フェンスを覆うように咲くつるバラって、やっぱり憧れの光景です。たわわに咲いたバラのアーチなんてのも夢がありますよね。せっかくだから、春だけ咲く品種よりも四季咲き品種を選びたいとだれしも思ってしまうものですが・・・でも、じつは「四季咲きのつるバラなんてない!」って言ったら驚きますか? ここでは「四季咲き」と「つるバラ」の関係について調べたことを紹介します。
「四季咲きつるバラ」アンジェラの咲き方
四季咲きのバラと聞いて、どんな咲き方をイメージしますか? 「春から秋までずっと咲くのよね?」って感じの答えがほとんどでしょうか。
アンジェラは花つきのよい品種として有名なバラ
▲フェンスいっぱいに咲く「アンジェラ」の春花
たとえば、これは我が家の今年の5月のベランダの様子です。
フェンスに誘引したアンジェラが、今年もたっぷり花を咲かせてくれました。マンションの高層階なので、フェンスの外から見ることができなくていつも残念なのですが──。この写真は、手を伸ばして撮りました!
アンジェラは、強健でよく咲く初心者にもおすすめのバラとして知られています。とあるバラ苗を販売するネットショップではこんなふうに紹介されています。
アンジェラ
クライミングローズ Climbing Rose
モダンローズ つるバラ 四季咲き 中輪
こちらのショップに限らず、アンジェラは「四季咲きつるバラ」として紹介されています。が・・・じつはこのバラはドイツのコルデス社で作出されたバラで、コルデス社のカタログでは「フロリバンダ」と記載されているのだとか。
アンジェラは日本で育てると、本国ドイツと育ちかたが変わってしまうバラ
フロリバンダといえば四季咲き性の中輪房咲きするブッシュ樹形のバラです。
▲四季咲き品種の基本樹形、ブッシュ樹形
ブッシュ樹形といえばこんな感じの樹形で、枝は堅いし長く伸びないはずなんです。ドイツでは確かにブッシュ樹形なんでしょうが、これを日本に持ってきて育ててみると、気候が温暖なせいでぐーんと伸びてしまったということのようです。
▲シュラブ樹形は、枝の短いタイプならなんとか自立できる。枝の長いタイプだと自立することは難しい樹形
▲枝先が長く伸びるクライミング樹形は、自立することができない樹形
アンジェラの日本での樹形はシュラブ樹形と書かれていたり、クライミング樹形と書かれていたりします。我が家では鉢植え栽培の上に、北東向きのあまり陽当たりのよくないベランダなので、枝先は2mていどです。枝は堅く、おそらく誘引しなくても自立できると思うので、わたし的にはシュラブ樹形かな~と思っています。
*追記:この後さらに枝先が長くなってしまったので、自立はムリになりました。
ただし、日当たりたっぷり&肥料たっぷりで庭植えで育てている方のブログでは、2m以上に枝を伸ばしているようでしたので、環境によりけりなようです。
我が家のアンジェラの咲き方は、春にたっぷり、あとはぽつり、ぽつり
▲花の後、シュートがぐんと長く伸びる
春に賑やかに花を咲かせた我が家のアンジェラは、その後、花を休憩します。花がらを切ったところから新芽が伸びてくる気配はまったくありません。その代わり、びよーんと長くベーサルシュートが伸びてきます。これは来年たくさん花を咲かせてくれる大事な枝です。2mくらいに達したら枝分かれして大きな葉を茂らせています。シュートの枝先につぼみがつく気配はありません。
▲ぽつりと1輪だけ咲いた「アンジェラ」の夏花
夏の間に一輪だけぽつり! と花が咲きました。そして、台風の風に乗って2日くらいで散っていきました。秋にも忘れた頃にぽつり、気が向くと真冬の1月にぽつり、と咲いたこともありました。
さて、このような咲き方をするバラは、はたして「四季咲き」なんでしょうか?
