バラを増やして楽しみたい! とは思うものの・・・やはり気になるのが種苗法です。今回は、バラの自家増殖について種苗法の観点から考えてみたいと思います。
種苗法とは?
農林水産省のサイトによると、種苗法の第一条にこう書かれています。
第一条 この法律は、新品種の保護のための品種登録に関する制度、指定種苗の表示に関する規制等について定めることにより、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする。(農林水産省公式サイトより引用)
つまりこの法律は、「苦労して新品種を作ったのに、第三者が勝手に販売して利益を得ることのないようにすることを目的とする」のです。
品種登録により、その品種の利用には「育成者権」が発生します。販売業者は、一定の金額を「育成者権料」(ロイヤリティ)として支払わなければいけません。こうすることで、その品種が売れれば売れるほど、育成者は儲かるという仕組みです。文章や写真の著作権と同じ考えですね。
「育成者権」で保護することで、開発者は安心して新品種の開発に時間やお金をつぎ込むことができ、それがひいては、農林水産業の発展に寄与するということですね。
2020種苗法改正案とは?
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2020年5月、種苗法の一部を改正しようという動きがありました。結果的に見送りとなりましたが、この動きは、日本の優れた農産品の苗を盗み出し、あたかも自国で開発したかのように装い海外で販売するという事案が複数報告されているからです。
たとえば「シャインマスカット」。大粒で甘味の強い高級ぶどうですが、これを韓国で自国開発と偽って栽培し、販売されているのです。高級イチゴの「あまおう」もそうです。平昌(ピョンチャン)オリンピックで、カーリングの日本女子チームが間食で食べて「韓国のイチゴ美味しい!」と笑顔を見せていたあのイチゴもそうです。盗品なんです。
サクランボはオーストラリアに流出しています。
今後こういった事案が起きないよう、規制するために改正しようという動きが出ているのですね。日本のフルーツは質が高いと各国から狙われているので、この規制は重要です。
このため、「基本的に自家増殖を禁止する」というのが、今回の改正案になります。農家が気軽に自家増殖することで苗が流出しやすいので、もっと厳重に管理するよう意識づけするために許可制に変更しようというのです。
日本で開発したものを盗んで、勝手に利益を得るなんて許せないですね! この改正案は、また後日検討されると思います。適正な形で法制化してほしいものです。
追記
2020年12月。種苗法改正は無事に施行されました。
登録品種のバラの保護期間は30年
ではバラはどうかというと。バラは改正されるまでもなく、自家増殖禁止です。育成者から許可を得た(つまり「育成者権料」を支払った)栽培農家だけが、増やして販売することができます。
許可を得ていない方が、勝手に増やして販売することはできません。
平成17年(2005年)6月17日以降の育成者権の効力は30年です。品種登録された日から30年間は、勝手に増やすことはできません。ただし、保護期間については何度か改正されているので、品種登録された時期により、多少の違いがあります。
平成10年及び17年に種苗法の改正が行われており、育成者権の存続期間が変更されました。平成10年12月24日より前に登録された品種の育成者権の存続期間は15年(*木本性の植物については18年)、平成10年12月24日から平成17年6月16日の間に登録された品種の育成者権の存続期間は20年(*木本性の植物については25年)です。(農林水産省公式サイトより引用)
*バラは木本性の植物です。
保護期間を農水省のデータベースで検索!
▲ベランダに咲く「シェエラザード」
たとえば、これは我が家で育てている木村卓功さん作出「シェエラザード」(2013年作出)です。これを農林水産省の品種登録データ検索で調べてみましょう。
▲上から2番目が「シェエラザード」
2013年に出願された「有限会社キムラ企画」の新品種は4つ。詳細ページに添付されている写真からして、上から2つめ「2013キムラ02」という品種名のバラが「シェエラザード」のようです。
出願日が2013年12月25日で、登録日が2017年8月7日。つまり、2017年8月7日から30年間の育成者権が認められています。2047年8月6日までですね。
「シェエラザード」は、2047年8月6日まで、勝手に増やして販売することはできません。また、さらに更新手続きをすることで、保護期間が伸びる場合もあります。正しい保護期間を知りたい方は、必ず農水省の品種登録データベースで調べてください。
▼農林水産省の品種登録データベース
*一番上の項目は和名「バラ属」と記入します。すべての項目を入力しなくても、一部を入力すれば検索できます。
保護期間を過ぎたバラは自由に増やしていいの?
