バラは日差しを好む植物です。日照不足の環境では、日向と異なった育ち方をします。具体的にどんな育ち方になるのか、典型的な特徴を紹介します。また、半日陰での育て方10のコツもあわせてどうぞ。
日照不足のバラの育ち方は、明らかに日向と違う!
▲ロサ・オリエンティスの「シェエラザード」は耐陰性が低い品種
我が家は平均して午前中に3時間ていどの日照がある北東向きのベランダ、つまり半日陰の環境でバラを栽培しています。さまざまな品種を育ててみて、ネット情報では育てやすいと書いてあるわりに、ひどく育てにくい品種が一定数あると気づきました。最初は分からなかったのですが、やがてそれらは耐陰性の低い品種だと判明しました。
「日照が3時間あればバラは育てられる」と言われます。わたしもそう思います。でも、日照3時間ではまともに育たないバラもあるのです。耐陰性の低い品種は、日照3時間ではセオリー通りに育ってくれません。かなり特徴的でいびつな育ち方になります。
▲「リラ」も耐陰性が低い品種
我が家にはいくつか耐陰性の低いバラがあります。記事の前半では、それらを見て気づいた、育ち方の特徴を紹介します。あなたのバラも同じような特徴があれば、それは耐陰性が低い品種だからかもしれません。
もしくは、耐陰性が普通の品種なのに、あなたのバラがここで紹介するような育ち方をするのなら、きっと日照時間が3時間を切っている環境だと思われます。そこは、バラ栽培に適した場所ではありません。それでもこの場所でしかバラを育てられないのなら──少し手間はかかりますが、チャレンジする方法はあります。
記事後半では、半日陰でもバラを育てる場合のコツを紹介していきます。
典型的な日照不足のバラの育ち方
1、ブラインドだらけになる!
▲蕾がつかない枝をブラインドという
ほかの品種と同じように育てているのに、またはセオリー通りに育てているのにやたらブラインドが目立つなら、それはきっとエネルギー不足や光量不足です。ブラインドとは、通常なら蕾がつくはずの芽先が育たない上の写真のような状態をいいます。枝の先に芽も蕾もなく細くなってフェードアウトしているような感じです。
要するに蕾を育てるだけのエネルギーがその枝にないから、バラが自分で判断して蕾をつけなかったのです。
エネルギー不足の理由はいくつか考えられます。まず光量不足。1日に3時間以下の直射日光しか当たらない場所で育てているなら、バラが必要とする光合成量が得られていません。たとえ日向で育てていても、同じ株の日の当たる前の方は蕾がつくのに、裏側の壁の方はブラインドになるというのも、同じ理由です。
「耐陰性が弱い品種」を半日陰で育てている場合も光量不足からブラインドになりやすいです。
ブラインドになる理由はほかに肥料不足や芽かきが適切にできていない場合にも起こります。
2、1本の主幹しか育たない!
▲しっかり育つのは、なぜか1本だけ
上の写真は、新苗から育てた「シェエラザード」です。当時、知らずに購入してしまったのですが「シェエラザード」は耐陰性の低い品種です。
ロサ・オリエンティスの出店で購入した新苗で、なんと主幹4本もあるガッシリした状態の良い苗でした。新苗なのにこんなに立派なのかと、それは感激したものです。
ところが我が家で育て始めると、1本の主幹しか育ちません。ほかの3本の主幹も葉が茂り、枯れるわけではないのですが、花枝が上がらずぜんぶの芽がブラインドになってしまいました。
これは、この日照環境だと1本しか育てられないとバラが自分で判断した結果です。これ以降この株は、何年もこの状態のままでした。育つ主幹は1本のみで、それ以外の主幹は枯れなかったけれど、花枝を伸ばすことができない──つまり、1本の主幹しか花を咲かせませんでした。
3、次からつぎへと主幹が枯れてゆく
▲最初は5本あった主幹が次つぎ枯れてゆく
これも同じくロサ・オリエンティスの「リラ」の大苗です。「リラ」も耐陰性の低い品種です。最初は主幹が5本ほどあったのに、次からつぎへと枯れていきました。
でも、全部の主幹が枯れたわけではありません。「シェエラザード」のときと同じように、1本の主幹はしっかり育ち花を咲かせました。
「シェエラザード」の場合、主幹1本以外は生長を止めただけで枯れませんでした。けれど「リラ」の場合は枯れたということは、さらに耐陰性が低い品種なのでしょう。
日照不足の環境や耐陰性の低い品種で重要なのは、エネルギー管理
▲花も香りも素晴らしい「アジュール」も耐陰性が低いバラ
要するにバラを育てるには日照不足な環境だったり、耐陰性の低いバラたちは、健康に育つために必要なエネルギー量が足りていないから、花を咲かせられないブラインド枝が増えるし、主幹1本しか育てられないし、もっとひどくなると育てられる1本以外は枯れてしまう──そういうことです。
つまり日照不足の環境でバラを育てる場合や耐陰性が低いバラたちは、よりシビアなエネルギー管理が求められるのです。
