バラの芽吹きから冬の休眠期まで、1年をとおしてバラがどんなふうに育つのか追いかける「そだレポ」企画です。今回は河本バラ園の「エバンタイユドール」です。季節ごとに更新していくので、お楽しみに!
「エバンタイユドール」は、こんなバラ
▲内側から輝くような金色「エバンタイユドール」 写真提供/天女の舞子
今でこそ海外の育種家も手掛けることがある茶系のバラは、長く日本独自の美意識としてはぐくまれてきました。シックで大人びた独特な美しさはあるものの、万人受けしづらかったり、育てにくい品種が多かったりで、バラ園にあることは少なく、実際の花になかなかお目にかかれないバラでもあります。
そんな渋いツウ好みな茶バラのなかでも異彩を放っているのが、2009年に作出された「エバンタイユドール」です。作出者は河本バラ園の河本純子さん。最も耽美的なバラの育種家のひとりに数えられる方です。
「エバンタイユドール」(eventail-dor)は、フランス語で「金色の扇」の意味。花びらの付け根や裏側に黄色味を感じさせるからか、茶色というより金色に見えます。内側から光を放つような唯一無二の花を波打つ花びらでふんわり咲かせる、上品で優美な印象のバラです。
とても素敵なバラですが、栽培難易度は高い。バラの家のカテゴリーでは「美しく個性的だが、気難しいバラ20選」に選ばれています。
バラの家のスコアは 樹勢/弱い ウドンコ病/普通 黒星病/弱い 耐陰性/とても弱い 耐寒性/とても弱い 耐暑性/弱い。
なかなか・・・ハードそうです。日当たりの良い環境で、しっかりローテーションを組んだ薬剤散布ができ、さらに季節ごとの適切な管理ができる上級者向けですね。一旦、調子を崩すと枯れこみやすいという記述も見かけました。
樹高60~90cmのコンパクトなHTなので、鉢栽培向きです。
今回育てる「エバンタイユドール」の環境DATA
四国の家の北側にある庭の鉢植え(日照は半日、風通しは良い場所) 7月に家の南側(日照4時間ほど)に移す予定
昨年の冬に届いた大苗
今年の目標/頑張って秋花を咲かせます。春花は状態次第。
育てる人/アスタルティ
*バラの育て方は、育てる場所により、それぞれの木の状態により、また目的や好みによっても人それぞれです。ここで紹介する育て方は、一例として参考になさってください!
3月3日の「エバンタイユドール」/芽吹きの季節
▲樹高は40cm。なるべく高めの冬剪定にしています 写真提供/アスタルティ
発表された当時は、知名度が低かったらしい「エバンタイユドール」。ひらひらとした耽美的な茶色のバラは個性があり、少しずつ有名になっていったそうです。しかし栽培難易度の高さも折り紙付き。
私の身近には茶色のバラを育てている人はいないため、一度咲いている姿を見たいと思いお迎えしてみることにしました。
3月、芽吹きの季節を迎え、昨年に物凄く手こずった「エバンタイユドール」の芽が動き出しました。状態は去年よりよく、新芽もまともに出ています。
このバラは去年状態が悪く鉢増しをしなかったため、2月に一回り大きな10号鉢に植え替えています。この品種は根が重要なので、お高いですが信楽焼の鉢にしました。
▲主幹は5本です 写真提供/アスタルティ
昨年のこの株は、主幹が2本枯れ、2本ベーサルシュートが生えました。苗の状態的に、今年はベーサルシュートは望めないかもしれません。枯れこみに気を配りながら育てていきます。
▲昨年5月28日の「エバンタイユドール」 写真提供/アスタルティ
参考までに、上の写真は昨年5月の「エバンタイユドール」です。
花後の剪定どころか、春花を咲かせてもいないのにこの状態です。どれだけ苦労したのかわかってもらえるかと・・・。どうも根が弱いらしく、耐寒性もかなり弱めなので、昨年はトラブル続きでした。
液肥・肥料は最小限にし、鉢増しもせずに、ひたすら病気や害虫の防除をしつつ好転を待っていました。
秋花が知らないあいだに咲いていたそうですが、私は見ていません・・・。今年は美しい茶バラを見られるよう頑張ります。
この時期の手入れ
1月 防寒のためのマルチング
「完熟のたい肥」(相原バラ園)で、鉢表面にマルチングを行っています。土壌改良効果もありますし、気温が低いため虫もわきませんでした。
2月 植え替え
植え替えで使用したバラの土は「バラの培養土」(相原バラ園)。元肥入り培養土です。
3/2 薬剤散布