▲20世紀を代表する白バラ「アイスバーグ」
保護期間中のバラを勝手に増やしてはいけないのは分かったけれど、では、保護期間を過ぎた古いバラはどうでしょう? 上の写真は、20世紀を代表する白バラとして人気のフロリバンダの名花「アイスバーグ」です。
「アイスバーグ」が作出されたのが1958年。当時、種苗法の概念があったかどうか分かりませんが、とっくに保護期間が過ぎている品種です。こういうバラには、育成者権が発生しません。
つまり、誰でも自由に増やして構わないバラです。
「シェエラザード」の大苗が4000~5000円、「アイスバーグ」の大苗が2000~3000円。この値段の差は、育成者権料(ロイヤリティ)の支払いがあるかないかの差です。ロイヤリティ・・・高いですね。
値段の差を利用して、そのバラが保護期間内の品種かどうか見分けることができます。大苗で「アイスバーグ」程度の値段のバラはロイヤリティの発生しない自由に増やして構わないバラで、「シェエラザード」程度の値段のバラは、ロイヤリティが発生する保護期間内のバラです。勝手に増やしては、いけません。
増やした苗を友だちにあげるのはダメ? 自分の庭で楽しむのは大丈夫?
バラの「育成者権」と「保護期間」については分かりましたね。では、挿し木で増やした苗をお友だちにあげるのはダメなのか、自分の庭で楽しむのはどうなのか? 続いて、これについて調べてみましょう。
まず、育成者権の消滅している古い品種なら、増やしてフリマで売るなり、友だちにあげるなりしても構いません。もちろん、自分の庭で楽しむのは、まったく問題ありません。
上記の農水省のデータベースって結構使いにくいので、だいたいの目安で現在から遡ること35年以上前に作出されている品種なら、育成者権が消滅していると思われます。(登録を更新するケースもあるので、あげるのではなく販売する際には、きちんとデータベースで調べてくださいね!)
ロイヤリティが発生する「利用」とは?
種苗法には、登録品種を「利用」する際に「育成者権」が発生すると定められていますが、はたして「利用」とは具体的にどういう行為をさすのでしょう? 農水省の品種登録について書かれたQ&Aから紹介します。
登録品種の利用行為とは、育成者権が及ぶ行為であり、登録品種を業として利用する場合は、育成者権者の許諾が必要となります。 利用の具体的な内容は以下の通りです。
(1)種苗に係る行為 ①生産:種苗を生産すること ②調整:きょう雑物の除去、精選、種子の洗浄、乾燥、薬品処理、コーティング等 ③譲渡の申出:カタログを需要者に配布し、注文を受けられるようにすることや店頭に品種名及び価格等を提示すること ④譲渡:種苗の販売、植物園での入場者への配布等 ⑤輸出:種苗を外国に向け送り出すこと ⑥輸入:外国にある種苗を国内に搬入すること ⑦保管:①~⑥のための保管
(2)収穫物に係る行為 種苗の段階で権利行使する適当な機会がなかった場合には、収穫物に関し(1)と同様の行為並びに「貸渡しの申出」及び「貸渡し」にも権利が及びます。ただし、「調整」は収穫物では考えられないため除かれます。
貸渡しの例:植木、観賞用植物等のリース (農林水産省の公式サイトより引用)
いろいろ細かく書いてありますが、わたしが太字にした部分をご覧ください。「登録品種を業として利用する場合は、育成者権者の許諾が必要となります。」と、あります。つまり商売に利用する際には、ロイヤリティが発生すると書いていますね。
また(1)種苗に係る行為のなかの④譲渡 も、禁止事項となっています。その一例として「植物園での入場者への配布等」とあります。
つまり原則的に商用利用するのはNG。ただし無償譲渡であるとしても、商業施設での利用などが考えられるためNG。お友達に差し上げるのも、この無償譲渡の範疇に入るためNGとなります。
ここに記載のない「自分の庭で楽しむ」のなら、まったく問題ないということです。
友だちにあげるのは心情的にはセーフだけど、法律的にアウト!
保護期間中のバラを勝手に増やして売るのはダメと分かっていても、たとえばお隣のお友だちにタダで差し上げるのは、とても小さな範囲のことなので心情的にはセーフだと思いがちです。でも、しっかり法律に書かれていますね。法律的にアウトです!