咲き方の分類上からすれば、これは「四季咲き」ではなくて「返り咲き」だと思います。
アンジェラは、日本にきて枝の伸び方も咲き方もドイツと大きく変わってしまったバラです。どうやら環境の変化に敏感なバラのようですね。
▼開花習性についてくわしくは、こちらをご覧ください。
「四季咲きパティオ・ローズ」モンタギューの咲き方
ベランダには、四季咲きのパティオ・ローズ「モンタギュー」もあります。こちらの咲き方も紹介しましょう。
モンタギューは30日周期で、春から晩秋まですべての枝先に咲き続ける!
▲パティオ・ローズの「モンタギュー」
今年のモンタギューの一番花の開花は5月12日でした。樹高45cmていどの小さなバラなので、6株を2鉢に寄せ植えしているのですが、アンジェラのように房咲きするバラではなく、花枝の先に一輪ずつ思いおもいに咲いてくる感じです。花の後、軽く剪定しておくと30日ほどで次の花が咲きます。
▲9月1日のモンタギュー
上の写真は、9月1日現在のモンタギューの様子です。開花している花が2輪、それ以外の枝先にはすべてつぼみが付いています。5月12日の一番花が咲いてからもう何度めのつぼみでしょうか? おそらく4度めのつぼみです。秋花をそろえて咲かせるために、このつぼみをカットしてしまおうかどうしようか、悩むところです。
モンタギューの樹形はブッシュ樹形
モンタギューは、全体に枝の細いタイプですがブッシュ樹形です。春から晩秋まで休むことなく安定して30日周期で花を咲かせ続け(寒くなると40日くらいかもしれません)、冬に休眠して、春に数本のシュートを伸ばしてその先に一輪ずつ花を咲かせます。典型的なハイブリッド・ティー系統の育ち方をします。
▼樹形についてくわしくは、こちらをご覧ください。
アンジェラとモンタギューの比較
アンジェラ | モンタギュー | |
樹形 | シュラブ樹形またはクライミング樹形 | ブッシュ樹形 |
春花の数 | 1株に300~400輪(房咲き) | 1株に3~4輪(一輪咲き) |
夏花の数 | 1株に0~1輪 | 1株に3~4輪 |
秋花の数 | 1株に0~1輪 | 1株に3~4輪 |
育ちかた | 典型的なシュラブ樹形またはクライミング樹形の育ち方 | 典型的なハイブリッド・ティー系統の育ち方 |
モンタギューは四季咲き。では、アンジェラは?
▲アンジェラは四季咲き?
モンタギューは、春から秋まで同じ周期でつぼみを上げます。花数も変化がありません。ただし、夏花は花のサイズが少し貧弱になるのと退色が早いです。これは気温が高いせいですね。モンタギューは花の咲き方も、樹形も、さらに育ちかたも、典型的なハイブリッド・ティー系統の特徴があります。
モンタギューはハイブリッド・ティー系統の「四季咲き」品種ですね。
では、アンジェラはどうかというと。春には爆発的に花を咲かせていますが、夏~秋はほとんど咲きません。樹形も育ちかたもモンタギューとは異なりますね。作出された本国ドイツではフロリバンダとして登録されたそうですが、日本ではフロリバンダというよりは、モダン・シュラブ系統またはクライミング系統の育ち方をします。花の咲き方は返り咲きになるようです。
アンジェラをモンタギューと同じレベルで「四季咲き」というのは、かなり抵抗があります。
バラが四季咲きになる仕組み
▲つるアイスバーグ
バラが四季咲きになる仕組みについて、とても分かりやすい説明を読んだので要約して紹介します。
原種のバラは、中国原産のロサ・キネンシスを除いてすべてシュラブ樹形で一季咲きです。ロサ・キネンシスだけがブッシュ樹形でかつ四季咲き性をもっている原種バラです。
「シュラブ樹形と一季咲き」「ブッシュ樹形と四季咲き」この二つは、どうやらセットになっているようです。
たとえば四季咲きのバラから、突然変異の枝替わりでつるバラができることがあります。でも、このつるバラは四季咲きにはならず春のみの一季咲きになります。
フロリバンダ系統の白バラとして有名なアイスバーグという品種があります。アイスバーグには、枝替わりで生じたつるアイスバーグという品種があります。もともとのブッシュ樹形のアイスバーグは四季咲きですが、つるアイスバーグは一季咲きです。枝を長く伸ばす性質と四季咲き性質をどちらも満たすことは、バラにとって難しいようなのです。
▲枝を長く伸ばす品種は四季咲きにならない
シュラブ樹形やクライミング樹形のバラは、春の花が終わったらベーサル・シュートが伸びてきます。この枝は、翌年の主幹になる大切な枝です。四季咲きのバラが夏も秋も花を咲かせるのに使うエネルギーを、一季咲きのバラはベーサル・シュートを伸ばすために使っているのです。
だから、つるを長く伸ばすシュラブ樹形やクライミング樹形と四季咲きは共存できないのです。
「四季咲きつるバラ」という表記は間違い?
