大苗を鉢に植えこんだ「鉢苗」が、春に多く出回るようになりました。「鉢苗」を購入してすぐやる作業と、それ以降の育て方について紹介します。


春のバラ苗は「鉢植えの大苗」、つまり「鉢苗」がメインに!

▲鉢苗(左)と、新苗(右)

のサイトを始めてから毎年、バラ苗の動向をみていますが、近年、春のバラ苗の様子が大きく変化してきています。

 

以前は、春は台木に接ぎ木して数か月の赤ちゃん苗である「新苗」が販売され、晩秋~冬にかけて台木に接ぎ木してから約1年間しっかり畑で育てられた「大苗」が販売されるというのがバラ苗の売り方でした。

 

でも近年は、大苗を鉢植えにしたもの──「鉢苗」といいます──が、春に売られることが多くなってきていて、今ではすっかり春のバラ苗といえば「新苗」よりも「鉢苗」がメインになっています。

 

この傾向は、いわゆるブランドバラに関して顕著で、ほとんどのブランドバラは、春は「鉢苗」販売になっています。逆にノーブランドのバラは、春はほとんどが「新苗」販売です。

 

ただし、ネット販売では「ブランドバラの新苗」も売られます。しかし数量に限りがあるので人気が高く、販売から数日で売り切れてしまうことが多いようです。

 

春の鉢植え大苗(鉢苗)は、どんな苗?

▲6号鉢に大苗を植えた春の「鉢苗」

ず苗について簡単に説明します。バラ苗は、台木に咲かせたい品種の枝や芽を接いでつくられます。

 

台木に秋~冬に接ぎ木した苗を、春に販売するのが「新苗」です。このため多くの「新苗」は、ひょろりとした主幹1本だけの、頼りない姿です。

 

新苗をさらに1年間、畑で育てたものが「大苗」で、晩秋~冬に販売されます。この「大苗」を6~7号の鉢に植え春に販売されるのが「鉢苗」です。

 

つまり、がっしりした主幹が何本も上がった立派な大苗が「鉢苗」なのです。プロのナーセリーで接ぎ木から1年半もの間、しっかり育てられているので状態が良く、初心者にはもっとも育てやすいバラ苗です──というのが、これまでの定説でした。

 

じっさい、わたしもバラ苗の紹介ページで、以前はそう書いていました。けれど、事情が変わってきています。

 

▼苗の違いを詳しく説明したページはこちら

 

注意!春の「鉢苗」はデメリットだらけ!だれにもオススメできない!

▲枝枯れしている「アジュール」の主幹

れは、この春、園芸店で予約購入した「アジュール」の鉢苗です。6号鉢に大苗が植え込まれています。この鉢苗には驚かされました。どんな状態だったか順に説明します。

 

1、主幹の枝先がほぼ枯れている

いたと連絡を受けた当日に取りに行ったのですが、ほとんどの主幹の枝先が写真のように茶色く枯れていました。なかなかショックでしたね。

 

2、すべて内芽切りされている

送時に枝が折れないようにするためだと思いますが、すべての枝先が内芽で切ってありました。これでは内側にばかり枝が伸びて、病虫害にかかりやすいおかしな樹形になってしまいます。

 

3、ブラインド枝だらけ

▲ほとんどの枝がブラインド枝

くさんの新しい枝が伸びていますが、蕾がついている枝以外は、ほぼブラインド枝でした。

 

春先の、バラの芽が旺盛に伸びる時期に芽かきがされていないのと、小さな鉢に押し込められているので根が生長できず、結果としてまともに生長できない枝だらけになったのでしょう。

 

あるていどバラの管理に慣れた人なら、これでも対処できるでしょうが、こんな苗ではとても初心者にオススメできません。しかもこれで5000円以上するのです。キャンセルしたかったのですが、予約のとき「キャンセル不可」と言われています。

 

この苗が特別状態が悪かったわけではなく、ほかの苗も同じ状況でした。

 

結論として、春の大苗(鉢苗)は、初心者にオススメできません! いや、初心者でなくてもこんな状態の悪い苗に5000円以上出すなんて、どんな上級者にもオススメできませんね(== わたしも、もう二度とここで購入したくないと思いました。

 

もちろん、悪いのはこの園芸店ではありません。園芸店が仕入れているナーセリーの管理が悪いのです。

 

もっと良い管理をしているナーセリーもあると思います。この苗をいったいどこのナーセリーから仕入れているのか園芸店に聞きましたが、さすがに教えてもらえませんでした。とりあえず今後は別の販売店で、苗の状態を自分の目で確認してから購入しようと思います。

 

春の鉢苗が届いたら、まずやるべき作業!