「STダコニール1000」+「STサプロール乳剤」(どちらも住友化学園芸)。濃度は規定値です。
3/3 液肥+活力剤
「ストレスブロック」(ハイポネックス)+「高濃度フルボ酸活力液アタックT-1」(花ごころ)
「ストレスブロック」は水10ℓあたり規定値の25%、「アタックT-1」は75%で使用。我が家のバラ全体で一回で20ℓ使っています。薬害が出ないことは、去年の時点で確認しました。
■隙間時間を利用しての芽かき
5分くらいの隙間時間を利用して、コツコツと芽かきをしています。一度にやるより、負担が減りました。
■スタンドに鉢を載せています
冬の間は強風対策で鉢を固めて置いていましたが、春の兆しが見えてきたので空気の循環を良くするためスタンドに載せました。
3月30日の「エバンタイユドール」/新芽が伸びる
▲3月30日のエバンタイユドール。樹高60cm 写真提供/アスタルティ
去年は初夏まで手こずった「エバンタイユドール」ですが、今年は機嫌が直ったらしく素直に新芽が伸びてきました。
このバラは機嫌が悪いとブラインドをしたり、枝枯れしますが、写真のように新芽が伸びたらもう大丈夫です。
一つの枝に新芽は1~2個だけ残し、あとは芽かきをしています。風通しを良くすることで病気や害虫の対策になるので、後で楽になりますよ。
▲葉の大きさは去年より1.5倍増! 写真提供/アスタルティ
ウドンコ病にもかからず、スクスク育っています。
栄養を葉の展開などに使っているらしく、蕾はまだ見えません。今年そだレポをしている品種(エバンタイユドール、アンナプルナ、ピルエット、ブルードレス)の中では、一番開花が遅くなりそうですね。
▲気難しいけどトゲは少ない「エバンタイユドール」 写真提供/アスタルティ
最近はデルバールから「ラリデガゼル」、河本バラ園から「パニエ」、バラの家から「ルクソール」と耐病性が高めの茶バラが増えてきています。
そんななか「エバンタイユドール」の長所を一つ上げるとするなら、トゲが少ないことでしょうか。枝も込み入らないので、取り扱いはかなり楽です。鉢植え向きのバラですね。
わたしは、このバラの魅力はなんといっても花色だと思います^^ 「ラリデガゼル」も「ルクソール」も乾いた砂を連想させるネーミングの通り、砂色なんですよね。でも「エバンタイユドール」はゴールドを感じさせる華やかさがあり、やはり唯一無二なバラです!
この時期の手入れ
【殺菌剤】
3/9 ジマンダイセンフロアブル(ダウ・アグロサイエンス日本)
3/30 フルピカフロアブル(クミアイ化学工業)
展着剤は「アビオンE」(アビオン)を使用しています。殺虫剤は、気温が低かったこともあり未使用。
【肥料】
3/6 RSKバラ園バラの肥料(松栄産業)を一つかみほど、鉢の周囲に撒きました。
【活力剤・バイオスティミュラント資材】
3月上旬、下旬に合計2回、「ストレスブロック」(ハイポネックス)+「高濃度フルボ酸活力液アタックT-1」(花ごころ)
「ストレスブロック」は水10ℓあたり規定値の25%、「アタックT-1」は75%で使用。我が家のバラ全体で一回で20ℓ使っています。
【その他資材】
3/23 カキ殻有機石灰を10g、株の周囲に撒いています。
【芽かき】
隙間時間に、ちょっとずつ間引いています。
4月28日の「エバンタイユドール」/ぐっと背が高く・蕾ふくらむ
▲樹高95cm。
今年そだレポをしている品種(「エバンタイユドール」「ブルードレス」「アンナプルナ」「ピルエット」)の中では、一番蕾がつくのが遅かった「エバンタイユドール」ですが、少しずつ膨らみ始めました。
蕾が遅かった分、栄養が枝の伸びにいってるのか、どんどん背が高くなっています。
▲葉先がほんのちょっと肥料焼けに 写真提供/アスタルティ
上の写真の左側にある葉の先に、ほんの少し肥料焼けがあります。この程度なら問題ないですが、肥料は他のバラより少なめのほうがいいようです。成長途上の株なので、蕾は減らしています。
バラゾウムシの被害が少しあたので、一部カットしつつ葉かきも行っています。「エバンタイユドール」は直立樹形ですが、「ブルードレス」より枝の間隔が空いているので葉かきをしやすいですね。
▲強風で少し斜めに・・・ 写真提供/アスタルティ
「エバンタイユドール」や「ブルードレス」、「ガブリエル」に「ルシファー」のような背が高くなる品種は支柱を立てて補助してあげたほうがいいですね。
