つるバラは1本あるだけで、何十輪、何百輪と花を咲かせて庭をとても華やかにしてくれます。できれば春だけでなく、夏も秋も咲く「四季咲きつるバラ」がいい! 誰でもそう思うでしょう。でも「四季咲きつるバラ」を植えたはずなのに、ちっとも思ったように咲いてくれない──どうして? そう悩んでいる方はいませんか? その疑問にお答えします!
つるバラは、基本的に春しか咲かない「一季咲き」
▲秋のつるバラは、ほとんど咲いていない
壁やフェンスなど、広い面積をたくさんの花で埋めつくす「つるバラ」は、ほんとうに素敵な景色をつくってくれる植物です。でも残念ながら、ほとんどの「つるバラ」は春にしか咲きません。春に花を咲かせたら、それ以降はつるを伸ばす方にエネルギーを向けてしまうので、春以降に花を咲かせることができないのです。
でも、できればつるバラも四季咲きしてほしいと願うのはバラ好きなら誰もがもつ思いですよね! 木立ち樹形のバラに四季咲きする品種があるのなら、つるバラだって四季咲きするものがあるんじゃないか? そう思ってしまいます。
じっさいバラのカタログを見ると、「四季咲きつるバラ」と表記された品種がけっこうあるのですが・・・。
四季咲きつるバラ「アンジェラ」の春花と秋花
▲四季咲きつるバラ「アンジェラ」の秋花
たとえばコレは、四季咲き表記の代表的なつるバラ「アンジェラ」の秋花です。咲いています! 確かに咲いているのですが・・・。株全体を写してみるとどんな感じかといいますと。
▲四季咲きつるバラ「アンジェラ」の秋の状態
こんな感じなのです。左上に花があるのが分かるでしょうか?
これを「咲いている」と言えるかどうか、なんとも悩ましいです。これで「四季咲き」と言えるかどうかも、非常に悩ましいです。ちなみに、我が家のアンジェラはこの秋1輪も咲いていません。
▲たっぷり咲く「アンジェラ」の春花
「四季咲きつるバラ」を求める多くの人が「春バラの状態が四季を通じて楽しめるつるバラが欲しい!」と思っているのだと思います。カタログにアンジェラが「四季咲きつるバラ」と書いてあれば、たっぷり咲く春花の状態が年に何度も楽しめるのだと勘違いしてしまう方が多いと思います。
でも現実には、アンジェラは春に爆発的に咲いた後は、基本的にシュートの先に花を咲かせるだけです。でも、シュートはできれば花を咲かせず、枝を長く伸ばすようにつぼみをピンチする方が望ましい管理です。と、いうことは。アンジェラは、限りなく一季咲きと言った方がふさわしいつるバラなのです。
アンジェラを四季咲きさせる方法
それじゃ、どうしてアンジェラは「四季咲き」と書かれるのでしょう? 「四季咲き」と書けば売れるから! そう勘ぐってしまいますよね。じっさい、そういう面もあると思いますが、それだけではありません。
じつはもともとアンジェラはつるバラではないのです! アンジェラはドイツで作出されたバラなのですが、ドイツではフロリバンダ系統の木立ち樹形のバラとされています。ところが日本でアンジェラを育てると、温暖な気候のせいか大型化し、つるバラとして使えるようになるのです。
じっさいアンジェラを夏の終わりに1mちょいに切り詰めて木立ち樹形にしてしまえば、秋にかなりまとまって咲かせることができます。
つまりアンジェラは、つるバラとして管理すればほぼ一季咲き。木立ち樹形に管理すれば四季咲きする。こういう性質をもつバラなのです。細かい説明をはしょって「つるバラ」「四季咲き」と併記するから誤解を生んでしまうのです!
四季咲きつるバラの多くはアンジェラと似た性質!
