バラは花の美しさだけでなく、その香りが注目され、古くから生活に利用されてきました。今回は、バラの香りが、わたしたちの心や体にどんな効果を与えてくれるのかを紹介します。さらに、歴史上どう活用されてきたのか、さらに現代ではどう活用され初めているのかをまとめています。


古代エジプトやローマ時代から愛されているバラの香り

▲「ヘリオガバルスの薔薇」ローレンス・アルマ=タデマ作 出展/wiki

代エジプトのプトレマイオス朝最後の女王として名高いクレオパトラ7世は、絶世の美女、そしてバラ好きの女王として有名です。当時心を通わせていたローマの軍人カエサルを寝室に迎え入れる際には、ひざの高さまでバラの花びらを敷き詰めたというからすごいですね。

 

ローマ帝国第5代皇帝ネロは、初代ローマ教皇ペトロを迫害の末に逆さ十字にかけて殉教させたという逸話から「暴君」とされますが、その一方でたいへんなバラ好きだったともいわれています。晩さん会では会場を埋もれるほどのバラで飾りつけ、天井から土砂降りのようにバラをまき、バラ水がテーブルに降り注いだといいます。

 

「ローマ帝国群像」には、ローマ帝国23代皇帝ヘリオガバルスが「客人に薔薇の山を落として窒息死させるのを楽しんだ」という逸話が残されています。バラの花を大量に載せた幕を宴会の会場に張っておき、宴会ちゅうにロープを切って幕の上のバラを客の頭上に落として窒息させたのだそうです。このエピソードを描いたのが上の「ヘリオガバルスの薔薇」です。ここまでくると尋常じゃありませんね!

 

プリニウスの「博物誌」によると、バラの香りは頭痛や二日酔いを抑える!

▲「博物誌」1669年版の表紙 出展/wiki

ーマの博物学者プリニウスは、著書の「博物誌」にバラは花冠にするだけでなく、頭痛や二日酔いを抑える薬草としての効果を期待して宴会で使われたと記しています。

 

ローズオイルを軟膏や目薬として使ったり、ぶどう酒の香りづけやサラダにも用いていたそうです。

 

ローマ時代の宴会で人々がバラの花冠をかぶっているのは、花冠が名誉の象徴や美しいという面だけではなく、二日酔いを軽減する効果を期待しての一面もあるようですよ。

 

中世イギリスでニコラス・カルペパーが記したローズの効能

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ーブやアロマテラピーが盛んなイギリスでその礎を築いたといわれるのが、ニコラス・カルペパーです。17世紀当時、医師だけが知りうる知識として医学書はラテン語で書かれていたのですが、それを英訳して出版してしまったのが、このニコラス・カルペパーなのです。この本を読むことで、医者にかかることができない一般の人でも医者を介せずに自分に合った薬を買い求めたり、身近なハーブを使って今でいう代替え医療を行ったりすることができるようになりました。

 

カルペパー自身は医師ではなく一般のハーブ療法家だったのですが、当時の医師たちの激しい怒りを買ったそうです・・・まぁ、仕方がないですね。

 

そんなカルペパーの著書「カルペパーハーブ事典」には、ローズ(バラ)の効能やその使い方が詳しく書かれてあります。一部を抜粋して紹介しましょう。

 

ワインで作った赤いバラの煎じ汁は、頭痛、目、耳、喉、歯肉の痛みにとても効果がある。また、肛門、下腹部、子宮を浸すかその中に入れても効果がある。同じ煎じ汁にその中に残っていたバラを加えたものを心臓のあたりにあてると、炎症や肝毒、その他の胃の疾患をやわらげる。

乾燥させてつぶして粉にし、鉄を入れたワインか水で飲むと、月経を改善する。

(略)

赤いバラは心臓、胃、肝臓を強くし、保持する作用をもつ。熱による痛みを和らげ、炎症を抑え、休息と睡眠をもたらし、おりもの・月経・淋病・尿路の膿・下痢を止める。汁液は黄胆汁と粘液を体から排出する。

