関東では他に先駆けて桜の開花宣言が出されました。これからしばらく日本は桜・桜の毎日です。お花見に出かける方も多いと思いますが、桜のこと、どれだけ知っていますか? 今回は、桜にまつわる知っているとちょっとハナタカになれるカモしてないトリビアを厳選して12個ご紹介します!
1、桜の原産地は、なんとヒマラヤ!
日本には山桜や大島桜などの基本的な9種類の野生種を中心に、その自然交雑種や変異種を合わせると100種類以上の桜が自生しています。さらに園芸品種は200種類以上の品種があります。まさに桜大国ともいえそうな日本ですが、じつは原産地は日本ではないようです。
桜の原産地については諸説ありますが、1975年に発刊された『櫻大鑑』の第3章には、次のように書かれています。
古くからヒマラヤの東部と日本の植物相が似ているといわれているが、サクラもその例外ではない。サクラだけについてこれを地史学的に考えれば、サクラの故郷はむしろ日本よりもヒマラヤであると称してもよいのではあるまいか。ヒマラヤは現在の中国、朝鮮半島、日本と一連の地続きの時代があり、ヒマラヤのサクラが日本に東進して、そこで種類の分化が盛に行われ、今日では本元を凌いでサクラでは世界で第一という状態になったと考えられる。
著者の本田正次氏の推測ですが、おそらくヒマラヤが原産地だろうということですね。なにしろ日本がまだ大陸と地続きだった頃の話ですから、推測するしかないのですが、さまざまな状況からそう考えられるようです。
ヒマラヤには「ヒマラヤザクラ」(Prunus cerasoides)と呼ばれる桜があり、現在もインドやビルマなどに自生しています。約30mにもなる高木の樹木で、日本の桜とはやや趣が異なります。
「ヒマラヤザクラ」には何種類かの桜がありますが、そのうちの1種類は日本でも見られます。ネパール王室のビレンドラ元国王から贈られたものが熱海市の静岡県立熱海高等学校の法面に植樹されているのです。ほかに小石川植物園などにもあります。花は12月ごろに咲きます。
ちなみに桜はバラ科です。
2、桜の語源は神さまに由来する!
桜の語源にも諸説あるようですが、そのうちの2つの説を紹介します。
その1、木花咲耶姫に由来する
古事記や日本書紀に登場する女神「木花咲耶姫」(コノハナサクヤビメ)の「サクヤ」の部分が「サクラ」に転化したと言われています。
木花咲耶姫は霞に乗って富士山の上空までのぼり、花の種をまいたと伝承されており、その種から咲いた花が木花咲耶姫の名前から「サクラ」と呼ばれるようになったというのです。
木花咲耶姫を祀る神社は日本各地にあります。そのうちのひとつ、富士山をご神体として祀る富士山本宮浅間大社では、祭神とする木花咲耶姫にちなんで境内に約500本の桜の木が奉納されています。
その2、「さ」の神さまに由来する
もうひとつは、元慶應義塾大学名誉教授の西岡秀雄氏の説です。
古事記や日本書紀に書かれた神さまよりもっと以前、縄文、弥生時代に信仰されていた神に「さ」の神さまがいます。
「さ」の神さまをあらわす言葉は、現在でもたくさん見つけられます。たとえば、神奈川県は古い呼び名で「相模の国」といいますが、相模は「さ」の神をあらわしています。坂は「さ」の神さまが下りてくる道、酒は「さ」の神さまに供えるもの、五月(さつき)は「さ」の神さまに下りていただく時期。
「さ」の神さまとは「山の神」で、いつもは山にいて、田んぼ仕事に関わる時期に山から下りてくるとされています。
桜の「さ」は「さ」の神さまをあらわし、「くら」は「座するところ」(鞍)という意味をもち、「サクラ」は「さ」の神さまが座する場所であるというのです。
つまり、桜には「さ」の神さまが宿っていて、「さ」の神さまにお酒を捧げて寿ぐのが花見の由来であるとされています。
3、ソメイヨシノは復興のシンボルだった!
