バラは、意外と簡単に「挿し木」で増やすことができます。今回は、バラの葉が茂っている時期に行う「緑枝挿し」の方法を紹介します。
バラの挿し木のやり方は2種類!
▲生育期の挿し木は「緑枝挿し」
バラは、挿し木で増やすことができます。お気に入りのバラを増やして楽しむのは、とても面白いです。
バラの挿し木には2つの方法があります。バラの葉が茂っている生育期に挿し木する「緑枝挿し」と、バラの葉がない休眠期に挿し木する「休眠挿し」。今回は、「緑枝挿し」の方法を紹介します。
実際の方法を紹介する前に知ってほしい「種苗法」について
園芸品種のバラ──つまり、原種やそれに準じる自然交雑でできたバラ以外は、すべて育種家の手により生み出されています。その品種のバラを生み出すために、育種家は長い時間と労力、そしてお金(もちろん、愛情も)をつぎ込んでいます。
「ロサ・オリエンティス」ブランドのバラを作出している木村卓功さんは、とある講演会で「育種には高級スポーツカー1台分くらいかかる」と話していました。まぁ・・・ざっと1千万円くらいでしょうか。「New Roses」編集長の玉置一裕さんは、そんな園芸品種のバラたちを「育種家の芸術作品」と呼んでいます。
育種家を保護するために、「種苗法」では、新品種登録してから30年間の「育成者権」を認めています。この期間に、育成者以外の人が勝手にそのバラを増やして利益を得ることはできません。
このあたりの事情をしっかり把握して、挿し木を楽しんでください。
それぞれの考え方次第なところもありますが、わたしは個人の庭で楽しむ範囲ならどんなバラを挿し木してもOK、お友だちに差し上げるのは、「育成者権」の保護期間にあるバラはNGと考えています。
「育成者権」の消滅している古いバラなら個人の庭はもちろん、お友だちに差し上げても、なんならフリマで販売しても問題ありません。
▼「種苗法」について詳しくは、こちらをご覧ください
「緑枝挿し」の方法
▲バラの葉が茂っている生育期に行うのが「緑枝挿し」
葉が茂っている時期(生育期)に行うのが「緑枝挿し」(りょくしざし)です。今回は、挿し木をご自分の庭で楽しんでいる応援レポーターの「ハナたろう」さんに、やり方を教えてもらいながら、わたし(あいびー)が実際に挿し木をしてみます。
応援レポーターの「ハナたろう」です。あまり状態の良くない苗のスペアに、気に入った切花を増やすために、気軽に挿し木して楽しんでいます。古い品種なら、ご近所さんに差し上げることもありますよ。慣れてくれば成功確率も上がります。みなさんも、試してみてください!
緑枝挿しの適期は梅雨時期
▲湿度の高い梅雨が「緑枝挿し」の適期
緑枝挿しの適期は6月中旬~7月中旬。梅雨時期です。それ以外の時期でも可能ですが、やはり成功確率が落ちます。
気温の高い時期に行うことから、「緑枝挿し」では葉からの蒸散を上手に防ぎながら発根を促すのがポイントです。
準備するもの7つ
▲今回は切花のバラを挿し木に利用
準備するものは、以下の7点です。
用土&鉢底ネット
鉢
挿し木にする枝
水揚げに使うコップや花瓶
割りばし
発根促進剤(ルートン)
よく切れるハサミまたはカッターナイフ
それぞれに、どんなものが適しているか説明します。
用土&鉢底ネット
挿し木に使用する用土は、雑菌のない新しいものを用意します。よく使われるのは鹿沼土、赤玉土(小粒)、バーミキュライト。あとで詳しく書きますが、「挿し木種まき用の土」は、今回の方法では適しません。
鉢底ネットは、通常のものを使います。
わたしは、用土はバーミキュライトを使っています。
鉢
底穴のある通常の鉢を使います。
挿し木する枝
挿し木にする枝は、3~6mmの太さの枝が適します。あまり太い枝では活着(根が出る)まで時間がかかりすぎ、あまり細い枝では活着後の生育が良くありません。今年のびた若い枝を用意します。ただし、枝先のやわらかい部分は適しません。
今回わたしは、ローズ色のかわいらしいスプレーバラの切り花を挿し木に使います。
水揚げに使うコップや花瓶
今回、挿し木に使う枝は15~20cmの長さがあります。枝の半分以上しっかり水に浸かるていどの深さの容器を用意します。
割りばし
土に穴を開けるためのモノです。使い古しでも、棒でも構いません。
発根促進剤
「ルートン」という商品を使います。
よく切れるハサミまたはカッターナイフ
挿し木用の枝を切るには、よく切れるハサミまたはカッターナイフを使います。いつも使っているハサミの切れ味が心配なら、新しい刃のカッターナイフを用意してください。
緑枝挿しの「手順」
では、実際のやり方を、順を追って説明します。
1、挿し穂をつくる
▲挿し木用に用意する枝は3~4節 写真提供/ハナたろう
バラの枝を、挿し木に適した「挿し穂」にします。5枚葉(写真では7枚葉ですが)の3~4節くらいを挿し穂として使います。枝先の柔らかい部分は使いません。
▲葉を整理 写真提供/ハナたろう
一番下の節は葉を付け根から切り、上3節はそれぞれ葉っぱ2枚ずつ残してカットします。
▲挿し口をカットして挿し穂は完成 写真提供/ハナたろう
枝の下側(挿し口)をよく切れるハサミまたは、カッターナイフでサクッと斜めに切ります。水の中で切る「水切り」をしてもいいでしょう。
このとき注意してほしいのは、一番下の節を傷つけないようにすることです。理由は、節の芽の部分が、地中で根に化けるからです! わたしも最初はびっくりしました!