この信楽鉢はやや小さく、支柱を立てるには安定性の面で不安なので、今回は
この時期の手入れ
【殺菌剤】
4/6 「STダコニール1000」+「STサプロール乳剤」(どちらも住友化学園芸)
4/28 ジマンダイセンフロアブル(ダウ・アグロサイエンス日本)
【殺虫剤】
4/28 プレオフロアブル(住友化学)
【活力剤など】
4/7 「ストレスブロック」(ハイポネックス)+「高濃度フルボ酸活力液アタックT-1」(花ごころ)
【追肥】
4/13 ユーキリン(リン酸肥料)+ミラクル(アミノ酸肥料)を1:1で。(どちらも相原バラ園)
【虫対策】
バラゾウムシやカメムシを見かけたら、「ベニカXネクストスプレー」(住友化学園芸)をシュッと一吹きしています。
5月6~18日の「エバンタイユドール」/春の一番花が開花
▲5月6日。最初の一輪が開き始め 写真提供/アスタルティ
まるでバラの開花に合わせたように降った雨の中、5月6日に最初の一輪が開き始めた「エバンタイユドール」。いままで見たことのない、変わった色味をしています。茶色というより黄土色に近く、ひらひらとした姿で蕊(しべ)がすぐに見え始めました。
花弁数が少ないためか、ボーリングはしません。肥料食いというわけでもなさそうなので、施肥はあまりしなくてもよさそうです。
▲5月12日。相変わらず降る雨の中で撮影 写真提供/アスタルティ
降りしきる雨の中、「エバンタイユドール」は軒先に避難させていました。おかげで花にあまり雨傷みがありません。黄土色に咲いた花は、咲き進むと茶色が濃くなってくるようです。
茶系でひらひらとした花弁の花は、まさしく唯一無二。似たようなバラを見たことがありません。
▲5月18日。日の光の下ではまさに「金の扇」 写真提供/アスタルティ
完全に咲き切ると、こういう色合いに。日の光の下では、オレンジでもなく茶色でもなく、まさに黄金色に輝きます。
花の大きさは7~8cmの中輪房咲き。側蕾を間引いて、大きめの花をポンポン咲かせると、豪奢な樹姿になりますね。
花もちはかなり良く1週間は保ちますし、切り花にも使えます。香りは微香で、ほぼ感じませんでした。
この時期の手入れ
5/5 ベニカネクストスプレー(住友化学園芸)を蕾や花に使用(コガネムシ対策)
5/11 フルピカフロアブル(クミアイ化学工業)
エバンタイユドールは直立したHTなので、狭い軒下に置いています。
6月22日の「エバンタイユドール」/暑さで生長がストップ
▲6月22日。暑くなり生長が止まってきた 写真提供/アスタルティ
春の1番花後に剪定した後、急激に暑くなってきたため「エバンタイユドール」の生長が止まり始めました。
このバラは、同じ河本バラ園の「ガブリエル」、「ルシファー」、「ヴァグレット」や、今年そだレポしている「ブルードレス」と比較しても夏の暑さには弱いです。二重鉢にして、暑さから根を守るようオススメします。
▲暑さによる葉の黄変 写真提供/アスタルティ
気温が高くなると、この通り葉が黄変していくので、こまめに取っていきましょう。その分、虫はあまりつかない傾向があるので、管理は比較的楽です。
このバラ、気温が高すぎる都市部だと、おそらく葉が全部落ちてしまうのではないかと・・・。
この時期の手入れ
【殺菌・殺虫剤】
5/26 「STダコニール1000」+「STサプロール乳剤」(どちらも住友化学園芸)
6/2 ダイアジノン粒剤3(住友化学園芸)
6/22 ジマンダイセンフロアブル(ダウ・アグロサイエンス日本)
【追肥】
6/16 RSKバラ園バラの肥料(松栄産業)を一つかみほど、鉢の周囲に撒きました。
殺菌剤は2週間に1回散布していますが、黒星病は出ていません。
塩害で多くのバラが葉にダメージを受けたせいか、今年は我が家のバラたちに、イモムシ系の害虫はあまり見かけませんでした。あまり美味しくなさそうですしね、見た目的に。
8月下旬の「エバンタイユドール」/耐暑性は中の下ていど
▲8月下旬の「エバンタイユドール」かなりボロボロ 写真提供/アスタルティ
過去最大の猛暑に見舞われた今年のバラですが、どの品種も大なり小なり葉焼けが起きています。
7月下旬まではなんとか蕾を上げていた「エバンタイユドール」ですが、文字通り猛暑の8月には、もう蕾もつかなくなり、完全に生長がストップしました。