日本の桜は、大きく2種類に分かれます。自然に自生している「山桜」と、観賞用に人工的に品種改良して作られた「里桜」です。
桜の品種改良は、古くは平安時代から行われていて、江戸時代には盛んに品種改良がされました。現在では300品種以上の桜があるそうです。「ソメイヨシノ」も、江戸時代末期に作り出された品種です。桜の品種改良の長い歴史からみれば、ソメイヨシノはかなり新しい品種といえますね。
ソメイヨシノは、江戸の染井村(現在の豊島区駒込あたり)に住む植木屋が作り出した園芸品種で、当初は「吉野桜」という名称で売り出されました。江戸末期の当時でも奈良吉野の桜は有名な観光地で、植木屋は「江戸にいながら吉野の桜が見られる」と宣伝し、人気になったようです。現代のように便利な交通手段もなく、写真やましてやネットなどない時代ですから、江戸の人たちは「これが吉野の桜かぁ!」と喜んだのでしょうね。
でも、奈良吉野の桜は「山桜」なので、「ソメイヨシノ」とはまったく違った桜なんですけどね! 後に紛らわしいとして「吉野桜」は「染井吉野」と名前が変更されました。
ソメイヨシノは生長が早く10年ほどで立派な木に育つこと、大ぶりの花びらが美しいこと、強健で手入れが楽なことなどから、明治の初めから上野の山や靖国神社をはじめ日本中の城跡や軍事施設に植えられました。戦後は公園、道路、学校などの公共施設に次々と植えられました。その結果、現在の日本の桜のなんと8割がソメイヨシノになってしまったのです。
明治の初めに上野にソメイヨシノが植えられたのは、幕末の戊辰戦争で焼け野原と化した上野の山を復興するためで、戦後にソメイヨシノが植えられたのも、やはり戦後の復興が目的でした。早く育って大きな花を一斉に咲かせるところが復興に適しているとされたのでしょう。ソメイヨシノは復興のシンボルだったのです! 東日本大震災でも、積極的に桜が植えられています。
4、ソメイヨシノの簡単な見分け方
お花見に行って、さてこの桜はなんという桜だろう? という話題でハナタカになれるトリビアです。日本の桜の8割がソメイヨシノなので、ソメイヨシノを見分けるポイントを紹介します。
Point1、「ソメイヨシノ」は花の時期に葉がない
▲ソメイヨシノは花が咲いているときに葉がない
ソメイヨシノの特徴は、葉っぱよりも先に花が咲くことです。このため木全体が花で埋め尽くされ、まるで綿菓子のような淡いピンク色に染まるのですね。
葉っぱよりも先に花が咲く性質は、片親の江戸彼岸系統の桜から受け継いだものです。
江戸彼岸桜はソメイヨシノよりも1週間~10日早く咲き、花がソメイヨシノよりも一回り小さい(ソメイヨシノは花径約4cmなのに対して江戸彼岸桜は花径2~2.5cmです)、さらに樹高がソメイヨシノが10~15mほどに対して彼岸桜は15~25mと高くなるので区別することができます。
▲満開の河津桜。ソメイヨシノよりも濃いピンク色をしている
他にも葉っぱよりも先に花が咲く桜でよく見かけるのは、河津桜などの寒桜の系統の桜です。河津桜は2月下旬から花を咲かせるので、ソメイヨシノとはっきり区別することができます。さらに河津桜は濃いピンク色なので間違えませんね。
Point2、「ヤマザクラ」は花と同時に若葉が出ていて、花柄が赤い
▲赤い若葉と同時に花が咲いている「ヤマザクラ」
山桜には基本となる9品種と、それらの自然交雑品種を合わせると100品種もの種類があります。その中で比較的よく見かける「ヤマザクラ」とソメイヨシノの区別のしかたを紹介します。
ヤマザクラは花だけを見ればソメイヨシノとよく似ていて、咲く時期も重なるので、間違いやすいのですが、ガクとそこから続く花柄が赤いので見分けることができます。
またヤマザクラは花と若葉が同時に出ます。咲き始めたばかりの頃に赤い若葉が出ていれば、それはソメイヨシノではなくヤマザクラです。花が密集せず、ぱらぱらっと軽やかな花つきなところもソメイヨシノと異なります。
Point3、大島桜は花と同時に若葉がでていて、すっきりした白い花
kyoto_sakura13 / zaimoku_woodpile
大島桜はソメイヨシノの片親なので、花の咲く時期や花の形がそっくりです。でも大島桜はすっきりとした白花なので区別することができます。
大島桜も花と同時に葉が開くので、花の時期に葉っぱがあるかどうかでも区別できます。大島桜の若葉は、ヤマザクラとは異なり明るい緑色、いわゆる若葉色をしています。
大島桜には桜餅に似た芳香があるのも特徴です。
5、日本最古の桜は樹齢1800~2000年!
