バラの専門誌「New Roses」2022年秋号(vol.32)の紹介です。今号ではバラの新品種と、組み合わせたい草花を特集。気になる品種と草花を少しだけお見せします!
バラの育種は新世代に突入した!?
▲ドラマティックな表情の「シャドウオブザムーン」が表紙
春と秋に刊行されるバラの専門誌「New Roses」の2022年秋号vol.32が発売されました。毎年、春号は新品種紹介がメインになっていて、秋号はバラにまつわる特集が組まれます。2022年秋号の特集タイトルは「新世代のバラと栽培・組み合わせ」です。
毎年のように進化するバラの育種は、ここにきてまた新しいステージに上りつつあります。今号では、そんな新世代のバラ台頭にスポットを当てた特集となっています。第二特集としては、バラと組み合わせたい草花の紹介が盛り込まれていて、今号も役立つ情報満載です。
思わずドキッとさせられる表紙は、ロサ・オリエンティス・プログレッシオの「シャドウオブザムーン」。赤みがかった藤色の波状弁の花は、咲き始めは赤みが強く、モーブがかりながら淡紫に退色していく。どのステージも美しい。
花色もネーミングもステキなバラです。
気になるバラの新品種5つをご紹介!
1、河本バラ園
新世代の代表選手としてまず登場するのが河本バラ園の河本麻記子さん。河本純子さんに続く河本バラ園の女性育種家です。河本麻記子さんの発表するバラには「ローズ・ドゥ・メルスリー」のブランド名がつけられています。
「プリュネル」Prunelle
▲透明感ある黄バラ「プリュネル」
河本麻記子(かわもと・まきこ)さんは、バラをバラだけで観るのではなく、「暮らしの楽しみをバラに表現」することをモットーに育種しているそう。
「暮らしの楽しみをバラに表現」というと、ちょっと分かりにくいんですが、要するに庭を彩る花としても、テーブルフラワーとしても使いやすい、他の植物と組み合わせやすいバラということ。
確かに「ローズ・ドゥ・メルスリー」のバラは、基本的に中輪で、あまり主張の強くない花色、近づいて観賞したい造形やグラデーションの繊細さを大切に育種されているのが分かりますね。
魅力的な品種が多いなか、淡い黄花品種の「プリュネル」が目を引きました。
透明感ある黄色からソフトイエローに退色する花色、小中輪花でボタンアイが見られるロゼット咲き。ティーの中香があります。
わたしは写真上に写っている、うっすら緑を帯びた淡黄色のこのバラが好きで、このバラに近い品種を切望しているんですが、「プリュネル」はなかなか素敵だと思いました。枝がしなやかで、小型のつるバラぽく仕立てることができるのも、庭の演出に使いやすそうです。
2、ロサオリエンティス・プログレッシオ
数々のバラの国際大会で受賞を果たし、今や日本を代表するバラの育種家といえるロサ・オリエンティスの木村卓功(きむら・たくのり)さん。もともとロサ・オリエンティスは、日本の暑い夏でも平気な日本の気候でも育てやすいバラを目標に育種されてきましたが、ここ数年、さらに耐病性の高さにこだわった品種をつぎつぎ発表しています。
こうしたとくに耐病性に優れた、少ない薬剤散布でも育てやすい品種に「プログレッシオ」のサブ・ブランド名が冠されています。
「楼蘭」Laulan
▲可愛いだけでなく、花びらが散らず実用的な「楼蘭」
ロサ・オリエンティスの2022年秋の新品種は、シルクロードに由来する品種名がつけられています。オレンジ~落ち着いたコーラルピンクに咲く「シルクロード」。シルクロードのオアシス都市「サマルカンド」の名が付けられたバラは淡い藤色のヒラヒラとした波状弁咲き。
どれも魅力的なバラですが、「楼蘭」がとくに目を引きました。
ピンクのロゼット咲きで、ころんとした小中輪花。その特徴は、花の愛らしさとともにとても花もちがいいこと。そして、ほとんど花弁が散らないこと。つまり掃除が楽! 下階に花びらが散る心配がないので、我が家のようなベランダ栽培でも嬉しい特徴です!
