バラと人の関わりは古く、紀元前2000年ごろに建てられたクノッソス神殿のフレスコ画に描かれたバラが、世界で初めて描かれたものといわれています。古くから人々に愛されたバラには、多くの神話が残されています。ギリシア神話に登場するバラと神々にまつわる話を紹介します。


ギリシア神話のバラ

存するもっとも古いバラの絵は、紀元前2000年ごろに建てられたクノッソス神殿のフレスコ画に残されています。バラと人との関わりは今から4000年以上も昔にさかのぼることができるのです。

 

ギリシア神話ではバラは愛と美の女神アフロディーテを象徴する花とされ、アフロディーテとともにひんぱんに登場します。バラにまつわる有名なギリシア神話を5つ紹介します。

 

その1、バラはアフロディーテとともに生まれた

▲「ヴィーナスの誕生」( La Nascita di Venere)(ボッティチェリ)1483年ごろ

元前8世紀ごろの古代ギリシアの吟遊詩人ホメロスによると、アフロディーテ(=ローマ神話でのヴィーナス)は大神ゼウスと大洋の神の娘ディオネにより海の泡から生まれます。

 

(*紀元前700年ごろの古代ギリシアの叙事詩人ヘシオドスは、クロノスがウラノスの男性器を切り取って海に投げたときに、その血と泡が交じり合ったところからアフロディーテが生まれたとされています。)

 

海の神により絶世の美女アフロディーテが生まれたので、陸の神が「わたしにも美しいものが生み出せる」と言ってバラを創り出し神々は神酒ネクタルをバラに注いでその完璧な美しさを賞賛したと伝えられています。

 

生まれたばかりのアフロディーテは西風ゼフィロスによりキプロス島に漂着します。季節の女神ホーラたちはアフロディーテに美しい衣を着せ、オリンポスの神々の宮殿に連れていきます。オリンポスの神々はアフロディーテの美しさを賞賛しオリンポス12神の一人に加えました。

 

こうしてアフロディーテは、愛と美と性をつかさどる女神となりました。戦の女神としての側面も、あわせもちます。

 

▲古代のアルバ・ローズ(ロサ・アルバ)にもっとも近いとされる「アルバ・セミプレナ」

 

ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」の左に描かれている頬を膨らませているのが西風ゼフィロス、ゼフィロスの体につかまりながら花を散らしているのが花の女神フローラ、ヴィーナスの右に描かれているのが季節の女神ホーラです。花の女神フローラが撒いている白い花がバラで、このバラはアルバ・ローズだったと言われています。

 

▼古代のアルバ・ローズにもっとも近いといわれている、ロサ・アルバについて詳しくは、こちらをご覧ください。

 

その2、バラは誇り高きローダンテが姿を変えた花

A bee sucking nectar of
A bee sucking nectar of “Pink Everlasting” / PsJeremy – so behind, need to catch up

▲現在ではローダンテの名前はバラではなく「ローダンセ」につけられている

リシアのコリントに、美しく、賢く、誇り高いローダンテという名の女性がいました。3人の若者に求婚されたローダンテは一人を選ぶことができず、アポロンとアルテミスの神殿に身を隠します

 

ローダンテを追ってきた3人の若者が神殿に入ろうとしたので、ローダンテは姿を現し「ここは神殿です。汚してはいけません」と、若者たちを止めました。その姿があまりに毅然としていたので、若者たちは「ローダンテこそが我らの女神だ」といって、アルテミスの像を下ろして神の台座にローダンテを上げようとします

 

それを空の上から見たアポロンは、ローダンテが自分でアルテミスの台座に上ろうとしていると誤解し、太陽の光の矢でローダンテの身体を打ちました。すると、見る間にローダンテはバラの花に姿を変えてしまいました。3人の求婚者たちはそれぞれ毛虫、密蜂、蝶になったといわれています。そのため今でも、毛虫と蜜蜂と蝶はバラに集まってくるのだそうです。

 

そして、ローダンテの誇り高い性格は、バラに姿を変えてもトゲとなって残っているのだそうです。

 

その3、白バラはアフロディーテの血に赤く染まった

と美と性をつかさどるアフロディーテは、とても恋多き女神でした。シリアの王子アドニスを深く愛していましたが、アドニスは狩りの途中で、アフロディーテの愛人の軍神アレース(マルス)が放った野生のイノシシに突かれて命を落とします

 

アドニスの悲鳴を聞きつけたアフロディーテは、茨や尖った岩があるのも構わず、裸足で走ります。そのときにアフロディーテが踏んだ白バラが赤く染まり、赤いバラになったといわれています。

 

アドニスの死を知ったアフロディーテが流した赤い涙で、白バラが赤くなったという説もあります。

 

その4、バラは沈黙を暗示する花

神の中でもっとも美しいアフロディーテは、ゼウスの命により、神々の中でもっとも醜い鍛冶の神ヘパイストと結婚します。恋多き女神アフロディーテは美しき軍神アレース(マルス)を愛人として、ヘパイストに隠れて密会を重ねていました。その現場を、我が子のエロスに目撃されてしまいます。

 

アレースとの密会をオリンポスの神々に知られるのを恐れたアフロディーテは、沈黙の神ハルポクラテスに頼んで、しばらくの間エロスの口を封じてしまいました。そのお礼にアフロディーテがハルポクラテスに贈ったのが赤いバラだったと言われています。

 

この神話から、バラは「沈黙」を暗示するものとなりました。

 

その5、バラのトゲは、怒ったアフロディーテが抜いた悪戯な蜜蜂の針!

フロディーテはバラが大のお気に入りで、よく髪に飾っていました。息子のエロスが母親のアフロディーテにプレゼントしようと、野でバラを摘んでいるとき、悪戯な蜜蜂がバラの中から現れてエロスの唇を射しました

 

それを知ったアフロディーテは怒り、蜜蜂を集めてエロスを射した者は名乗り出るように言います。一匹の蜜蜂が名乗り出ましたが、羽音がうるさくて、アフロディーテも息子のエロスも、どの蜜蜂が名乗り出たのか分かりません。

 

ついにアフロディーテは蜜蜂たちを片っ端から捕えてエロスの弓に数珠つなぎにしてしまいます。さらにその針を抜くと、それをバラの幹に植えつけました。

 

こうしてバラは、トゲをもつようになったのです。

 

まとめ

日本人にとって「花」といえば「桜」をさすように、西洋の人にとって「花」といえば、それは「バラ」をさすのだと聞いたことがあります。それほど、バラはヨーロッパの人々の意識の根幹にある花といえます。

 

今回、ご紹介したギリシア神話以外にも、バラにまつわるお話はたくさんあります。そのほとんどが愛と美と性の女神アフロディーテに関わるものです。西洋の人々はバラに魅力的で移り気な、美しい女性を重ね合わせているようです。どうやらそこには官能的な意味合いも込められているようですね。

 

バラの基本的な花言葉は「愛」と「美」。そのままアフロディーテがつかさどることがらです。あまり強調されていませんが、おそらく「性」もバラに含まれた意味合いの一つなのでしょう。

 

感情のおもむくままに行動するアフロディーテの奔放さとは、まったく異なるイメージもバラにはあります。白バラは、貞淑なキリストの母親マリアに捧げられたバラです。それについては、また別の機会にまとめてみたいと思います。

 

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