「山高神代桜」(やまたかじんだいざくら)
日本でもっとも古い桜は、山梨県北杜市武川町山高の実相寺境内にある「山高神代桜」(やまたかじんだいざくら)です。樹齢は1800年とも2000年ともいわれています。
倭武尊(ヤマトタケル)が東夷征定に赴いた際に植えたものと伝えられています。鎌倉時代には、樹勢が衰えたこの木の回復を日蓮が祈ったところ、見事に復活したという言い伝えもあり「妙法桜」の別名があります。
幹回り10mの堂々とした江戸彼岸桜の古木で、大正11年に国指定天然記念物に指定されました。左右に大きく枝分かれした巨木は、今なお毎年花を咲かせて見事です。
2008年~2009年にかけて国際宇宙ステーションに8ヵ月滞在させた後に帰還した山高神代桜の種が発芽し、2年後には異例の速さで開花したことでも注目されました。この桜は「宇宙桜」と名づけられ、同じ実相寺の境内で観ることができます。
「山高神代桜」を含めて「日本三大桜」に選ばれている巨木も合わせて紹介しましょう。どれも天然記念物に指定されている桜です。はるか昔から日本を見続けてきた桜の巨木、ぜひこの目で観てみたいものです!
「根尾谷淡墨桜」(ねおだにうすずみざくら)
▲淡墨公園の淡墨桜(撮影/Kazutoko)
岐阜県本巣市の淡墨公園にある「根尾谷淡墨桜」(ねおだにうすずみざくら)は、樹齢1500年以上と推定される江戸彼岸桜の巨木です。散り際に淡い墨色を帯びることから「淡墨桜」の名がつけられました。胴周り9.91mで、枝がよく茂り、満開時の様子は素晴らしいの一言です。
『日本書紀』で男大迹王(をほどのおおきみ)、『古事記』で袁本杼命(をほどのみこと)と記される継体天皇(けいたいてんのう)が植えたと伝えられています。
1922年(大正11年)に国の天然記念物に指定され、作家の宇野千代が保護を訴え活動したことでも知られています。
「三春滝桜」(みはるたきざくら)
福島県田村郡三春町にある「三春滝桜」(みはるたきざくら)は、樹齢1000年超と推定される紅枝垂れ桜(べにしだれざくら)の巨木です。枝垂れ桜としては日本最大・最古の桜で、満開時には桜の花がピンク色の滝のように見えることから「滝桜」の名があります。
幹周り11m、樹高12mの堂々とした巨木で、東日本大震災でも大きな損傷はありませんでした。
6、香りの良い桜もある!