主幹1本を育てるエネルギーしか得られないなら、少しでも多く光合成できる環境をつくり、少ないエネルギーでも健康に育てるよう枝や芽数を減らすなど、さまざまな工夫が必要です。後半では、半日陰でバラを育てるコツを10個紹介します。参考にしてください。
半日陰のバラ栽培10のコツ
1、日照不足に強い品種を選ぶ
▲新苗から1年たち、大きく育った「プリマヴィスタ」耐陰性は普通の品種
日照不足の環境でもバラを健康に育てたいなら、耐陰性が低い品種を選ばないのがもっとも確実な解決方法です。たとえば日照3時間の我が家では「耐陰性は普通」の品種なら問題なく育てられます。
上の写真は昨年、新苗で購入した「プリマヴィスタ」の4/19の状態です。新苗から2年目ということは、大苗で1年目と言い換えられます。「プリマヴィスタ」の耐陰性は普通です。
▲花径9cmの豪華な大輪花を房咲きに
この品種には驚かされます。購入直後から調子が良かったのですが、昨年はどんどん株が生長し、現在(5/19)の樹高は約1m。ほとんどの花枝の先に蕾が房状についていて、花数は約30輪を数えます。もちろん、枯れた主幹は1本もありません。
▲大苗から2年たった「リラ」。耐陰性が低い品種
こちらは大苗から3年目の「リラ」4/19の状態です。「リラ」は、耐陰性が低い品種です。樹高は55cmで、最初にあった主幹はすべて枯れ、現在残っているのは我が家に来てから発生したベイサルシュートが4本。そのうち2本(赤矢印のもの)は花枝を上げることができないブラインドだけの主幹です。
かろうじて蕾はついていますが、すべて1輪咲きでぜんぶで6輪の蕾が確認できます。
大苗1年目の「プリマヴィスタ」と大苗3年目の「リラ」。2年の差があるのに、耐陰性の違いでこれだけ育ち方に違いがでます。
日照不足な環境でバラを育てるなら、最初から日照不足に強い品種を選ぶこと。少なくとも「耐陰性は低い」という表示のある品種を選ばないだけでも、育てやすさは格段に上がります。
▼日照不足に強い品種を選ぶ方法は、こちらをどうぞ
2、「大苗」または「中苗」から育てる
▲ひょろりとした主幹1本の新苗
バラ苗には秋~冬に出回る「大苗」、春に出回る「鉢苗」「新苗」があります。
大苗と鉢苗はがっしりした主幹が3本ていどある苗ですが、「新苗」は通常、上の写真のようにひょろりとした主幹1本だけの頼りない苗です。
日照不足の環境なら、少しでも大きく育った苗の方が失敗しにくいので、「大苗」または「状態の良い鉢苗」から育てましょう。しかしわたしはここ数年「状態の良い鉢苗」を見たことがないので、「大苗」から育てる方がオススメです。
「バラの家」では、新苗を鉢のまま育てた「中苗」と呼ばれるものが夏ごろに出回りますが、「バラの家」の「中苗」は通常の大苗相当にしっかり育っているので、これもオススメできます。
2、地植えで育てる
▲鉢植えより地植えの方がバラが大きく育ちやすい
日照不足の環境なら、少しでも葉を増やして光合成を補いたいところです。そのため、鉢栽培よりも株を大きく育てることができる地植え栽培の方が向いています。
鉢栽培の場合は、適正な大きさの鉢を使うのをオススメ。地植えに近づけようと大鉢で育てたくなりますが、日照不足の環境だと土の乾きが遅いので、株に対して大きすぎる鉢で栽培すると根腐れのリスクが高くなります。
3、白い環境づくり
▲可能なら背景の壁を白っぽく塗って
少しでも明るい環境をつくるため、なるべく周りを白っぽくしましょう。可能なら壁や床を白く塗るなど工夫してください。
▲鉢土からの照り返しにも期待!
苗が小さいうちは、鉢土に白いものをかぶせるのも有効です。これまで培養土の表面にパーライトや赤玉土を撒いたりしたけれど、どうしても水やりで培養土と混じってしまうので、写真のように布を置くのがいいと思います。水やりや追肥など、手入れが少し面倒になりますけれど──。
布は、フリースやフェルトを選べば切り端がほつれず扱いやすいです。防虫ネットでもいいと思いますが、軽いので小石やUピンで留めるなど工夫すると良さそうです。
4、最初の1~2年は少しでも日照条件の良い場所で育てる
▲正午から日没まで日の当たる場所で育てた「リラ」
苗が小さいうちは、少しでも日当たりの良い場所で育てましょう。株が大きくなれば、それだけ悪環境に耐えやすくなります。
上の写真は、正午から日没まで日が当たる西側で1年間育てた「リラ」です。あまり大きく育っていませんが、この品種なりに生長できています。
▲最初から半日陰で育てた「リラ」
一方この写真は、ずっと半日陰で育てている「リラ」です。ご覧のように、最初にあった主幹は7本くらいことごとく枯れてしまいました。その後、半日陰の環境で発生した主幹はなんとか育っています。
5、肥料は通常の2/3~半分を目安に。活力剤を上手に使おう!
