリした美しい青紫色は、ツユクサの青遺伝子を遺伝子操作で定着させたものだそう。目の覚めるような美しい青紫色が神秘的で、近寄りがたいオーラすら感じました。どなたも一度は観ていただきたい美しさです!
バラでも、これくらいインパクトのある青バラができるといいですね。
▲JFSに出品された花々 写真提供/天女の舞子
会場にはJFSに出品された各ナーセリー自慢のさまざまな切り花や鉢花が並んでいます。日本で開発された花は、その品質の高さから、輸送コストを上乗せしてもなお世界で十分戦える実力があるとして注目されています。
そんな高品質な花たちが見られるのはとても貴重な体験です。気になった出品花をいくつか紹介します。
1、ストロベリーカメレオン(色変わりが楽しい鉢バラ)
▲花色を変えながら1カ月以上花が楽しめる 写真提供/天女の舞子
まず鉢花から。
一見、なんてことないピンクのバラに見える「ストロベリーカメレオン」は、花色の変化がおもしろいバラです。濃いピンク→淡いピンク→ベージュ→白とカメレオンのように花色を変えながら1~2カ月も花が楽しめるという鉢バラです。
前回の切りバラのところで紹介した「ベイビーカメレオン」は同じコンセプトの淡いピンクの品種。「ベイビーカメレオン」にも鉢バラがあります。実際に育ててみたくなりますね。
2、アイフクシマ(「プリンセスダイアナ」の色変わり)
▲新枝咲きの愛らしいクレマチス
鮮やかな紅色にピンクの覆輪がかかる人気のクレマチス「プリンセスダイアナ」の枝替わり品種「アイフクシマ」。ピンクに白の覆輪が入る花色で、花付きの良さや育てやすさは「プリンセスダイアナ」譲り。新枝咲きのとても愛らしいクレマチスです。
3、カリブラコア「ティックトックブルー」(ペイントしたようなユニークな花色)
▲ペンキで黄色い線を書いたようなユニークな花 写真提供/天女の舞子
ペチュニアのような花を咲かせるカリブラコアは、ペチュニアよりも豊富で色鮮やかな花色が特徴です。
「ティックトックブルー」は、まるでペンキで塗ったような黄色い細い線がユニーク。この線を時計の針に見立てて「ティックトック」(チクタク)と名付けられたようです。
4、スプレーバラ「ペシェティーク」(淡い花色がブライダルにぴったり)
▲ピンク~ピンクベージュの柔らかなグラデーション
ここからは切り花です。
中心が淡いピンクやピンクベージュに染まるミルキーホワイトのバラ。ボレロをより色乗りよくしたような可愛らしいスプレーバラです。「ペシェ」(peche)はフランス語で「桃」の意味。ミルラの強香があります。
この柔らかい色味はブライダルブーケにぴったりだと思ったら、品種紹介に「ブライダルに最適品種」とありました。ガーデンローズでも育ててみたいバラですね^^
5、クチュールブラッシュ(ゴージャスな大輪菊)
▲大輪菊には日本の美意識が凝縮されている
花びらの表が紅色で裏が黄色味のベージュ。両方の色が重なり合うことで、金色に魅せる日本で古くからあるゴージャスな花色の菊です。
菊は日本人にとって見慣れた花ですが、それでも会場で圧倒的存在感を放っていました。日本の素晴らしい大輪菊を、ゼヒ海外に輸出してほしいと思いました。
まとめ
2回にわたってお届けした「横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2024」。2回目の今回は見どころが多かったので、やや長くなりました。これ以外にも、アジサイの特別展やガーデニングコンテストのもよう、各ブースやステージイベントの紹介など、書ききれないほどさまざまに楽しめるイベントでした。
イベント全体のコンセプトはまとまってきているので、このまま来年以降も続いてほしいですね^^ 照明の問題など、少しずつ改善してもらえると嬉しいです。
今回のイベントは「国際バラとガーデニングショウ」に比べて華やかさは控えめで、全体にシックに大人っぽくまとめられていました。ウエルカムガーデンもショーガーデン「緑縁」も、ローラン・ボーニッシュさんの展示も花色は紫と白。ガーデニングコンテストも、どれも似た控え目な花色ばかりなのがやや気になりました。今のトレンドなのでしょうか。
バラの新品種も全体に地味~でしたし・・・。
わたし個人としては、やはり会場に入ってすぐワァッと気分が高揚するような華やかさが欲しいです。来年に期待しましょう^^
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