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ソメイヨシノにも香りがあるそうですが、ごく弱いので普通はまったく香りを感じることができません。大島桜を代表とする一部の山桜(自生種の桜)には、強い芳香をもつ品種があります。それらを交配して作られた香りのよい桜は「匂い桜」と呼ばれています。
匂い桜の代表品種は「駿河台匂い」「御所匂い」「八重匂い」「千里香」など。江戸の駿河台(現在の千代田区駿河台)に咲いていたので「駿河台匂い」と命名された桜は、明治以降に一度は姿を消しましたが、今では地元住民の努力で桜並木が作られています。
駿河台匂いの桜並木は、御茶ノ水駅の聖橋口を出て小川町に向かい、ニコライ堂を右に見て本郷通りの坂を下ると、三井住友海上火災保険株式会社ビルの南側、駿河台道灌道にあります。鼻を近づけなくても通りかかっただけではっきり分かるほど強い香りです。
7、八重桜は、なんと奈良時代からある!
Sakura, Cherry blossom Fugenzo, 桜 普賢象 / T.Kiya
桜といえばほとんどの方が一重咲きの桜を思い浮かべるでしょうが、八重咲きの桜もあります。「通り抜け」で有名な大阪造幣局の桜はほとんどが八重咲き品種です。八重咲きの桜はソメイヨシノよりも開花が遅く、ソメイヨシノが散ってから咲き始めます。
八重咲きの桜は、近代になってつくられた新しい園芸品種だとばかり思っていたのですが、じつはその歴史はソメイヨシノよりもずっと古く奈良時代からあるのだそうです!
「いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな」(伊勢大輔)
小倉百人一首にも選ばれているこの歌の意味は「その昔は奈良の都に咲いていた八重桜が、今日はこうして九重の都(宮中)で、香りを漂わせています」。この歌から奈良時代にもう八重桜があったことが分かりますね。
現在よく見られる八重桜は「関山」(かんざん)、一葉(いちよう)、「普賢象」(ふげんぞう)、八重紅枝垂れ(やえべにしだれ)などです。なかでも上の写真の「普賢象」は、室町時代の文献にも登場する古い品種です。
8、黄色い桜や緑色の桜もある!
Ukon: Cherry Blossoms (Ueno, Tokyo, Japan) / t-mizo
黄色い桜も緑色の桜も八重咲きの桜です。同じ時期に咲くので、同時に観ることができます。
黄色い桜は「鬱金桜」(うこんざくら)という品種です。黄色といってもごく淡い上品な黄色で、咲き進むとピンク色を帯びてきます。色の変化も美しいということで「美人桜」の別名があります。
カッパのCMでおなじみ京都伏見の酒造会社「黄桜酒造」は、創業者が「鬱金桜」をことのほか愛していたので清酒に「黄桜」と名づけて販売したのが始まりです。女のカッパがやけに色っぽいのは「美人桜」の別名からの影響なのかもしれないですね!
緑色の桜は「御衣黄」(ぎょいこう)という品種です。咲き始めは明るい緑色で、次第に緑色は薄れて黄緑色、淡い黄色を経て、次第に赤みを帯びてきます。咲き始めを遠くから見ると、木全体が緑色で、花が咲いていると気がつかないかも知れません!
9、桜はもともと、秋に咲く花だった!?
秋に咲く桜というと、それなりの年齢の方なら山口百恵さんが歌った名曲「秋桜」の歌詞が口をつくかもしれません。でも、コスモスではなく正真正銘の秋に咲く「桜」があるのです。
「十月桜」「子福桜」「四季桜」「冬桜」
「十月桜」「子福桜」「四季桜」は、4月上旬と10月の年2回咲く桜です。
「十月桜」は花弁数10枚ていどの半八重咲きの淡い桜色の桜。「子福桜」は花弁数20枚以上の八重咲きで、花色は白です。1輪の花から複数の実をつけるので「子福桜」と名づけられたのだとか。「四季桜」は花弁数5枚の一重咲き。花色は淡い桜色です。
「冬桜」という品種は春と10月~3月下旬までの2度咲きます。別名「小葉桜」(こばざくら)といい、ヤマザクラとよく似た花を咲かせます。名前の通り葉が6.5cmほどと他の品種に比べて小さいのが特徴です。
狂い咲きでも秋に咲く
台風の影響などで葉が散ってしまうと、そこで冬を迎えたと勘違いしてしまうのか、その後花を咲かせることがあります。これを「狂い咲き」と呼んでいます。狂い咲きにより、本来、春にしか咲かないはずのソメイヨシノが秋に咲くこともあります。
桜はもともと秋に咲く花だった?