じつは表紙に撮影されている「シャドウオブザムーン」も、「ロサ・オリエンティス・プログレッシオ」。こちらは2019年発表のバラです。これもステキです^^
3、デルバール
フランス中部オーヴェルニュ地方を拠点とするデルバール社は、花の「エモーション」を第一にバラの育種がされています。さらにヨーロッパの一般家庭の庭で薬剤散布が難しくなってきている現状をふまえ、耐病性の高い、育てやすいバラにもこだわりがあります。
デルバールのバラは、とにかく丈夫な健康優良児タイプの育てやすい品種が特徴です。
「アレキサンドラ ダビッド ニール」Alexandra David-Néel
▲濃い緑の照葉から浮き上がったように咲くモーブピンクの中大輪花
上の写真では単調なピンクに写っていますが、実際の花色はモーブピンク。やや青みを帯びています。花径7~8cmの中大輪花が、濃い緑色の照葉に浮き上がったように咲きます。
樹高は1.5m。中型のシュラブ樹形なので、写真のように小型つるバラとしてフェンスに留めつけたり、ややコンパクトに剪定して1.2mほどの木立ち樹形に管理してもヨシ。
モーブ色なので、ラベンダーやセージと相性バッチリです。
4、メイアン
世界のバラ文化をけん引するメイアン社のバラは、「おおらかな華やかさ」をもつ品種が多いといわれます。たしかに日本の育種家のバラに比べると、花色の微妙な変化や花形の繊細さはないものの、バラそのものがもつ強さや親しみやすさが感じられます。メイアン社を代表する超名花「ピエールドゥロンサール」も、そんな印象ですね。
メイアンの販売戦略は、それぞれの地域に根差した品種を提供しているので、各国で販売する品種が異なります。日本で販売される品種は、日本人の感性に沿ったものが選ばれています。
「スマイルハニーローズ/くまのプーさん」Smile Hunny Rose/Winnie the Pooh
▲退色しにくいハッキリした黄バラ
スマイルハニーローズは、ディズニーの人気作品「くまのプーさん」に贈られたバラです。プーさんの体の色と、ハチミツ好きなプーさんをイメージして、黄色いバラが選ばれています。
黄バラというと退色しやすい品種が多いなか、「スマイルハニーローズ」は退色しにくいハッキリとした黄バラです。花径は6~8cmのロゼット咲きの中大輪花。整いすぎないラフな咲き方が、より親しみのもてる雰囲気が漂います。
面白いのはその香りで、「メタリックな」とか「パクチーのような」と表現されています。バラとしては、かなり個性的な香りのようです!
「スマイルハニーローズ」は、2022年日本独自販売の品種。メイアン社の日本の総代理店・京成バラ園では「ディズニーランドローズ」がよく売れているので、その関係で日本独自販売となったのでしょうね。今後、アリエルや雪の女王をイメージしたバラも登場するかも!?
切り花でも販売されれば、くまのプーさん好きで知られるフィギュアスケーターの羽生弓弦さんに贈るバラとして定番になりそうです。
5、コマツガーデン
山梨県のバラ専門店コマツガーデンでは、統括マネージャーの櫻井哲也(さくらい・てつや)さん作出のオリジナル品種を2017年から発表しています。
日本の育種家は大輪品種をつくらなくなってきているし、ヨーロッパで大人気のローズ・ペイザージュ(修景バラ)も作出しません。そんななか、2020年に修景バラの「リムセ」を、2022年に大輪バラの「ドレッシー」を発表し、どちらも日本の国際コンクールで銅賞・銀賞を受賞しています。
「ドレッシー」Dressy
▲花径12cmの大輪花を房咲きにする。さらに強香!
