1867年、フランスのギヨーが発表した「ラフランス」から始まるモダン・ローズの歴史は、今年でちょうど150年を迎えます。その節目の年を記念して、第19回「国際バラとガーデニングショウ」では、モダン・ローズの歴史を実際の花で振り返る展示「バラのタイムトンネル」が設置されました。その詳細をレポートします。
「ラフランス」から始まるモダン・ローズの歴史が体感できる歴史旅行!
マーク・チャップマンさんのウェルカム・ガーデンを抜けると、こつぜんと現れるのがバラのタイムトンネルです。今年2017年は、モダン・ローズ第1号の「ラフランス」が誕生して以来、ちょうど150年になります。この節目の年に、モダン・ローズが歩んできたこれまでの歴史を、実際のバラを展示して体感できるようにつくられたのが、このバラのタイムトンネルなのです。
この企画の案内人は、バラの育種家・河合伸志(かわいたかし)さん。バラのタイムトンネル入り口に掲示された河合さんのメッセージを紹介しましょう。
室内や庭園を彩る花として、私たちはバラを日常的に目にします。生花としてのみならず、バラは様々な図柄やモチーフ、香料としても、バラはいたるところで私たちの生活に深く入り込んでいます。
これらのバラの多くはモダン・ローズと呼ばれるもので、わずか150年前に誕生し、そしてその150年間に、人の手によって驚くほど急速に進化し、多様性のある植物になりました。
色彩は黄色のバラの誕生を機に飛躍的に拡大し、花型ではバラとは思えない姿のものまで登場しています。香りのバリエーションも広がり、これほどまでに芳醇で質の高い香りをもつ花は、数多くの園芸植物の中でも無二の存在といえます。
そんなモダン・ローズは、花だけを見比べると、野生バラとはまったく異なる姿になっているのですが、トゲが存在することだけは、150年を経過しても変わりありません。これはトゲをなくすことよりも、人々が花の美に執着して改良してきたということなのかもしれません。
本コーナーでは、モダン・ローズ150年の歩みを、代表的な品種を紹介しながら辿っていきます。(バラ育種家・河合伸志)
「ラフランス」から始まるモダン・ローズの歴史を、バラのタイムトンネルに展示されているバラをいくつかピックアップして紹介します。
1867年、モダン・ローズ第1号の「ラフランス」誕生
フランスのギヨーにより作出された「ラフランス」は、それまでヨーロッパに普及していたどのバラとも異なる特徴をもっていました。
それまでのバラは、ほとんどが春のみの一季咲きでしたが、「ラフランス」は四季咲き性をもっています。春、夏、秋と何度も花を咲かせます。
ブッシュ樹形(木立性)なのも、「ラフランス」の特徴です。それまでのヨーロッパのバラはほぼ枝先が2~3mになるシュラブ樹形(半つる性)やもっと長く伸びるつる性ですが、「ラフランス」は、樹高1.2mほどのコンパクトなブッシュ樹形です。
剣のように尖った花びら(剣弁)も、それまでにない特徴です。
それまでのヨーロッパのバラにない特徴を備えた「ラフランス」は画期的なバラとして注目を集め、「ラフランス」の誕生以来、さまざまな四季咲き、ブッシュ樹形、剣弁咲きのバラが作出されました。「ラフランス」以降のバラはそれまでのバラと明らかに異なった特徴をもっているので、それまでのバラを「オールド・ローズ」、「ラフランス」以降のバラを「モダン・ローズ」と呼び分けています。
「ラフランス」は、モダン・ローズの起点となったバラなのです。
バラのタイムトンネルの入り口は、ブッシュ樹形の「ラフランス」とつる性の「ラフランス」がふんだんに使われ、華やかに飾り付けられていました。
じつは「ラフランス」はダマスク系のすばらしい芳香をもつバラです。多くの方が顔を近づけて、「ラフランス」の香りを楽しんでいました。
▼「ラフランス」について詳しくは、こちらをご覧ください。
1900年、待望の黄バラの親となる品種「ソレイユ・ドール」誕生
それまでのヨーロッパには黄色のバラはなく、白~濃いローズ色までの濃淡のバラしかありませんでした。長らく望まれていた鮮やかな黄色系のバラを、中近東の原種バラをもとに人工交配により作り出した最初のバラが「ソレイユ・ドール」です。このオレンジ色のバラを交配の親として、さまざまな黄バラが作出された歴史的な名花です。
ソレイユ・ドールとは、フランス語で「黄金の太陽」という意味です。まさに、太陽の輝きを思わせるバラですね!