2、挿し穂を水揚げする
▲1時間ほど挿し穂を水揚げ
挿し穂の半分以上がしっかり水に浸かる深さのコップや花瓶に入れ、1時間くらい吸水させます。
3、用土を湿らせておく
▲あらかじめ用土を湿らせておく
用意した鉢の底穴に鉢底ネットをかぶせ、用土を入れ、あらかじめじょうろなどで湿らせておきます。
4、挿し木する本数分、割りばしで穴をあける
▲割りばしで穴をあける
挿し木する本数分の穴を、開けて置きます。
5、ルートンをつける
▲挿し口にルートンをつける
挿し穂の挿し口に、発根促進剤「ルートン」をつけます。
6、穴に立てて固定する
▲挿し穂を穴に立てる
割りばしで開けた穴に挿し穂を入れ、土を寄せて挿し穂を固定します。
▲土を寄せて固定
じつは最初に入れていた分量では土が少なくて、挿し穂がぐらついてしまったので、上からバーミキュライトを足しました。(写真では、残った葉のない枝も挿しています)。
ハナたろうさんの方法では、挿し穂の長さが15~20cmあります。市販の「挿し木・種まき用の土」は、とても軽くつくられているので、この長さの挿し穂を固定できません。倒れてしまいます。「挿し木・種まき用の土」は使わないよう注意してください。もっと短い挿し穂なら倒れないと思います。
わたしが挿し穂を長いめに取るのは、活着後に黒星病になるのを防ぐためです。挿し穂を短くつくるなら、雨の当たらない場所で育ててください。
7、直射日光の当たらない明るい日陰で管理
▲屋根のある明るい日陰で管理
置き場所は、直射日光の射さない明るい日陰です。気温はできれば20℃くらいまでが望ましいです。あまり気温が高いと、挿し穂の養分だけで芽吹いてしまい、そのまま挿し穂が枯れてしまうことがあります。雨の当たらない屋根の下なら、なおいいでしょう。
水やりは、じょうろのハス口を上に向けて、挿し穂が動かないようやさしくあげます。温度が高いときは葉水を与えると、萎れるのを防げます。
鉢皿に水をためて底面給水させる方法を見かけますが、わたしはオススメしません。土が湿っていればいいので、様子を見ながらじょうろで水やりを。やり過ぎはダメですよ。
2週間、葉が緑色なら成功!
▲2週間たっても葉が緑なら成功!
しっかり根が出て鉢上げできるまで、50日~2か月かかります。が、まぁ2週間、葉が瑞々しい緑のままなら成功です。たとえ葉が黄色くなっても、あわてず様子を見てください。枝が緑色なら上手く行くかもしれません。
挿し木した後、ちゃんと活着するかどうか気になりますが、ぜったいに触らないこと。気になって枝を抜いて確認してダメにしてしまう失敗が一番多いそうです。
枝が黒くなったら失敗
▲枝が黒くなったらもうダメ
右側の挿し穂のように、たとえ葉が枯れても枝が緑色ならまだ可能性があります。が、他の挿し穂のように黒くなってしまったら、完全に失敗です。まぁ、この後、右側の挿し穂も枯れましたが・・・。
▲挿し木の成功例
この挿し穂は葉が枯れていますが、2週間たっても枝が緑で新芽も芽吹いてきています。これなら、だいたい成功です。そっと掘り上げて様子を見ると、カルスが形成されていました。(写真撮り忘れ。ごめんなさい)。
▲3週間後には、しっかりした根が!