▲活力剤を上手に利用しよう
半日陰では、バラはゆっくり大きくなります。そのため、日向栽培と同じ量の肥料をあげてしまうと、肥料過多で葉を落としたり、場合によっては枯れてしまうこともあります。
半日陰での肥料やりは通常の2/3~半分を目安に。肥料を控えめにするかわりに、活力剤を上手に利用しましょう。
▼半日陰栽培で使う活力剤についてはこちらをどうぞ
6、比較的明るい環境なら、まず枝の高さをそろえる
▲バラは、背の高い枝をヒイキしてしまう
最初に紹介したように、半日陰でのバラの育ち方は、育てられる主幹1本だけをバラが自分で選び、それ以外を切り捨ててしまうことが多くあります。酷い日照不足の状態なら、それも仕方ありません。
でも比較的明るい半日陰の環境なら、主幹の優劣をつけないことで、複数の主幹を育てられることもあります。この場合は、主幹の高さをそろえることが大事です。頂芽優勢の原則から、バラは背の高い主幹を優先してしまいます。
7、適切な主幹の数、芽数を把握する
▲この株は、今のところ主幹2本が限界
半日陰では、十分に育てられる主幹の数にも芽数にも限りがあります。上の株は、せっかく主幹が4本あるのに、上手く育てられるのは2本だけのようです。赤矢印の2本は芽吹いたけれど、ブラインドになり育つことができませんでした。
▲半日陰栽培では芽かきはとくに重要
芽数は1枝につき1~2個に絞り、それ以外はきっちり芽かきします。半日陰栽培では、少ないエネルギーを分散させないためにも、芽かきは重要作業です。
8、半日陰に合ったベイサルシュートを出す
▲半日陰で出た主幹の方が、半日陰に適していると思う
これはわたしが半日陰栽培をしてきた経験から感じることなんですが──。耐陰性が弱い品種の場合、あまりにも日照時間の長いところで育った主幹は、半日陰では上手く育てないのではないかと。
半日陰では、半日陰の環境で出たベイサルシュートの方が良い結果になるように思うのです。
上の写真は「シェエラザード」の株元です。一番左側のやや太い主幹が最初から頑張って花を咲かせてきた古い主幹。右側のやや細い2本の主幹が半日陰で出たベイサルシュートです。
▲昨年出たベイサルシュート2本がしっかり開花(ピンクの花)
光合成要員として最初に古い主幹1本だけを大きく育てることで、2本のベイサルシュートを出すことができました。今年はこの2本がしっかり開花してくれました。
詳しいやり方は、また別の機会に紹介します。
9、病虫害を予防する
▲病虫害は、出る前の予防をがんばろう
半日陰は、バラが軟弱に育ちやすい環境です。病気にもかかりやすいし、少しのダメージが株全体に深刻な悪影響にもなりやすい。日向栽培なら、少しの病虫害も難なくリカバリーする強さをもつ品種でも、半日陰栽培では命取りになる恐れもあります。
だから、病気になる前、害虫被害が出る前の予防が重要です!
10、しっかり観察する目を養う
▲バラの不調に気づける観察眼を養おう
ここまで、半日陰栽培でのコツを9つ紹介してきました。日照が十分でないだけで、気をつけるべきことがこんなに増えるのか!という感じですよね。
自宅に日照不足の環境しかなくても、それでもバラが好きで身近に育てて楽しみたいなら、しっかり観察しバラの不調に気づく目を養ってください。もちろん、知識や経験も大切です。
今年ダメならまた来年──と、長い目で観察することも必要です。
それでも上手く行かなかったら、そんなこともあります。場合によっては、別品種に切り替える潔さも必要です。
まとめ
今回は、前半では半日陰栽培でバラがどんな育ち方をするか、後半では半日陰でバラを育てるコツを10紹介しました。
ロザリアンの中には、あまり日照条件の良くない環境で育てている方もいらっしゃるでしょう。少しでもそんな皆さまのお役に立てたら幸いです。
毎年、魅力的なバラが登場します。新規性のある花形や花色、強香品種、さらに病気に強い品種だったり、花をたくさん咲かせる品種だったり、耐暑性に優れた品種という機能性に優れたバラも育種されています。
ここでもう一声!日照不足にも耐える、耐陰性の高い品種のバリエーションもゼヒ増やしていただきたい! 育種家の先生がた、どうぞよろしくお願いします!
▼「半日陰のバラ栽培」の記事は「冬の手入れ」の下にあります