バラを食害するチュウレンジバチはアジュガに集まる性質がある。だからアジュガを囮として、そこに集まったハバチを駆除すればバラが守れる──。ロザリアンの間で耳にするこの話、じつは間違いです!詳しく紹介します。
アジュガは日陰でも咲く優秀なグラウンドカバー
▲日陰でもよく咲くアジュガの花
春に青紫色の穂状の花を咲かせる「アジュガ」は、耐陰性が高く、日陰でも花を咲かせてくれる貴重な植物です。しかもランナーを伸ばしてどんどん増える多年草(常緑の宿根草)なので、優秀なグラウンドカバーとしてガーデニングにはとても重宝します。
アジュガの花は基本は青紫色ですが、かなり青っぽい色や白、ピンクもあります。さらにアジュガは葉の種類も豊富です。黒っぽい濃い紫や赤紫、白い斑入り、ライムグリーンなど。花のない時期もカラーリーフとして楽しめます。
しかも丈夫で手間いらず。
濃い青紫色はバラにない花色だし、バラの春の1番花とアジュガの花期が重なるので、バラと一緒に植えたくなりますが──。
アジュガには「カブラハバチ」が集まる!
▲アジュガの表面を舐めるカブラハバチ属の一種:セグロカブラハバチ 写真提供/覇蟆邇(はまに)人
アジュガの若芽の表面に生えている微毛(毛茸-もうじょう-といいます)には、ジテルペン系の苦味物質が含まれています。ハバチのなかでもカブラハバチ属に属する数種類がこれを摂取する習性があるので、アジュガを植えているとカブラハバチが集まってきます。
ロザリアンの皆さんは、この昆虫に見覚えがありますよね。オレンジ色の腹をもつ黒いハバチ──そうです、バラの若枝に産卵し、幼虫がバラの葉を食害するにっくき害虫・・・に、見えますよね!?
▲バラの枝に産卵するチュウレンジバチ属の一種:アカスジチュウレンジ 写真提供/天女の舞子
これが、バラの枝に産卵するハバチです。名前は「チュウレンジバチ」。
アジュガにつくのは「カブラハバチ」で、バラにつくのは「チュウレンジバチ」。見た目はそっくりですが、じつは別の昆虫です!
ちなみに、一般に「チュウレンジハバチ」と呼ばれることが多いのですが、「チュウレンジバチ」が、日本での正式名称なのだそうです。
カブラハバチの幼虫はアブラナ科植物だけを食害する
▲カブラハバチはアブラナ科の植物を食べて育つ
アジュガに集まるカブラハバチは、アジュガに産卵するのではなくアブラナ科の植物に産卵します。そしてその幼虫は、アブラナ科の植物を食べて育ちます。
このため農家や家庭菜園をしている方にとって、カブラハバチの幼虫は困った存在です。ダイコン、コマツナ、ハクサイ、ミズナ、カブなど、多くの野菜に穴を開けるにっくき害虫なのです。
▲アブラナ科の野菜を食害するカブラハバチ属の一種:セグロカブラハバチ の幼虫
カブラハバチにもいくつかの種類がいますが、幼虫はほぼ黒い色をしています。バラでは見かけないイモムシですね。
▲バラの葉を食害するチュウレンジバチ属の一種:アカスジチュウレンジ の幼虫
一方、チュウレンジバチの幼虫はバラ科の植物を食害します。頭が茶色や黒で、バラの葉を外側から食べていく小さな緑色のイモムシ。危険を察知するとお尻を跳ね上げる独特な姿の幼虫は、ロザリアンにはおなじみです。
カブラハバチの幼虫はアブラナ科の植物で、チュウレンジバチの幼虫はバラ。それぞれ決まったものしか食べません。
食べるものが違うので、カブラハバチがバラに産卵したり、バラの葉を食害することはありません。つまり、アジュガに集まるカブラハバチは、ロザリアンの敵ではないのです。
(もちろん、農家や家庭菜園をしている方にとっては敵ですが^^;)
アジュガとバラ、一緒に植えても大丈夫!
▲バラの株元にアジュガを植えても大丈夫!
と、いうことで。バラとアジュガを一緒に植えても大丈夫! たとえばバラの株元にアジュガをグラウンドカバーとして使っても問題ありません。
もしアジュガにオレンジ色の腹をもつ黒いハバチがやってきても、心配いりません。それはカブラハバチなので、バラに産卵することはありませんから。
だから「アジュガトラップ」はやめてあげてー!
▲アジュガに集まるハバチはバラと無関係
提唱者はハッキリしませんが、バラ業界では「アジュガトラップ」というものがオススメされることがあります。
「アジュガトラップ」とは、バラの近くにわざとアジュガを植えておき、ハバチが集まってきたところを殺虫剤で一網打尽にすればバラが守れる! というものです。
ここまで読んでいただいたならわかりますよね。これ、間違いです。アジュガに集まるのは、バラに興味のない「カブラハバチ」なので、いくら駆除してもバラを守ることはできません。
つまり「アジュガトラップ」は意味のない冤罪殺戮なのだから、やめてあげましょう~!