▲秋の「グラハムトーマス」
アンジェラのようにつる仕立てならほぼ一季咲き、木立ち仕立てなら四季咲きするというバラは、けっこうたくさんあります。木立ち樹形とつる樹形の間のような性質をもつシュラブ樹形のバラは、ほとんどがこういう性質だと思われます。
上の写真の「グラハム・トーマス」は「返り咲き」と表記されることが多いバラです。大型化するので通常は「つるバラ」として管理しますが、つるバラとして誘引してしまうと春以降はぽつぽつ、まばらに咲くことがある──というていどの咲き方です。
でも樹高をおさえて木立ち樹形に管理すると、もっとよく咲くようになります。写真でも、ガゼボ(東屋)の上の方は咲いていませんが、足元に秋花が咲いているのが見えますね。
▲「グラハム・トーマス」の秋花
このように多くのシュラブ樹形のバラは、誘引してつる仕立てにすると春以降の花つきが悪くなり、誘引せずに木立ち樹形で管理すれば、四季咲きに近くなります。この情報は、イングリッシュ・ローズの生みの親デビッド・オースチン・ロージズ社のイギリスでのサイトに掲載されていました。「枝先が揺れる状態で管理した方がよく咲く」と。
シュラブ樹形のバラは、小型のものは木立ち樹形に仕立てますが、1.5m以上の大型になるものは木立ち樹形では場所を取りすぎるので枝先を誘引してつるバラとして仕立てることが多いバラです。このため、大型シュラブは「つるバラ」と表記されがちです。
枝先を誘引せずに自然なままの樹形で育てれば「四季咲き」するバラで、枝先が長いから「つるバラ」として仕立てることができるバラ。これを組み合わせて表記すると「四季咲きつるバラ」となります。でも実際は、誘引してつる仕立てにしてしまうと、返り咲きする性質がぐっと弱まり、ほぼ一季咲きに近い咲き方になってしまいます。
そもそも「四季咲き」とは?
▲木立ち樹形の「アイスバーグ」の秋花
そもそも「四季咲き」とは、どういう性質を言うかといいますと。花が咲いた後、その枝を切り戻しておけばそこから新しく枝が伸びてきて枝先に「必ず」つぼみをつける性質をいいます。「必ず」です。
たとえば木立ち樹形の「アイスバーグ」は「四季咲き」です。春の花はもちろん素晴らしい花つきなのですが、ご覧の通り、秋の花つきも素晴らしい! 秋花は、春よりも房が小さくなる傾向があるので、たとえば1房に春なら8輪咲いていたものが秋には3輪になるというようなことはありますが、それでも枝先に「必ず」つぼみをつけるので、秋にも春とそん色ないくらいよく咲きます。
こんな咲き方をするつるバラはありません。つるバラは枝を伸ばさなければいけないので、四季咲きさせるほど開花にエネルギーを使えないのです。だから、厳密に言えば「四季咲きつるバラ」は、存在しません。
▲「つるアイスバーグ」の秋花
その証拠に、アイスバーグには突然変異でつる性になった「つるアイスバーグ」もありますが、こちらは春のみの一季咲きです。条件がよければ、このようにぱらぱらっと秋にも咲いているのを見かけますが、ほとんどの株は、秋は咲いていません。
つるバラの返り咲き性質は、曖昧で、かなりバラつきがある
これまで見てきたように、秋のつるバラはほとんど咲かないのですが、まったく咲かないわけでもありません。
▲「四季咲き~返り咲き」表記のつるバラ「スノーグース」の秋花
上の写真は、乱れた感じのポンポン咲きがひらひら可愛らしいつるバラ「スノーグース」です。板塀から飛び出した枝を中心に秋花が咲いています。
写真のバラ園ではこのていど咲いていましたが、他のバラ園でみかけたきっちりとアーチに留めつけてあった「スノーグース」は、ほぼ咲いていませんでした。
▲「四季咲き」表記のシュラブ系統のバラ「スーリールドゥモナリザ」の秋花
春はすばらしい花つきのシュラブ系統のバラ「スーリールドゥモナリザ」の秋花です。1株に8輪と、花数はそう多くありませんが、葉の状態がよく、赤い花がとても目立ってきれいでした。
▲「返り咲き」表記のつるバラ「珠玉」の秋花
「マザーズディ」からの突然変異でできたつるバラ「珠玉」は、「返り咲き」と表記されるつるバラです。秋花は、立ち木に絡ませた長い枝先にはまったく咲いていなくて、足元に2輪のみ咲いていました。
▲「くり返し咲き」表記のシュラブ樹形のバラ「ホットチョコレート」の秋花
茶系のバラとして人気の「ホットチョコレート」の秋花です。高さ2mほどある板塀のさらに上に固まっていくつか咲いていました。これも留めつけてあるところには咲かず、留めつけてない飛び出した枝だけに咲いています。
▲「四季咲き~くり返し咲き」表記のシュラブ系統のバラ「淡雪」の秋花
黄色い雄しべがよく目立つ一重咲きのシュラブ樹形のバラ「淡雪」は、「四季咲き~くり返し咲き」表記がされています。秋花は、1株でこれ1輪だけ咲いていました。
バラ園で少しは咲いていたこれらの秋バラを「咲いている」と表現すればいいのか、こんな少ない花数では「咲いていない」と表現すればいいのか? その差はものすごく主観的で、曖昧です。