▲一見、状態が良さそうに見えるけれど──

は、オススメできないこの春の鉢苗を購入してしまったら、どうすればいいのか? を、順を追って説明します。この春に鉢苗を購入した方も多いと思うので、同じような状況の方、どうぞ参考にしてください。

 

作業1、出開きを取り除き、ブラインド枝は切り戻す

▲株元にもっさり「出開き」の山

ず、株の下の方にもっさり茂っている細枝を取り除きます。これらは放置しても良い枝にならないうえに、新しいシュート枝を出す邪魔になる不要な枝です。

 

ほとんどの細枝は、数枚の葉が開いたまま生長を止めた「出開き」という状態のはずです。上の写真が、まさに「出開き」です。

 

「出開き」は、付け根から取り除きます。

 

▲枝先の芽が枯れている「ブラインド枝」

 

出開きではなくしっかり伸び出ている枝は残しますが、あまりに細い枝は、やはり付け根から取り除きます。

 

あるていど太さがある枝でも、枝先がブラインドになっている場合は、少し下の外芽まで切り戻しておきます。いずれこの枝も付け根から切り取ることになりそうですが、光合成のために一旦、残します。

 

作業2、枯れた枝先をカット

▲大事な主幹が枯れこんでいる

っさり茂っていた細枝を取り除くと、主幹の状態がよく見えるようになります。

 

上の写真のように、多くの主幹の枝先が枯れていると思いますが、この枯れこみが広がらないように、枯れていないところまで切り戻します。

 

切り戻したところには、念のため「トップジンMペースト」(日本曹達or住友化学園芸)を塗っておきましょう。

 

▲切り口に「トップジンMペースト」を

 

ときに、株元まで枯れている枝もあります。そんなときには、株元まで枝を切り戻し、切り口に「トップジンMペースト」を塗っておきます。

 

▲出開きと枯れ枝を取り除いたところ

 

ここまでの作業を終えた株の状態です。株元がスッキリして、枯れた枝先を切り戻してあります。

 

2本の主幹を取り除いたので、残る主幹は5本です。しかし、まともに育っている主幹は中央の2本のみ。つまり7本あった主幹のうち、5本がまともではなかったということです(==;

 

残した枝のうち3本を、しばらく様子見します。

 

Aの枝は、枯れたところを取り除くと芽がなくなりました。このまま新しい芽が出なければ、株元から切り取らなければいけません。

 

Bの枝は、上2/3が枯れているように見えますが、裏側は緑色なので、一旦残しました。様子見しますが、状態が思わしくなければ付け根から切り取ることになります。

 

Cの枝は、2つの芽が育っていますが、どちらもひょろひょろのブラインド枝です。これも様子見しますが、状態の良いサイドシュートが出てこなければ、いずれ付け根から切り取ることになりそうです。

 

作業3、蕾を減らす

▲株の状態が悪いので、蕾を減らす

来なら大苗の蕾は咲かせてもいいのですが、この苗の状態がかなり悪いので蕾を減らします。

 

まともに育ちそうな中央の2つの主幹それぞれに1輪ずつ咲かせることにして、残りの蕾は摘み取りました。

 

すべての蕾を摘み取ってもいいくらいですが、花が見たいので、2輪のみ咲かせることにしました。株の疲労を抑えるために、花が咲いたら早いうちに摘み取る予定です。

 

▲今回、取り除いた枝

 

今回の作業で取り除いた枝は、これだけの量になりました。初心者にこれをやれというのは、かなり無理がありますね。

 

作業4、ラベルは支柱につけて株の後ろに設置

▲株元を隠すラベルは別の支柱につけて後ろに

種ラベルが株元についていたと思いますが、これは別の棒(短い支柱)につけて株の後ろに立てましょう。

 

こうすることで、株元にしっかり日光が届くようになります。

 

作業5、根頭癌腫病をチェック!

▲秋まで、根頭癌腫病に注意!

頭がん腫病は、バラの株元にコブができる病気です。この病気は完治しない上にほかのバラに感染するやっかいなモノです。

 

株元に変なコブがないか、一応確認しましょう。

 

今はなくても、根頭がん腫病が活性化するのは夏なので、夏の終わりごろにコブが出てくることが多いです。販売店により期間はそれぞれですが、購入後何カ月間は苗を交換してもらえるので、今後、コブができないかしっかり観察しましょう。

 

作業6、1カ月間は、活力液を混ぜて水やり・病気と害虫予防の薬剤散布

▲苗の購入後1カ月間は、活力液を利用!