「1、桜の原産地は、なんとヒマラヤ!」の項目で触れたように、原産地ヒマラヤには「ヒマラヤザクラ」と呼ばれる桜があります。ヒマラヤザクラが咲くのは秋~冬です。
ヒマラヤザクラと日本の秋咲きの桜には共通点が多いことに着目して、遺伝特性などを調べた結果、東京農大では桜はもともと秋に咲く花で、ヒマラヤから日本にたどり着いた桜が環境変化に対応するために春咲きに変わったのではないか? という仮説を立てています。
つまり十月桜などが秋に咲くのは「先祖返り」ではないか? と、いうのです。
長い年月を経て、動植物が環境に適応していくのは自然の摂理です。この説を唱えているのが東京農大の先生ということを踏まえても、説得力がありますね!
10、桜は縁起の悪い花だった!?
桜の季節に婚礼をしない
桜の花の塩漬けをさっと洗ってお湯に浮かべたものを「桜湯」とか「花湯」といい、その華やかな雰囲気が好まれておめでたい席に出されますが、かつて「桜湯」は縁起の悪いものとしておめでたい席では避けられていた時代がありました。
品種によっては桜の花が散り際になると急速に色があせる様子を「桜ざめ」と呼び、これが気持ちがさめることにつながるとされたのです。桜湯が出されないだけでなく、パッと散るところも縁起が悪いと、江戸初期には桜の咲く季節に婚礼をしないという風習まであったそうです。
これも江戸中期になり、花見をする習慣が庶民に広がると、今度は桜は縁起のいい花と言われるようになったとか!
庭に桜を植えてはいけない
「庭に桜を植えてはいけない」という言葉もよく耳にします。桜は地面に近い浅いところに根を張るので、家の基礎を壊してしまいかねないから、というが第一の理由です。
家の基礎だけでなく、水道管に絡まって問題になることも多いそうです。毛虫などの害虫が多くつくのも嫌われる理由です。庭の桜で花見をしたい──というのは、なかなか実現が難しい夢のようです。
桜の下には死体が~!
「桜の下には死体が埋まっている」なんて言葉もよく聞きますが、これはどうやら大正時代末期から昭和初期にかけて活動した小説家、梶井基次郎の「櫻の樹の下には」が元になっているようです。
原文の一部をどうぞ。
おまえ、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋まっていると想像してみるがいい。何が俺をそんなに不安にしていたかがおまえには納得がいくだろう。
馬のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体、屍体はみな腐爛して蛆が湧き、堪らなく臭い。それでいて水晶のような液をたらたらとたらしている。桜の根は貪婪な蛸のように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を聚めて、その液体を吸っている。
何があんな花弁を作り、何があんな蕊を作っているのか、俺は毛根の吸いあげる水晶のような液が、静かな行列を作って、維管束のなかを夢のようにあがってゆくのが見えるようだ。(梶井基次郎「詩と詩論」1928(昭和3)年12月)
気味の悪い妄想ではあるけれど、満開の桜には、ひょっとしたらそうかもしれないと納得してしまいそうな、人を不安に陥れる狂気が宿っていますよね。そこを的確にすくい上げた梶井基次郎の感性の鋭さは、さすがと思ってしまいます。
11、桜の葉には毒がある!