花径12cmの純白大輪花を咲かせる「ドレッシー」は、香りが素晴らしい。第15回国営越後丘陵公園「国際香りのバラ新品種コンクール」で、「ダマスク・クラシック~アップル様のフルーティな香りとさわやかなヒヤシンスグリーンの香りを併せ持つダマスク系の香り」と評価され、HT部門で銀賞を獲得しています。
強香の大輪花が房咲きするので、存在感はバツグン。コマツガーデン代表の後藤みどりさん曰く「絶品の白、無二の白です」とべた褒めのバラです。
おしゃれに決まる!バラと相性のいい草花5品種
バラはそれだけで完結した美しさをもちます。数ある花のなかでも豪華さや優美さ、気高さを感じさせるバラは花の女王と呼ばれています。突出した雰囲気をもつので、逆にこれまでどんな草花と合わせていいか迷うところでした。
でも剣弁高芯咲きの大輪バラが主流だった20世紀にくらべ、21世紀のバラは小~中輪でたくさんの花を咲かせる品種が多く作出されています。これら近年のバラは気高さよりも親しみのある表情が特徴で、より草花と合わせやすいガーデンに取り入れやすい品種が増えてきました。
さらに近年のバラは耐病性が上がったため、メンテナンスの面からも草花と混植しやすくなってきています。
「New Roses」誌では、これまでもたびたびバラと相性のいい草花を紹介していますが、今回はとくにたくさん紹介されていました。目についた5品種の草花を、相性のいいバラと一緒に紹介します。
1、「PW ルドベキア・アーバンサファリ」
▲「ジェームズL.オースチン」+「ルドベキア・アーヴァンサファリ」
京都のまつお園芸からの提案です。
もともとの「ルドベキア」は、ヒマワリを小型にしたような花を咲かせます。よく見かける多年草のルドベキア・ラシニアタ(オオハンゴンソウ)は、一重咲きのヒマワリといった雰囲気の鮮やかな黄色の品種です。
今回提案されていた「ルドベキア・アーヴァンサファリ」は、植物の国際ブランドPWの商品です。ちなみにPWとは、1992年にアメリカやヨーロッパ、日本など世界の園芸種苗会社7社(アメリカ4社、ドイツ1社、オーストラリア1社、日本1社-株式会社ハクサン-)で発足した植物ブランドです。
「ルドベキア・アーヴァンサファリ」の特徴は、これまでのルドベキアにない印象的なアースカラーです。上の写真中央の緑がかった黄色は「フォレストグリーン」、左手前の茶色がかった赤のグラデーションは「キャニオンレッド」。
花期は6~10月。
バラの2番花~秋花が咲くまでの間、少しバラの花が貧弱になったところを補って花壇に色どりを添えます。
2、「ラミウム」
▲ミニタイプのつるバラ「夢乙女」+ラミウム
山梨県のコマツガーデンからの提案です。
葉が美しく、さらに半日陰でも花を咲かせるのでシェードガーデンで重宝される「ラミウム」。耐寒性も耐暑性もある、庭でとても使いやすい宿根草です。
「ラミウム」には白・黄・緑・ピンク・赤紫の花色があり、緑色の葉のものと上の写真のようにシルバーリーフの品種があります。草丈は低く10~20cmていどなので、バラの足元にグランドカバーとして植えるのに適しています。
花期は5~6月で、バラとぴったり合わせられます。
上の写真は、ミニタイプのつるバラ「夢乙女」+紫のラミウム(表記はないけれど、たぶん「スターリングシルバー」)の組み合わせ。思わずハッとさせられる素敵さです。モーブカラーのバラとも相性が良さそう。
3、「ゲラニウム」
▲「桜木」+「ゲラニウム・オリオン」
栃木県那須町のコピスガーデンからの提案です。
ヨーロッパでは、ローズ・ペイザージュ(修景バラ)と呼ばれるジャンルのバラが人気で、たくさん作出されています。ローズ・ペイザージュは日本ではあまり人気がありませんが、ガーデン素材として優秀で、庭づくりを楽しんでいる方にもっと取り入れてほしいバラです。
上の写真は、小輪房咲きのシュラブ「桜木」と「ゲラニウム・オリオン」の組み合わせ。ゲラニウムのフレッシュな葉の緑と桜木の優しい花がよく似合いますね。
「桜木」は、上山洋1996年作出の品種で、ローズ・ペイザージュとして販売されているわけではありませんが、黒星病耐性が高く、適切に追肥をすることでほぼ放任でも連続開花する性質から、ローズ・ペイザージュ扱いできるバラです。花の雰囲気も軽やかな一重咲きで、いわゆるバラらしくないナチュラル感があります。