つるを長く伸ばす性質と四季咲きが共存できないのなら、「四季咲きつるバラ」という表記はおかしいですよね。でも、皆さんご存知かと思いますが、ほとんどのバラ苗を扱っている販売店では当たり前に「四季咲きつるバラ」が存在します。
その理由は「四季咲き」という言い方をどう捉えるかに差があるからです。
厳密には「四季咲き」とは、上の例でいえばモンタギューのような咲き方をするバラです。30日とか45日とかの間隔をあけて(間隔の日数は品種や剪定のしかたによります)必ず枝先につぼみをつけるバラが四季咲きのバラです。こういう咲き方をするバラは、かならずブッシュ樹形になります。
厳密でないアバウトな捉え方をすると、春~秋まで(花数は少なくても)咲く可能性があるのなら「四季咲き」と言う場合もあります。シュラブ樹形のバラやつるバラには、返り咲きする品種も珍しくありません。「そこそこ返り咲くのなら、これはもう四季咲きと言っていいでしょう!」と、捉える人もいます。
「四季咲き」も「つるバラ」も消費者に歓迎される売り言葉
庭にバラを植えるなら、アーチやトレリスに誘引して壁面を立体的にバラで飾りたいという気持ちのある方が多いので、「つるバラ」を求める消費者がとても多いのだそうです。しかも、どうせなら春だけでなく何度も花を咲かせてくれた方が嬉しいですよね。ということで「四季咲き」を求める消費者もとても多いのだそうです。
こういったことから、多くの販売店では「四季咲きつるバラ」という表記を採用しているというのが実際のところのようです。
「四季咲きつるバラ」と書かれていたら「環境がよければそこそこ返り咲きするのかな?」というくらいに思っておけばいいのだと思います。枝先を軽く剪定しておけば、必ず1ヵ月~1ヵ月半後にそこにまた花が咲くという本来の意味での「四季咲き」とは違います。
まとめ
今回は「四季咲き」と「つるバラ」が共存するかどうかについて調べてみました。厳密な意味でいえば「四季咲きのつるバラはない!」と言えます。ただし、「四季咲き」の意味をそこまで厳密に捉えている消費者ばかりではないと思います。多くの人が「1年じゅう咲くのね~!」というくらいのざっくりとした捉え方をしているでしょう。
「四季咲きつるバラ」と書いている販売店さんは、多くの消費者の目線に立った分かりやすい表示を採用している、ともいえます。
実際に「四季咲きつるバラ」を購入したけれど、育ててみると「どうもブッシュ樹形の四季咲きと違うなぁ~? これって本当に四季咲きなの?」と違和感を感じているロザリアンも多いようです。
*追記:このテーマでさらに詳しく書きなおした記事があります。よければ、そちらもご覧ください!