なり大手術をしているので、早く回復してもらうため肥料をやりたいところですが、ここはグッと我慢です。

 

なぜなら、ナーセリーでどんな肥料やりをしているか分からないので、うかつに肥料を与えると多肥から株を枯らすことになりかねません。

 

苗の購入から1カ月間は、活力液を水やりの水に混ぜて与えるていどにしましょう。

 

1カ月過ぎたら、6号鉢の基準量の半分だけ追肥をして様子を見るといいと思います。

 

病気と害虫予防に置き薬の「ベニカXガード」などを使っているなら、6号鉢基準量を散布します。置き薬を使っていないなら、「ベニカXファインスプレー」などのハンドスプレー農薬をかけておきましょう。

 

購入から半月後の鉢苗の状態

▲購入から半月後。蕾がふくらんできた

の写真は、購入から半月たった鉢苗の状態です。蕾が色づいてきて、もうすぐ咲きそうですね。

 

購入直後に心配していたA・B・Cの主幹の状態を確認しましょう。

 

▲AとBはダメそう・・・

 

Aの主幹は、新芽が出る様子がなく、全体に色が悪くなってきました。これはもうダメですね。付け根から切り取ります。

 

Bの主幹は、枝先の新芽がかろうじて生きていますが、枯れこみが広がってきています。この主幹もダメですね。付け根から切り取ります。

 

Cの主幹は、2本の細い枝が伸びていますがどちらもブラインドになっていて、枝先が少し枯れてきています。危ない感じですが、もう少し様子を見ます。

 

中央の2本の主幹は大丈夫だと思っていたのですが、困ったことに片方の枝先が少し枯れてきています。もう、ボロボロですねこの苗は・・・。

 

▲元気そうなベイサルシュートが発生!

 

不要な枝を減らしたことで、株元からベイサルシュートが上がってきました。これは好材料です。ベイサルシュートにしっかり日光が当たるよう、鉢の向きを調節しました。

 

今後も元気なベイサルシュートが出てくるよう祈りながら、不要枝を切り取り、適切な管理を続けていきます。

 

6月初旬をメドに鉢増し

▲鉢底から根が見えてきたら鉢増し適期

後の予定として、花が咲いたらすぐに摘み取り、6月をメドに鉢増しします。

 

鉢底から根が見えてきたら、鉢増しのタイミングです。もし根が見えてこなくても、本格的な夏になる前に鉢増しします。

 

▲根鉢を崩さず一回り大きな鉢に鉢増し

 

鉢増しは、根鉢を崩さずに一回り大きな鉢に植え替えする方法です。6号鉢→8号鉢に鉢増ししましょう。

 

上の写真は、新苗の鉢増しの様子です。鉢苗でも同じように鉢増しします。

 

どうして6月をメドに鉢増しするかというと、鉢底から根が見えてくるのがだいたい6月なので、この時期なら根がよく回って根鉢をつくっているからです。この根鉢を崩さないよう植え替えることができるので、ちょうど6月ごろが鉢増しの適期なのです。

 

さらに7月になってしまうと夏の暑さが厳しくなりすぎて、バラには辛い時期です。夏の暑さが本格化する前という意味でも、6月が鉢増しに適しているのです。

 

これ以降は、通常の大苗の育て方と同じです。調子よく育っていれば、秋から本格的に咲かせることができます。

 

春の鉢苗は、初心者にもベテランにもオススメできない!その理由

▲初心者は花にしか注目しない!

れでも、バラ苗を購入するのはバラの花を楽しみたいからです。初心者ほどその気持ちが強く、蕾や花しか目に入りません。

 

株の状態を見て、それに応じた手入れなんてできません。それができるなら、その人はもう「初心者」ではありません。

 

だから、春の大苗(鉢苗)は、初心者にはオススメできないのです! 

 

もっと状態の良い苗づくりをしているナーセリーもあると思いますが、状態の良しあしの分からない初心者は、春の鉢苗には手を出さない方がいいと思います。

 

またベテランだって、こんな状態の悪い苗を通常価格で購入したくないですよね。値引き品ならまだしも、正規の価格でこの品質はさすがにイヤです。

 

まとめ

今回は、春の大苗(鉢苗)を購入してすぐに行う手入れを詳しく、それ以降の手入れを簡単に紹介しました。

 

春は、バラ園などで実際の花をみてテンション高くなってついバラ苗を買いたくなる時期です。でも、バラ苗を購入するには、あまり良い時期とは言えません。

 

やはりバラ苗は、冬に購入するものだと思います。冬から始めるのが、もっともバラにとってムリがなく、初心者でも失敗しにくいタイミングです。

 

とはいえ、つい購入してしまった方で紹介した「アジュール」と同じような状態の苗は、今回のやり方を参考にしてください。

 

春に購入するなら「鉢苗」ではなく、「ブランドバラの新苗」をオススメします。「ブランドバラの新苗」は、ひょろっとした「ノーブランドの新苗」と違って大きく育ったガッシリした苗なので、初心者でも失敗しにくいと思います。ほとんどがネット販売なので、購入しにくいのが難点ですが。

 

*「アジュール」は河本バラ園の品種ですが、今回わたしが購入した苗は河本バラ園から仕入れたものではありませんでした。河本バラ園の管理が悪いわけではありません。念のため、誤解のないようお願いします。

 

*正規のデビッド・オースチン社のイングリッシュローズはほぼすべて「鉢苗」です。正規のイングリッシュローズは「鉢苗」でも問題ありません。

 

▼「季節ごとのバラの手入れ」の記事一覧はこちらから

 

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