まとめ
今回は、アジュガに集まるハバチとバラに産卵するハバチは見た目はそっくりだけど別の昆虫だということ。アジュガに集まる「カブラハバチ」はバラに産卵しないので、バラの害虫ではないことを紹介しました。
以前わたしは、アジュガをトラップ・プランツとして利用することでチュウレンジハバチを駆除する方法があると記事にしたことがあります。それはバラの専門家が発信源の一次情報から記事として取り上げたものでした。
しかし、どうやらこれは間違いだったようです。ここに謹んでお詫びして訂正します。
▼以前の記事はこちら。訂正しました!
今回この有益な情報を寄せてくださったのは、覇蟆邇(はまに)人さんです。覇蟆邇(はまに)人さんは、単独性狩蜂の生態研究で農学博士の学位を取得している昆虫研究の専門家。ハバチの分類や生態にもたいへん詳しい方です。
覇蟆邇(はまに)人さんによると、カブラハバチの存在を知らないバラの専門家が、アジュガに集まるのは自分がよく見知ったチュウレンジバチだと勘違いしたことに端を発し、「アジュガトラップ」なるものが編み出されてしまったのではないか──ということです。
バラの専門家は昆虫の専門家ではないのだから、勘違いは仕方のないところだと思います。が、ロザリアンの皆さま、今後は意味のない「アジュガトラップ」で冤罪殺戮をしないようにしましょう。お友達のロザリアンにもゼヒ教えてあげてください!
▼アジュガとカブラハバチの関係について詳しくは、覇蟆邇(はまに)人さんのXをご覧ください。カブラハバチがアジュガに集まる理由とか、いろいろ面白いですよ^^
庭いじりや家庭菜園で花卉・野菜類の栽培を楽しんで居られる方で、掲載写真の左右の昆虫が別物だとお分かりの方は、どれぐらい居らっしゃるでしょうか?
左はバラの害虫で、アカスジチュウレンジ(ミフシハバチ科)、
右はアブラナ科の害虫で、セグロカブラハバチ(ハバチ科:ハグロハバチ亜科)【続→ pic.twitter.com/tI15lJQLJF— 覇蟆邇(はまに)人 (@Hamani_jin) November 12, 2023
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“あいびー”様
(コメント投稿に失敗し、再投稿も『重複』としてエラーが出るので、この行を足してみました。)
『アジュガとハバチの関係性』についての例の“誤情報”の是正に関して、素晴らしいブログ記事を仕上げて下さり、感謝致します。
御礼の返信がモタつき申し訳ありません。
私からお伝えした情報の骨子を正確に読み取り、実際にバラを栽培している園芸家に本当に必要な要素を、園芸家の興味を惹くように・違和感無く受け入れられ易いようにストーリー構成しながら紹介なさる御手腕には、感服致しました。
“手練・手管”というよりは、常に御自身で実地に見た事から考え、御自身で納得のいく『説明上のストーリー』を構築しながら記憶していく…という訓練が無意識のうちに身に付いている方なのだろうと拝察致しました。
提示された情報の内容も、大局的に間違いは無くOKです。
ただ、掲載された写真の被写体のハバチの具体的な種名については、
私の Twitter (X) からの写真のものが、カブラハバチ → セグロカブラハバチ;
“天女の舞子”さん提供の写真のものが、チュウレンジ(ハ)バチ → アカスジチュウレンジ{只のチュウレンジバチとニホンチュウレンジは、胸全体側面も含め_稀な色彩変異型を除いて_一様に黒~鉄紺色なので…}ですので、“種名”としての正確を期すなら“→”の先の方の名称の方になります。
提示するのが単に『カブラハバチ』と出来る方が良いのなら、私の Twitter (X) のスレッド途中に、本当の只のカブラハバチがアジュガの芽を舐めている写真も1枚入っていますので、(もし、ブログ記事が再編集可能なら)そちらに差し替えて頂く事も良いかと思いますが、“あいびー”さんが本記事に掲載なさっている『…カブラハバチの幼虫』の写真が、奇しくも、体側に黒斑を点々と並べたセグロカブラハバチの幼虫そのものですので、それとの対応関係をも考慮すると、成虫・幼虫ともに、掲載する写真はそのままにして、(可能であれば)キャプションのみをそれぞれ、『…カブラハバチ』→『…カブラハバチ属の一種:セグロカブラハバチ』;『…カブラハバチの幼虫』→『…カブラハバチ属の一種:セグロカブラハバチ の幼虫』とした方が、本文に手を加えずに済むので_『カブラハバチ』を『カブラハバチ類(=カブラハバチ属の代表としての総称)』と解釈するならば_簡単・正確で良いように思います。