3週間たっても葉が緑色の挿し穂をそっと掘り上げてみると、しっかりした根が伸びていました。成功した枝は、どちらも剪定枝をなにもせず、そのまま土に挿しておいただけのもの・・・。
挿し木が成功するかどうかは、品種によるところが大きいですね。
繰り返しチャレンジすれば、いずれ成功率80%に!
▲挿し木から育てた「ブルームーン」 写真提供/ハナたろう
今回、わたしが挿し木をしたのは、梅雨が明け焦げるような暑さになった8月でした。そのせいもあり、全部失敗してしまいましたが・・・。置き場所や水やりを工夫しながらくり返しチャレンジすれば、いずれ成功確率も上がっていきます。
なんとハナたろうさんは、今では成功確率80%だそうですよ!
ハナたろうさんには、挿し木から育てた苗の「そだレポ」をしてもらっています。「イントゥリーグ」「ブルームーン」「キャンディストライプ」「ベルサイユのばら」。どれも挿し木からとは思えないほど、元気に育っています。
▼「そだレポ」は、こちらの一覧からご覧ください。
「アイスバーグ」はねらい目!
▲フロリバンダの名花「アイスバーグ」
挿し木が成功するかどうかは、季節や管理のしかたもありますが、品種によるところが大きいです。ハナたろうさんによると、「アイスバーグはねらい目!」だそうです。
「アイスバーグ」は根が出やすく、花瓶に挿しておくだけでも発根するくらいだとか! とても挿し木向きの品種なのですね。「アイスバーグ」をお持ちの方、ぜひ試してみてくださいね!
*コメント欄に「花瓶で発根させる際のアドバイス」を、ハナたろうさんが書いてくれています。あわせてそちらもご覧ください!
ミニバラやオールドローズ系は成功しやすいですね。あと、一部のブランドバラも・・・。あまりやってほしくないので、品種名は伏せますが・・・・。
2ヵ月後、鉢上げ
▲活着した挿し木は、2ヵ月後に鉢上げできる
成功し、活着した挿し穂は約2ヵ月たつと、上のイラストのように新しい枝がのびてきています。これくらいになったら、鉢上げしましょう。
鉢上げには、ミニシャベルや盆栽用移植ゴテがあると便利です。根を切らないよう、注意して掘り上げ3~4号(直径9~12cm)の鉢に1本ずつ植替えします。枝を持って引っ張ると根が切れるので、引っ張らないよう注意です。
▲掘り上げた挿し木苗
掘り上げてみると、根はこれくらい伸びているはずです。肥料を入れず、新しい用土で植えましょう。
花を咲かせるのは、鉢上げから2~3年後からになります。それまでは蕾を上げても取り続け、しっかり樹を育てましょう。
▼より根に負担のかからない<ハナたろう流>鉢上げのしかたは、こちらをどうぞ
まとめ
今回は、バラの生育期に行う「緑枝挿し」の方法を紹介しました。わたしが挿し木したバラは、園芸店にあったローズ色のスプレーバラです。とても可愛らしくて気に入ったんですが、失敗しましたね~! まぁ、8月にやっても上手くいかないのは仕方ないです。
みなさんも、ダメ元でチャレンジしてみてくださいね!
わたしは「緑枝挿し」より、「休眠挿し」をオススメします。冬剪定でたくさん枝が出ますし、休眠期のバラは、枝に栄養分が蓄えられているからです。冬越しのためしっかりと光合成した枝なら、体力もあります。
▼「休眠挿し」の方法は、こちらからどうぞ!
ハナたろうです。
花瓶での発根を望む方へ…
コッチは室内の窓際で光合成させて下さい。
水も土同様で清潔である事が肝要です。
2~3日おきに水道水で構わないので交換して下さい。
ヌル(おりもの)が出たら即水換えを。自然水なら藻が発生する前に交換。
『カルス』が形成されればほぼ成功です。
そこから発根の様子がリアルに窺えます。
ルートン等の発根促進剤は控えめに着けて下さい。
法の範囲内で気軽に挿し木を楽しんで下さい