友だちがあなたの庭のバラをすごく気に入ったのなら、そのバラがどういう名前で、どこで買えるかを教えてあげればいいのです。そうすれば、友だちはそのバラを正規の方法で購入し、育成者にロイヤリティが支払われます。
自分の庭で楽しむのは・・・今のところ大丈夫!
▲個人の庭ならタカが知れてる!
では自分の庭で楽しむのも「心情的にはセーフでも法律的にアウト」じゃないかと言われそうですが・・・。実際のところ、そうだと思います。その品種が気に入ってもう1株ほしいならなら、もうひとつ購入するのがスジです。でもまぁ、今のところこの程度のものならお目こぼしされているようです。
どんなに広い庭でも、個人の庭で楽しむ本数には限りがありますから、この程度の軽微のものなら問題視されないようです。
近年は根頭癌腫病がとても増えているので、健康なスペアを確保しておく意味でも、余力があるならお気に入り品種は挿し木で増やしておきたいところです。
挿し木用の「挿し穂」を売るのは大丈夫?
▲挿し木用の枝を「挿し穂」という
最近、育成者権の保護期間内にあるバラ(ぞくに言うブランドバラ)の挿し穂がフリマアプリで販売されています。「挿し木苗」を販売するのは法律違反ですが、「挿し木用の枝」はどうなのか・・・?
ネットでも問題視されていますが、フリマアプリの運営側に問い合わせてもまったく返答がなく、野放し状態になっているそうです。
「ロイヤリティが発生する利用とは?」の項目で引用した農林水産省のQ&Aを再掲出します。
登録品種の利用行為とは、育成者権が及ぶ行為であり、登録品種を業として利用する場合は、育成者権者の許諾が必要となります。 利用の具体的な内容は以下の通りです。
(1)種苗に係る行為 ①生産:種苗を生産すること ②調整:きょう雑物の除去、精選、種子の洗浄、乾燥、薬品処理、コーティング等 ③譲渡の申出:カタログを需要者に配布し、注文を受けられるようにすることや店頭に品種名及び価格等を提示すること ④譲渡:種苗の販売、植物園での入場者への配布等 ⑤輸出:種苗を外国に向け送り出すこと ⑥輸入:外国にある種苗を国内に搬入すること ⑦保管:①~⑥のための保管
(2)収穫物に係る行為 種苗の段階で権利行使する適当な機会がなかった場合には、収穫物に関し(1)と同様の行為並びに「貸渡しの申出」及び「貸渡し」にも権利が及びます。ただし、「調整」は収穫物では考えられないため除かれます。
貸渡しの例:植木、観賞用植物等のリース (農林水産省の公式サイトより引用)
切花や挿し穂は、太字で示した「収穫物」にあたるので、これは明らかに「ロイヤリティが発生する利用」です。権利所有者の許諾なしに、勝手に販売するのは違法です。
「切花」を挿し穂として利用するのはOK?
▲可愛らしい切花のバラを見つけたので、さっそく挿し木に!
では、切花のバラを購入して挿し木するのは大丈夫なんでしょうか? 切り花は、花瓶に飾るために販売されているバラです。収穫してからかなり時間がたっていて、挿し穂にするには適さない管理のことも多くあります。そもそも、バラの名前すら書かれてないことが多く、ロイヤリティが必要な品種かどうか調べることすらできません。
収穫してから時間がたっているため、挿し木にしても成功する確率は低いはずです。それでも成功したなら、自分の庭だけで楽しみましょう! 切り花用品種は、苗が流通していないものも結構あります。自分だけの小さな楽しみとして取り組む分にはロイヤリティ期間の有無にかかわらず構わないと、わたしは思います。
まとめ
今回は、バラを個人で増やすときの法律上の制約について調べてまとめました。品種登録されたバラには、育成者保護の目的から30年間の育成者権が発生します。この期間中は、育成者の許諾なしに勝手に増やして利益を得ることはできません。
ちなみに種苗法違反には、「法人なら3億円以下の罰金、個人なら10年以下の懲役または1千万円以下の罰金、またはこれらの併科」という、重いペナルティが科されます。
利益を得るのではなく、タダであげるのならいいか──というと、これもダメです。
バラが好きで、育種家のおかげで楽しくバラのある生活が送れているのだから、ロザリアンなら「育成者権」は守りたいですね。挿し木でバラを増やすのはとても楽しいことですが、自分の庭で楽しむ範囲に留めておきましょう。