▲関西風桜餅は一般に「道明寺」と呼ばれる
享保2年(1717年)に、現在の墨田区向島にある長命寺の門前で売り出されたのが始まりとされる桜餅。徳川吉宗の命により隅田川沿いに桜が植えられ、花見客が多く訪れたことで人気になり、これが関西にも広まったと言われています。
桜餅には関東風と関西風があり、ときに関東風桜餅は「長命寺」、関西風桜餅は「道明寺」と呼ばれます。「長命寺」は最初に売り出されたのが長命寺の門前だったことからそう呼ばれるようになったもので、一方、関西風桜餅はもち米でできた道明寺粉を使って作るので「道明寺」と呼ばれるようです。
塩漬けした桜の葉には独特の香りがあり、それが桜餅の重要なアクセントになっていますよね。でもあの香りの成分には毒性があるのです!
桜の葉に含まれる主な香り成分は「クマリン」です。クマリンにはリラックス効果があり、抗菌作用や血液をさらさらにする効果、むくみを予防する効果があります。血栓防止薬にも使われている成分ですが、肝臓に対する毒性が認められていて、長期にわたり多量摂取すると肝機能を弱める恐れがあります。また光感作促進作用もあり、クマリンを摂取すると紫外線で日焼けしやすくなります。
ドイツでは体重1kgあたりクマリン0.1mgの摂取に留めるよう指針が出されています。体重50kgの人なら1日5mgまでです。クマリンはシナモンにも多く含まれる成分で、デンマークが発祥の地とされるシナモンロールの食べすぎへの懸念から調査されたもののようです。
東京都福祉保健局では、1日あたりシナモンを含むお菓子で253.3gまで、サプリメントで1.9gまでを許容範囲としています。普通の食生活でクマリン摂取量が1日5mgを超えることはありませんが、シナモンを含むサプリメントを使用している方は注意が必要です。使用量を守り、多く摂取しすぎないようにしてくださいね!
心配な方は東京都福祉保健局のサイトを参考にしてください!
12、桜は国で定められた国花ではない!
桜といえば日本を代表する花で、なんとなく「国花」だと思っている方が多いかも知れません。でも、じつは国で定められた「国花」ではないのです! たとえばイギリスの国花はバラ、フランスの国花はアイリスですが、かならずしも国花を選定していない国もたくさんあります。
日本の場合も習慣的に桜が国を象徴する花とされていますが、国で定めた国花ではありません。
イギリスの場合は、白バラをシンボルとしたヨーク家と赤バラをシンボルとしたランカスター家が王位継承を巡って争ったバラ戦争(1455年~1485年)の末に、ランカスター家が勝利しヨーク家から妻を迎えて両家が婚姻を結ぶことで決着したという経緯から「チューダー・ローズ」と呼ばれる赤バラと白バラを図案化した紋が王家の紋章となりました。架空の「チューダー・ローズ」は現存しないので、赤バラが国花に選定されています。
フランスの場合は、ブルボン王朝の紋章に3枚の花弁をもつアイリスが使われていたことから、そのまま国花としています。3枚の花びらはそれぞれ「信頼」「知恵」「騎士道精神」を表し神から授かった印とされています。
このように王家の紋章がそのまま国花になることも多く、それを踏まえると日本の国花は「菊」ですよね。でも菊を国花に制定せず、国民に広く親しまれている「桜」も容認しているところが、国としての優しさなのかな、と思います。
まとめ
桜の開花に合わせて、知っているとちょっとハナタカできそうな桜トリビアを12個お届けしました。
さすが日本人とゆかりの深い花ですね。調べてみると次々面白そうな話題が出てきて、選ぶのが大変でした。本当はアメリカに渡った桜に関する話題や、桜の名所にまつわる話題、花見に関する話題、染色の話題など、もっともっとあったのですが。当初は10個に収めようと思っていたトリビア数も、絞り切れずに12個になってしまいました。
おかげですっかり長文記事になってしまいました。読了ありがとうございます。お疲れ様です!