「ゲラニウム」は、ピンク・紫・白の花色がある宿根草。草丈は40~60cmで花期は4~6月。バラの1番花と合わせられます。「桜木」のようにショートシュラブタイプのバラとなら、高さも合わせられますね。
「ゲラニウム」は耐寒性は強いけれど耐暑性がやや弱いので、寒冷地向きの植物です。コピスガーデンのある那須では、どちらもキレイに咲いています。
4、「ペチュニア・流れ星ボルドー」
▲「縁-ゆかり-」+ペチュニア「流れ星・ボルドー」
タキイ種苗からの提案です。
暑さに強く、夏を彩る代表的な園芸植物「ペチュニア」は、従来の白・ピンク・紫の花色に加え、黄・赤・黒・オレンジ、さらに八重咲き品種と、さまざまな園芸品種が登場しています。
なかでも個性的なのが「流れ星」シリーズで、星のように見えるバイカラーの模様がユニーク。「流れ星ボルドー」は、流れ星シリーズのなかでもさらに個性的。黄色の星をボルドーカラーが縁取ります。
組み合わせるならハッキリした黄バラを。上の写真ではメインの黄バラ「縁-ゆかり-」の色を「ペチュニアの中心の黄色で繰り返し、さらにボルドーカラーで大人っぽくまとめています。
「ペチュニア」は花期が長く、春~秋まで咲き続けるので、バラの咲かない季節も庭を華やかに彩ってくれる優秀花材ですが、これまでの品種はやや単調なイメージでした。近年では「流れ星・ボルドー」や黒花、八重咲きと、シックな品種も増えているので、もっと見直したい花材です。
5、「ネペタ・ピンクキャンディ」
▲「オーブレジュール」+「ネペタ・ピンクキャンディ」
ぎふワールド・ローズガーデンからの提案です。
ロザリアンなら一度は挑戦したいホワイトローズ・ガーデン。白バラをメインに白花の宿根草、さらにフレッシュな緑やシルバーのカラーリーフを組み合わせた爽やかな印象のガーデンです。
ここにパステルピンクの「ネペタ・ピンクキャンディ」を組み合わせると、ガーデンがより優しい印象に。おしゃれ感もアップします。
たとえば「ボレロ」のように、白バラだけど咲き始めは淡ピンクやベージュが乗るというニュアンスカラーをもつバラが増えています。ホワイトローズガーデンに取り入れる宿根草にもこのニュアンスカラーを繰り返すことで、より白バラの白さを強調し奥行きのあるガーデンの表情が引き出されます。
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2022年11月上旬発行【最新刊】vol.32【本】New Roses SPECIAL EDITION for 2023 vol.32 ★ネコポス便にて発送 後払い不可/日時指定不可
New Roses誌の常連・木村卓功さん(バラの家代表)は、今号でも登場しています。暑さに強く、さらに耐病性の高い、初心者でも育てやすいバラの育種を目指す木村卓功さんの最新品種がまとめて見られます。
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New Roses(Vol.32) SPECIAL EDITION 新世代
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まとめ
「New Roses」2022年秋号(vol.32)から、気になる新品種5花と、バラと組み合わせたい草花5品種をあいびーの独断で紹介しました。
日本では、世界中で作出されたバラが流通しています。こんな国は他にないのだとか。さらに新世代の育種家たちも登場してきて、これからも日本のバラ文化はより進化していきそうです。楽しみですね^^
記事内でも取り上げましたが、わたしは退色しにくい淡い黄色で、やや緑みを帯びた品種の登場をずっと願っています。そのせいか、黄バラに目が行きがちなのかなぁと思っていたんですが、昨年あたりから黄色・オレンジ色のバラが流行のきざしなのだとか!
もしかしたら、近い内にわたしの願い通りのバラが登場するかも! と、期待してしまいます。
「New Roses」誌は、バラに関わるさまざまなプロたちが発信するとっておき情報の宝庫です。ロザリアンならぜひ1冊お手元にどうぞ!
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