1輪しか咲いていなかった「淡雪」や、2輪しか咲いていなかった「珠玉」、さらに最初に紹介した1枝だけが咲いていた「アンジェラ」は、夫いわく「咲いていない」判定でした。
それ以外の「スノーグース」と「スーリールドゥモナリザ」と「ホットチョコレート」は夫いわく「咲いている」判定でした。ところが別のバラ園でみた、かっちりアーチに誘引している「スノーグース」は「咲いていない」判定でした。同じ「スノーグース」でも、咲いていると思われたり、咲いていないと思われたりしています。
▲「返り咲き」表記のつるバラ「紅玉」の秋花
「珠玉」の枝替わり「紅玉」は、色は違うけれど枝の伸び方や開花のしかたは「珠玉」と同じつるバラです。秋にこれだけ咲いてくれればうれしいところですが、不思議なことに先に紹介しているように同じ開花習性をもつはずの「珠玉」は、ほぼ咲いていませんでしたよね。
つるバラの場合は、枝の留め方や剪定のしかた、日照条件、さらにその年の気候によっても、ほぼ咲かなかったり、あるていどまとまって咲いたりばらつきの幅が大きいのがよく分かります。
「返り咲き」「くり返し咲き」「四季咲き性が強い・弱い」
要するに、木立ち樹形の「四季咲き」品種と同じレベルで四季咲きするつるバラはありませんが、でも、かといって「春だけの一季咲き」とも言いきれないつるバラがたくさんあるのです。
近年増えているシュラブ樹形のつるバラは、ほとんどが「四季咲き」と「一季咲き」の間の咲き方をします。こういう開花習性のバラをさす表現として「返り咲き」「くり返し咲き」という言い方がよく使われています。
「返り咲き」は、2番花、またはシュートの先に花が咲くことがある性質
▲1番花の後の切り戻し
「返り咲き」表記がされているつるバラは、春の1番花の後で図のように切り戻しておけば、切ったところから伸びた枝先にまた花が咲く場合がある品種。シュートの先に花が咲く場合がある品種。どちらも「必ず」花が咲くわけではなく、場合によっては花が咲くことがある品種です。
花が返り咲きする割合は、品種により環境によりまちまちです。たとえば「ピエールドゥロンサール」は、「返り咲き」と表記されることが多いつるバラですが、あまり日照条件の良くない我が家のベランダではただの1度も「返り咲き」したことがありません。
「くり返し咲き」は、「返り咲き」よりも2番花以降の花つきが良い品種
▲「四季咲き~くり返し咲き」表記のつるバラ「フォースオブジュライ」の秋花 写真提供/ハナたろう
赤と白のしぼり模様がアメリカ国旗を思わせることから名づけられた「フォースオブジュライ」(7月4日=アメリカの独立記念日)は、とてもよく返り咲くつるバラです。花が咲いた枝を切り戻しておけば、またその枝に高い確率で花が咲きます。シュートにも花が咲くので、意識してピンチでつぼみを摘み枝を伸ばしてやらなければならないほどです。
とてもよく返り咲く「フォースオブジュライ」のようなつるバラは「くり返し咲き」と表記されることが多いです。
「くり返し咲き」はかなり頻繁に花を咲かせますが、何輪以上咲けば「くり返し咲き」で、何輪以下なら「返り咲き」なのかといった、厳密な線引きはありません。あくまでも主観的な表現です。
なので、人により表現のしかたも変わります。「フォースオブジュライ」は、とてもよく返り咲きするので、「四季咲き」または「完全四季咲き」と書かれているケースもあります。本来の意味での「四季咲き」とは違うのですけれど、それに近いくらいよく返り咲くという意味ですね。
「四季咲き性」が「強い」「弱い」、いろいろな表現方法
▲バラの家で「四季咲き性★×2」表記のつるバラ「エトワールドゥオランド」の秋花
つるバラの、一番花以降に返り咲きする性質は、品種によっても、環境によっても左右される、とても曖昧な性質です。これをどう表現するか、は、バラ苗を取り扱う各店でも頭を悩ませているところのようです。「返り咲き」「くり返し咲き」以外にもそれぞれに工夫した表記が採用されています。
京成バラ園芸では、基本的に少しでも咲く可能性があれば「四季咲き」と表記されている印象です。そこに、短い補足説明が入っている品種もあります。たとえば「アンジェラ」には「ベーサルシュートには花房がつきます」と補足説明がされています。
デビッド・オースチン・ロージズ社では「強い返り咲き」「弱い返り咲き」という表現を使っています。
バラの家では「四季咲き性」を★1~5段階で表記しています。写真の「エトワールドゥオランド」は、★×2の「返り咲き」と表記されています。★の数が多いほど、よく返り咲く評価となっています。「フォースオブジュライ」は★×4の「四季咲き」と表記されています。
「四季咲き性が強い」とか「四季咲き性が弱い」という表現も見かけます。
夏や秋のつるバラの花数は、春の1割2割あたりまえ!