“天女の舞子”さん提供の『チュウレンジ(ハ)バチ 』も、本文中で、『“チュウレンジハバチ”ではなく、正式な和名は“チュウレンジバチ”』との説明があり、私はコレは提示しておいて頂きたいので、こちらの方も、写真のキャプションだけを『…チュウレンジ(ハ)バチ』→『…チュウレンジバチ属の一種:アカスジチュウレンジ』とするのが良いと思います。こちらも、奇しくも、“あいびー”さんが提示なさった幼虫の写真が、終齢で頭のほぼ全体が橙黄褐色になるアカスジチュウレンジの幼虫そのものですので(只のチュウレンジバチの幼虫は、若齢期真っ黒な頭が、終齢になっても_幾分黄褐色が注したりする程度で_ほぼ黒いまま)、ここも種名に正確を期すなら、『…チュウレンジバチの幼虫』→『…チュウレンジバチ属の一種:アカスジチュウレンジ の幼虫』とするのが良いでしょう。
ただし、その直下の本文の『カブラハバチの幼虫はアブラナ科の植物で、チュウレンジバチの幼虫はバラ。それぞれ決まったものしか食べません。』の“チュウレンジバチ”の表記については、敢えて、“チュウレンジバチ属”とはせずに、そのままにしておく事をお勧めします。何故ならば、御存知のように、チュウレンジバチ属には、バラを食う種だけでなく、ツツジ類を食うルリチュウレンジや、ニレ類を食うニレチュウレンジ、リンゴチュウレンジ、ワレモコウチュウレンジ…etc. 色々居るので、一括りに『チュウレンジバチ属は~』とは言えないからです。ここでは、バラ食いのチュウレンジバチ属の種を『チュウレンジバチ』の代表名で言い表しておく方が簡単で無難なはずです。
それを言うならカブラハバチ属だって、アブラナ科を食べる種が馴染み深い代表種として複数種居ますが、イヌノフグリハバチ(オオイヌノフグリ等のVeronica属,オオバコ科,を食べる)や、シソ科のタツナミソウを食べるタツナミソウハバチも居ますし、海外(イギリスを含むヨーロッパ~北アフリカ~一部西アジア)には_なんと!_アジュガ(Ajuga reptans)そのものを食べて育つ(他に、キンギョソウ等のオオバコ科も食う)Athalia cordata なる同属種も居ますので、ここも、『カブラハバチ』の表記は、アブラナ科食いの種の代表名として、“属”を付けずにそのままにしておいた方が無難だと思われます。(上記の海外種、興味深いでしょう?…それの記事を投稿する予定で原稿を書いては居るのですよ。『何故アブラナ科食いのカブラハバチ属が食草でもないアジュガに集まる習性を持っているのか』を強力に理由づける証拠ですから…。)
以上、掲載したハバチの種名について、正確を期すならば、写真のキャプションのみを上記に示したように修正して頂けば充分かと思います。
立派なブログ記事にして下さって、本当に有り難うございました。
覇蟆邇(はまに)人さま、校閲ありがとうございます。
本記事は一般のロザリアン向けなので、「アジュガに集まるハバチとバラを食害するハバチは別の昆虫」ということが伝わることを目的にしています。そのため本文では、正確ではあるけれど詳しすぎる説明は減らしたいと考えました。なので、ハバチの名称は「カブラハバチ」と「チュウレンジバチ」だけにしたいと思いました。そこの意図を汲んでいただき、キャプションのみの変更をご提案いただきありがとうございます^^
こちらのコメントで根拠をしっかり明記していただいたので、もしも疑問に思われた読者さんが現れても、こちらを読んでいただくことで、納得してくださるはずです。
わたしはバラを中心としたさまざまな情報を集めていますが、植物は昆虫ととても関係が深く、お互いに利用したりされたり、驚くような進化をしていたり。バラをとっかかりに垣間見る生物の世界は本当に興味深いです^^ 今回も、カブラハバチの生存戦略の巧みさに驚かされました。
今回は、たいへん貴重な情報をありがとうございました。これを機に、多くの方に正しい情報が伝わればいいと思います。好き好んで冤罪殺戮をしたい人はいませんから、ロザリアンにとってもありがたい内容です。
そういえばベランダで今、ルッコラやマーシュなど冬に食べていたアブラナ科のハーブたちが花を咲かせています。そこにフワフワとオレンジ色の腹をもつ黒いハバチがきていました。ほんとうに、フワフワ飛ぶのですね。「あぁ、これがカブラハバチかぁ!」なんて思いながら観察しました。新しいことを知ることができるのは、なんであれ嬉しいものですね^^
あいびー