1935年、ベルベット調の花びらをもつ深紅のバラ「クリムゾン・グローリー」誕生
ドイツのコルデスにより1935年に誕生した、深い紅色のバラ「クリムゾン・グローリー」は、多くの赤バラの親となった赤バラの歴史的名花です。花びらにベルベット調の光沢をもつことも大きな特徴です。ダマスク系の強い香りがします。
1939年、20世紀を代表するバラ「ピース」誕生
フランスのメイアンにより1939年に作出され、1945年にアメリカで命名された「ピース」は、花径15cmにもなる巨大輪のバラです。花の美しさだけでなく、花つきの良さ、樹勢の強健さなどから、現在でも世界中で愛されているバラです。ピースを親として作出された品種は300品種近くあります。ピースはモダン・ローズの歴史に画期的な発展をもたらした、20世紀を代表するバラです。
▼「ピース」について詳しくは、こちらをご覧ください。
1956年、青系のバラ第1号として注目をあびた「スターリング・シルバー」誕生
モダン・ローズの青バラ系品種の第1号として、記念すべきバラが「スターリング・シルバー」です。1957年にアメリカのアマチュア育種家によりピースを片親として作出されました。この後に続く青バラの交配親として重要な品種です。ブルー系の強い香りがあります。
1958年、フロリバンダ系統の傑作「アイスバーグ」誕生
中輪の花を房咲きにするフロリバンダ系統のバラの傑作品種「アイスバーグ」は、1958年、ドイツのコルデスにより作出されました。花径7cmの純白の花を房咲きにする様子は、まるで雪が積もったように見えます。樹勢が強く、育てやすい品種です。
▼アイスバーグについて詳しくは、こちらをご覧ください。
1983年、イングリッシュ・ローズの代表品種「グラハム・トーマス」誕生
イギリスの育種家・デビッド・オースティンにより作出されているイングリッシュ・ローズを代表する名花が「グラハム・トーマス」です。モダン・ローズでありながら、オールド・ローズのような丸い花形で人気があります。生育旺盛で、丈夫で育てやすいバラです。
▼「グラハム・トーマス」について詳しくは、こちらをご覧ください。
1988年、クラシカルな花形が根強い人気を誇る「ピエール・ドゥ・ローンサール」誕生
縁にいくほど淡くなるピンク色のディープ・カップ咲きの花を咲かせるつるバラ「ピエール・ドゥ・ローンサール」は、1988年、フランスのメイアンにより作出されました。クラシカルな雰囲気が好まれて、現在でも根強い人気があるつるバラです。
▼ピエール・ドゥ・ローンサールについて詳しくは、こちらをご覧ください。
1998年、天然の香水のように香り立つ強香品種「ナエマ」誕生
フランスのデルバールにより作出された「ナエマ」は、ゲランの香水に由来する名前をもつバラです。その名前の由来どおり、素晴らしいフルーツ香をもちます。すっきりとした淡いピンク色の花も美しく、しかもよく返り咲きし、強健で育てやすいバラです。
▼強香品種について詳しくは、こちらをご覧ください。
2002年、印象派の画家へのオマージュを込めたバラ「エドガー・ドガ」誕生
花径6cmの濃いローズ・ピンクと淡いピンク色の絞りで花の中心が黄色の色鮮やかなバラが2002年、フランスのデルバールにより作出されました。チュチュを広げて踊る作品で知られるパリの画家「エドガー・ドガ」へのオマージュを込めて命名されたこのバラは、波打つ花びらが踊り子のチュチュをイメージさせます。
デルバール社では、「ペインター・シリーズ」として、さまざまな画家の名前を冠したバラを作出しています。
2013年、美しく、香りも良く、育てやすい「シェエラザード」誕生
やや紫がかったローズ・ピンクのバラが木村卓功さん作出の「シェエラザード」です。波打った花びらの先がツンと尖った花形に、ダマスクにフルーツとスパイスをミックスした強香、さらにあまり手をかけなくても丈夫に育つ強健さをあわせもつブッシュ樹形の魅力的なバラです。
左右に並べられたバラを一つひとつ堪能できる、特別なバラのトンネル
エメラルド・グリーンの木枠で作られたバラのトンネルの左右には、今回紹介した12品種以外にもさまざまなバラが展示されています。たとえば世界バラ会議で殿堂入りした「ダブル・デライト」や「パパ・メイアン」「クイーン・エリザベス」などの名花から、遺伝子操作により世界初の青色素デルフィニジンをもつバラ「アプローズ」などの話題のバラまで、一つひとつその花の美しさや香りを確かめながら通り抜けることができます。
トンネルの天井もとても素敵です。こぼれかかるように咲くつるバラが、観客たちを優しく見おろしています。バラ一色に染められた、特別優雅なバラのトンネルでした。
まとめ
モダン・ローズの祖「ラフランス」が誕生してからちょうど150年の今年、モダン・ローズの歴史を振り返る展示が企画されました。題して「バラのタイムトンネル」。トンネルの左右に置かれた名花を見ながら通り抜けることで、モダン・ローズの歴史を体感できる仕掛けになっています。
今回の展示では、初めて本物の「アプローズ」を見ることができてうれしかったです^^
モダン・ローズの歴史は、さまざまなチャレンジの積み重ねでしたね。
それまでにない色を求めて、黄色や深紅、青系のバラが作り出されました。一方、巨大輪を求めてピースなどが生み出され、多くの花が咲くことを求めて「アイスバーグ」などのフロリバンダ系統のバラが生み出され、クラシックな印象の花形を求めて「グラハム・トーマス」を代表とするイングリッシュ・ローズや、「ピエール・ドゥ・ローンサール」が生み出されました。
続いて香りが注目をあびはじめます。「ナエマ」に代表される強香品種は今も多くのロザリアンをとりこにしていますね。イングリッシュ・ローズに対応する形で登場した「フレンチ・ローズ」の担い手デルバール社では、色鮮やかで個性的な絞り模様のバラが多く作出されています。
もちろん日本の育種家も素晴らしい品種を発表しています。「シェエラザード」は、花びらの先が尖った形が愛らしいバラです。香りも良く、さらに育てやすい、専門家の間でも評価の高いバラです。「シェエラザード」は、バラの本場ヨーロッパでも販売されているバラです。
未来のバラはどんな姿になっていくのだろうか、と、ますます楽しみになる展示でした。
「バラのタイムトンネル」では、有島薫さん、大野耕生さん、小山内健さん、河合伸志さん、後藤みどりさん、村上敏さん、計6人のバラの専門家が日替わりでガイドを担当します。
▼開催時間は、下記のページから確認してください。