▲ロマンティックな景色をつくるつるバラ「ピエールドゥロンサール」の春花
そろそろまとめに入りますね。
つるバラは、基本的に「春のみの一季咲き」。こう思っておいて間違いありません。
ただし、気まぐれに返り咲きする品種もあります。たとえば「ピエールドゥロンサール」は、条件が良ければ1番花の後に返り咲きします。でもその花数は、1株につき1輪とか2輪といったていどです。春花と同じようにたくさんの花であふれたロマンティックな景色がくり返し見られるわけではありません。
▲秋の「ピエールドゥロンサール」
秋には、ご覧のとおり「ピエールドゥロンサール」は咲きません。品種により秋にも咲くつるバラはありますが、やはりその花数はとても少なく、1株につき5~6輪ていどのことも多いものです。もっと咲く品種もありますが、それはとても稀です。
「くり返し咲き」「四季咲き性が強い」なんて書いてあると、どうしても過度に期待してしまいがちですが、春以降のつるバラは、咲いても春の1割2割あたりまえなのだと思ってください。1割咲けば「四季咲き性がある!」と書かれ、2割咲けば「四季咲き性が強い!」と書かれるイメージです。
つるバラのなかでも、もともとフロリバンダ系統の「アンジェラ」や「レオナルドダヴィンチ」、またイングリッシュローズなどのシュラブ系統のつるバラは、「樹高を低く木立ち樹形に管理すれば四季咲きする」という条件つきです。つるバラとして普通に誘引していては四季咲きしません。
まとめ
わたしはつるバラが好きなのですが、残念ながらつるバラは春のみの一季咲きです。でも、どうやら「四季咲きつるバラ」があるらしいと知ったときには、それはもう、小躍りして喜びました! けれど、我が家の「四季咲きつるバラ」アンジェラは、春以降まったく咲きません。「返り咲き」するはずのピエールドゥロンサールも春しか咲きません。
やはり手入れの仕方が悪いから、日照が少ないから・・・と思っていたのですが、どこのバラ園に行っても秋にアンジェラやピエールドゥロンサールが咲いているのを見たことがありません! 不思議に思ってそれからイロイロ調べた結果を、今回まとめてみました。
「四季咲きつるバラ」といっても、春と同じように開花するわけではないこと、開花の性質も系統や品種によりかなりイロイロなクセがあることが分かりました。きっとわたしと同じように「四季咲きつるバラって???」と、頭を悩ませている方がたくさんいらっしゃることでしょう。今回の記事が、そんな皆さまの、少しでも参考になりましたら嬉しいです。
近年、つるバラでも、よく返り咲きする品種が増えてきています。やはり本物の「四季咲きつるバラ」が求められていることは育種家もよく分かっていて、なんとか工夫して四季咲きに近いつるバラをつくり出そうという努力が続けられているのでしょう。きっといつか、素晴らしい四季咲きつるバラに出会える日がくることを信じて待ちましょう!
とても詳しい内容、ありがとうございます(^^)
うちはフェリシア3年目なのですが、今年の秋もやっぱり1輪しか咲かなかったので、調べ調べてこちらにたどり着きました。木立性に仕立てかえる事を考えます。ありがとうございました!
ユキさん、コメントをありがとうございます。
フェリシアは四季咲き性の強いつるバラと言われますね。
でもつるバラの「四季咲き性」は、記事に書いたようにほんとうにアテになりません。
品種特性+環境に強く左右されるようです。
手持ちの本によると、フェリシアは木立ち仕立てでも大丈夫なような記述なので
もしかしたら木立ち仕立てでいい結果が出るかもしれません・・・上手くいくといいですね。
でも、もしかしたらもう1年様子を見るのもアリかもです。
つるバラは、樹が充実してはじめて返り咲きするものも多いので、
これまでは体をつくる方を優先していたのかも知れませんよ。
いずれにせよ、過度な期待は厳禁です。
つるバラは春に咲くものです。
それ以降は、咲いてもオマケ程度と思えば間違いないです。
あいびー