(略)

蒸留水は目の熱と充血を治し、粘液や涙が流れ落ちるのを止めて乾かす。

 

心臓や胃、肝臓を強くし、頭痛を抑え、目、耳、喉、歯肉の痛みを軽くし、泌尿器から子宮にも効き、休息と睡眠をもたらすと、さまざまに使われていたことがうかがえますね。

 

「カルペパーハーブ事典」は、キンドルでも読むことができます。さまざまなハーブについて書かれていますので、興味のある方は読んでみてくださいね! ただし、17世紀当時のものなので、とくに体に直接塗ったり飲んだりする使い方には注意が必要です。

 

香りの力で心やカラダを癒すアロマセラピーの仕組み

ギリスやフランスでは代替え医療としてハーブやアロマセラピーが根付いていて、多くの方が生活にアロマセラピーを取り入れています。アロマセラピーの基本的考え方を3つのポイントでまず紹介しましょう。

 

1、香りが鼻の奥の嗅覚細胞に到達すると、その信号が大脳辺縁系に届き、快いまたは不快だという気持ちにダイレクトに反映されます。大脳辺縁系には記憶をつかさどる海馬もあるので、香りと結びついた過去の記憶が呼び起こされることもあります。

 

2、自律神経をつかさどる視床下部などに伝達された香り成分は、それぞれの香りに対応したホルモンを分泌させる働きがあるといわれています。

 

3、空気と一緒に肺に取り込まれた香り成分は、血液やリンパ液に乗ってからだじゅうを巡ります。皮膚に塗ると毛穴や表皮の角質層をとおして体内に香り成分が吸収され、これも毛細血管やリンパ管から体液にはいりカラダを巡ります。マッサージを併用することで、より効率的に香り成分をカラダに行き渡らせることができます。

 

アロマセラピーは主にヨーロッパを舞台に民間で発達してきたものです。西洋医学では顧みられることはなかったのですが、現代ではその効果を科学的に解明しようとする研究が盛んに行われています。その結果、さまざまな肯定的な研究結果が発表されています。実際の論文と照らし合わせながら、バラの香りが心身にもたらす働きを紹介しましょう。

 

バラの香りが心に働きかけて、ストレスを癒し気持ちを前向きにしてくれる!

生堂ライフサイエンス研究センターがニュージーランドで開催された国際生理学会議で発表した論文によると、「バラの香りにストレスホルモンが分泌されるのを抑制する働きがある」ことが報告されました。これにより、バラの香りにはストレスを緩和する働きがあると実証されたのです。

 

バラの香りが古くから気持ちを前向きに明るくしてくれるとされてきたことが、科学的に解明されたのです! 今の言葉でいえば気持ちが「上がる!」かんじでしょうか。確かにバラの香りには、まるでバラの花のようにパッと気持ちも華やかにしてくれる働きがあると思います! 「女性が自分に対して肯定的になる気持ちを引き出す香り」とも表現されますね。

 

バラの香りがカラダに働きかけて、女性ホルモンを増やしてくれる!

益社団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ)と長崎大学大学院の共同研究で、ゼラニウム精油とローズオットー精油の香り成分で、エストロゲンが増加したと発表しました。エストロゲンとは女性ホルモンのひとつで、これが急激に減少することで産後うつや更年期障害を引き起こすとされています。

 

このことから、ゼラニウムやバラの精油を利用したアロマセラピーが産後うつや更年期障害などの女性ホルモンが減少することから起きる体の不調に効果があることが解明されました。

 

さらにこの女性ホルモンには、肌の水分量や皮脂分泌をコントロールする働きもあります。女性ホルモンが減少すると肌年齢も上がり、乾燥肌になったり大人ニキビを作ったりすることにつながります。バラの香り成分には肌を若々しく美しく保つ働きもあるのです!

 

「ローズ・アルバ」の香りにはメラニン生成抑制効果が!

