今年は雪に恵まれた冬で、テレビでは連日、真っ白に雪化粧した景色を見かけます。生活するには大変なことが多い雪ですが、間違いなく美意識を育む糧です。そんな美意識から生まれた言葉「雪中四友」を紹介します。


「雪中四友」は、文人画に好まれた画題

国には職業画家の描いた絵を技法に走ったものとして批判し、文人(学問を修め文章をよくする人)が描いた絵を精神性が表出したものと高く評価する考えがあります。「雪中四友」(せっちゅうのしゆう)は、文人画に好んで描かれた早春に咲く梅、蝋梅(ろうばい)、水仙、山茶花(さざんか)の4つの花をさす言葉です。

 

「東洋画題綜覧」には次のように説明されています。

雪中四友とは、玉梅、臘梅、水仙、山茶をいふ、何れも雪中、厳寒を冒して開き香気馥郁たるものだからである。

 

確かに梅も蝋梅も水仙も寒雪に耐えて早春に咲く、香りのよい花です。山茶は中国では椿類一般をさしますが、椿に香りはないので、山茶花をさすとされることが多いようです。

 

「雪中四友」の語源は中国ですが、どれも日本人に愛されている花です。それぞれの花について簡単に紹介します。

 

一輪の暖かさを灯す「梅」

ラ科サクラ属の落葉高木の梅は、早春を代表する花として古くから日本人に愛されています。花の色は白、淡いピンク、濃いピンクがあり、八重咲きの園芸品種もあります。爽やかな花の香りがします。

 

かつて日本では「花」といえば「桜」をさしていましたが、奈良時代に中国から梅が輸入され平安貴族に好まれたことから「花」といえば「梅」をさすようになったそうです。さらに江戸時代になり桜の花見が流行したことからまた「花」といえば「桜」をさすようになったのだとか。

 

梅は、好文木(こうぶんぼく)、春告草(はるつげぐさ)、木の花(このはな)、初名草(はつなぐさ)、香散見草(かざみぐさ)、風待草(かぜまちぐさ)、匂草(においぐさ)と、さまざまな別名で呼ばれることもあり、いかに梅が日本の文化に根差した花かが分かりますね。

 

梅を詠んだ有名な俳句をひとつ。

 

梅一輪 一輪ほどの 暖かさ

蕉の弟子、服部嵐雪(はっとりらんせつ)が詠んだものです。

 

寒さを耐えて梅が一輪ほころんでいる様子に、気持ちがほっとなごむ一瞬を読んだ句です。ただの情景描写ではなく、そこに作者の心の動きが表現されているところが素晴らしいですね。今の季節にぴったりです。

 

梅の観光名所は「偕楽園」(茨城県水戸市)、「羽根木公園」(東京都世田谷区)、「北野天満宮」(京都市上京区)、「越生梅林」(埼玉県越生町)など。

 

冷ややかな香りの「蝋梅」(ろうばい)

梅は、ロウバイ科、ロウバイ属の落葉低木です。早い品種なら12月から、遅い品種でも2月に、半透明でツヤのある黄色い花を咲かせます。「唐梅」(からうめ)、「南京梅」(なんきんうめ)の別名があります。

 

花径2cmほどの小さな花をうつむき加減に咲かせるので、華やかさはありませんが、よく見ると蝋細工のような花がとても愛らしい。なによりその香りは素晴らしく、花に気がつかなくても香りで近くに蝋梅が咲いていることに気づくほどです。

 

写真のように花びらの細い「ソシンロウバイ」の他に、丸い花びらの「マンゲツロウバイ」や、細い花びらで芯が赤い「ワロウバイ」などの品種があります。

 

俳句の世界では、蝋梅は、晩冬(1月6日ごろ)から立春前日(2月3日ごろまで)の季語とされています。

 

蝋梅を詠んだ俳句をひとつ。

 

蝋梅や 雪うち透す 枝のたけ

者は芥川龍之介です。芥川龍之介は蝋梅に思い入れがあったようで、蝋梅の詩や句がいくつもあります。龍之介は蝋梅の香りを「冷ややかにしみ透る匂」と表現しています。確かに甘いだけでない、どこかヒヤリとした香りですよね。さすがです。