「エバンタイユドール」の暑さの耐性は、ABCで分けるなら、BとCの間に見えます。Cだと葉がほぼ全部落ちるとかの影響が出ますが、このバラはそこまで至っていません。Aのバラは西日を浴びても花が咲きますが、そこまでの暑さの耐性はないですね。
液肥を与えていたらもう少し生長したでしょうが、あまりにも気温が高くて人間が熱中症になりそうなので無施肥にしています。予定では、夏剪定をした後に液肥や肥料を与えていこうかと。
8/28ごろに大型の台風が訪れるので、8/26に場所を移動させたりしていきます。
この時期の手入れ
薬剤散布、追肥共になし。9月初めの夏剪定までは、防除も追肥もしない予定です。気温が高すぎて、どのバラも黒星病にはかかっていません。
雨の当たらない場所においてあるバラは、ハダニが発生しやすいのでホースから水をかけて退治しています。
水やりは、1日2回朝と晩にやっていますが暑くて大変・・・。
8月25日・9月15日の「エバンタイユドール」/早いめの夏剪定とその後
▲8月25日。夏剪定前の様子 写真提供/アスタルティ
今年(2024年)の夏剪定は、8月25日に行いました。
今年は猛暑が激しい年なので夏剪定を9月にずらしても良かったのですが、8月末に発生した大型の台風10号の接近による枝折れなどの被害を防ぐため、台風の強風が吹き荒れる前の8月25日に夏剪定することに決めました。
上の写真が夏剪定前。夏バテを起こしているので、ここから少しだけ切り戻します。
▲同じく8月25日。夏剪定で10cmカット後 写真提供/アスタルティ
「エバンタイユドール」は気難しくて葉も少ないため、台風の被害は少ないと判断して少しだけ切り戻しました。セオリー通りに切り戻すと秋にまるで動かなくなってしまいますし、この辺りは恐る恐る10cmほどカットしました。
ちなみに結局、台風10号は雨台風で強風はたいして吹きませんでした。雨はかなり降りましたけど。
▲9月16日の「エバンタイユドール」。動きなし 写真提供/アスタルティ
ここからは、夏剪定から約20日後の9月16日の様子です。
同時期に夏剪定を行った我が家のほかのバラたちがどんどん芽吹くなか、「エバンタイユドール」はほとんど動きがありません。もう9月中旬なのに、気温が36度を超えているから夏バテしたままのようです。
他のバラは順調に芽吹きだしているので、猛暑への耐性の低さが出た格好ですが枯れてはいないので、このまま様子を見続けることにしました。
この時期の手入れ
【殺菌・殺虫剤】
8月25日 「ベニカファインスプレー」(住友化学園芸)散布
9月16日 「ベニカXネクストスプレー」(住友化学園芸)散布
【追肥】
9月7日 「RSKバラ園バラの肥料」(松栄産業)を一つかみほど、鉢の周囲に撒きました。
【活力剤など】
9月7日 「ストレスブロック」(ハイポネックス)+「高濃度フルボ酸活力液アタックT-1」(花ごころ)
8月25日にすべてのバラを夏剪定しましたが、当時風が少し出ていたのでスプレー剤を使用しました。9月16日は、黒星病に弱い品種(「バラの家」の表示でタイプ3・4の品種)のみ薬剤散布しています。
今年は暑すぎたためか、去年より薬剤散布の回数が減っているにもかかわらず病気は出ていません。追肥は台風が過ぎ去った後に施しました。
育てた人紹介/アスタルティ
もともとわたしは、花にあまり興味がありませんでした。
転機になったのは、コロナが蔓延しはじめた2021年3月ごろ。人ごみを避けて立ち寄った園芸店で、キレイに咲いていたマーガレットを1鉢購入しました。そのマーガレットがあまりにキレイだったので、ほかにも何か──と、4月ごろに園芸店を再訪。そこで出会ったのが売れ残りらしき「リアン・ローズ」というバラでした。ほかのバラ苗は傷んでいるものが多かったのですが、「リアン・ローズ」は病気ひとつなく、元気に枝が伸びていました。
そんな健気なバラに元気をもらったわたしは、これも何かの縁と「リアン・ローズ」を購入。「リアン」の意味がフランス語で「絆」ということも知らなかったわたしは、知らず知らずのうちにロザリアンとして歩むことに。
「絆」には「しがらみ」や「呪縛」の意味もあります。わたしはバラを育てるというしがらみに囚われつつも、このそだレポで誰かの助けになればいいと考えています。
そう。
「絆」には「支えあい」や「助け合い」という意味もあるのです。
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