2012年にカネボウが発表したのが、「ローズ・アルバ」の香り成分にリラックス効果とメラニン生成抑制効果が認められたというものでした。

 

通常、バラの香りといえばロサ・ダマスケナなどのダマスク系統のバラがもつダマスク香をさします。ダマスク香は甘くうっとりするような濃厚な香りをもち、香水用や精油用に栽培されているバラは、ほとんどがダマスク系統のバラかダマスク系統に近いケンティフォリア系統のバラです。どちらもピンク色の花を咲かせます。

 

一方、「ローズ・アルバ」は、白い花を咲かせるのが特徴のアルバ系統のバラです。実際にかぎわけてみればすぐに分かるのですが、アルバ系統のバラは、ダマスク系統のバラとは少し異なるすっきりとした香りをもちます。この白バラ特有の香りを分析したところ、ダマスク香に劣らぬ強いリラックス効果が確認されました。

 

さらに、ダマスク香にはないRose anhydride(ローズ・アンヒドリド)という成分には、高いメラニン生成抑制効果が認められたのだそうです! カネボウではすでにこのローズ・アルバの香り成分を配合した商品を発売しているそうですよ!

 

毎日の生活にバラの香りを取り入れよう!

れまで見てきたように、バラの香りには女性に嬉しい効果が期待できる成分がたくさん含まれています。古くからさまざまに活用されてきたのには、やはり理由があったのですね! これを利用しない手はありません。とはいえ、本格的にアロマセラピーを勉強する必要はありませんよ。

 

バラを育てている方なら、身近にその香りを体に取り込んでいるはずですから。もっとその効果を実感したいなら、バラの香りを凝縮したローズの精油(エッセンシャルオイル)をアロマディフューザーで香らせたり、お風呂のお湯に入れたり、ローズの精油を使った商品を利用したり。毎日の生活にバラの香りを取り入れて、心とカラダの健康に役立てたいですね!

 

まとめ

古代ローマ時代と中世イギリスをピックアップしてこれまでバラの香りがどう使われてきたのかをまず紹介しました。ローマ時代、バラは王侯貴族たちの花だったのですね。二日酔いに効くからって、バラの花冠をかぶり、お酒にもバラを浮かべて。そこまでして飲まなくてもいいじゃないかと、ちょっと笑ってしまいました!

 

次に、著名なハーバリスト「ニコラス・カルペパー」の著書から、中世イギリスでのバラの使われ方を紹介しました。胃にも心臓にも頭にも、あらゆることに効果があると書かれているのですが、とくに子宮に効くとか休息と睡眠をもたらすというあたりは、現代にも通じるところがありますね。

 

現代では、アロマセラピー協会や化粧品会社がバラの香りについてさまざまな研究を重ねています。発表された論文から、バラの香りにはストレスを癒し気持ちを前向きにしてくれる、女性ホルモンを増やし産後うつや更年期障害に効果が期待できること、さらに美肌効果も期待できることが実証されました。

 

加えて、ダマスク香とは少し異なった香りをもつアルバ系統のバラにはメラニン生成抑制効果が確認された──つまり、シミ予防が期待できるってことですね!

 

女性に嬉しい効果がつまったバラの香り。バラの咲かない季節にも、上手に生活に取り入れていきたいですね!

 

▼バラを飲んで体の中から働かせる「No-Mu-Ba-Ra」について詳しくは、こちらをご覧ください。

 

参考

「薔薇の文化史」奈良大学紀要 第38号 中尾真理 http://repo.nara-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/AN00181569-20100300-1016.pdf?file_id=2242

「カルペパーハーブ事典」ニコラス・カルペパー著 

「精油の香り刺激により、女性ホルモン分泌量が上昇」公益社団法人 日本アロマ環境協会 www.aromakankyo.or.jp/pdf/news/417/web_%20estrogen_final.pdf

「ローズアルバの香り成分にリラックス効果とメラニン生成抑制効果を発見」カネボウ化粧品 https://www.kanebo-cosmetics.co.jp/company/news_material/pdf/20120403-01.pdf

 

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