 

蝋梅の観光名所は「上永野 蝋梅の里」(栃木県鹿沼市)、「ろうばいの郷」(群馬県安中市)など。

 

雪を思わせる花と香り「水仙」

イセンは、ヒガンバナ科スイセン属の多年草です。水仙には白花、黄花、ラッパスイセンなどの種類があります。写真の日本水仙は、古い時代(室町時代以前)に中国から渡ってきて日本に自生している水仙です。垂直に伸びる細い葉と、きりりと引き締まった印象の花、そしてすがすがしい香りがする、個人的に大好きな花です。木の花ではなく草花なので、いかにも雪を割って出てくる、春を連れてくる花というイメージがあります。

 

一説によると、中国の長江下流域に自生していた水仙の球根が海に流れ、日本に漂着して根付いたのではないかとされる「漂着渡来説」があるそうです。水仙自らが望んで日本にやってきたような、面白い説ですね!

 

水仙は俳句の世界では「晩冬」の季語です。

 

水仙の 香やこぼれても 雪の上

戸時代の加賀の俳人、千代女(ちよじょ)の句です。雪の中から顔をだして咲いている水仙の姿と香りが浮かびますね。

 

水仙の観光名所は、「江月水仙ロード」(千葉県安房郡)、「爪木崎」(静岡県下田市)、「水仙の里公園」(福井県福井市)、「灘黒岩水仙郷」(兵庫県南あわじ市)など。

 

はらはらと花びら散らす「山茶花」

は中国語で椿類一般をさします。サザンカという名称は、「山茶花」の漢字表記をそのまま読んだ「さんさか」がなまって「さざんか」となり、定着したと言われています。山茶花はツバキ科、ツバキ属の常緑広葉樹で、秋の終わりから冬にかけて開花します。色は白、ピンク、赤。

 

椿とよく似た花ですが、椿の花が花の形を残したまま落ちるのに対して、山茶花の花は花びら一枚ごとが散ります。椿は花びらの付け根あたりが立ち上がり、つぼんだ形に咲くのに対して、山茶花花びらの付け根が水平になり平たく咲きます。

 

ただし品種改良が進み、椿と山茶花の交配品種もあるので、一見して椿か山茶花か見分けられないものも多くあります。

 

「雪中四友」は寒い季節に咲く香りの良い花ということですが、はたして山茶花に香りはあったかなぁ──と思って、近所に咲く山茶花に顔を寄せてみたけれど、まったく香りませんでした。でも、検索してみると、多くの方がよい香りがすると書いています。もしかしたら品種により香りの良いものがあるのか、または咲き始めの花なら香るのかもしれませんね!

 

山茶花は冬の季語です。

 

山茶花を  雀のこぼす  日和かな

岡子規の句です。山茶花の花びらがはらはらと散る様子を、花の間を雀がちょこちょこ飛び回ってでもいるようだと見立てた句なのだそうです。山茶花は椿と似ているけれど、散り方が違うところを巧みに表現したのでしょうね。

 

山茶花といえば、童謡の「たきび」を思い浮かべる方も多いでしょう。椿のようにやや厳しい表情がなく、山茶花はどこかのんびりとした大らかさを感じさせる花です。

 

まとめ

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今回は寒い季節に気丈に咲く4つの花を紹介しました。どれも花の少ない季節の貴重な彩りですね。寒い中でも咲く健気さだったり、寒さに縮こまった気持ちをふっと和ませてくれる優しさだったり、香りのすがしさだったり。花の美しさだけでない心に響くものを秘めたところが、中国の文人たちに好まれたのでしょう。日本でも、多くの先人が俳句にその姿や香りを留めています。

 

寒さをものともせず咲く4つの花たち。この機会にぜひ「雪中四友」という言葉を覚えてくださいね。この花たちを先駆けに、今年も花の季節はゆっくりと巡ってきます!

 

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