あまり知られていないことですが、じつは日本にはとても美しい原種のユリがたくさんあります。バラと双璧をはる美しい花、ユリについて、日本の原種を中心に調べてみました! 夏のお盆シーズンに咲いている白ユリの正体もつきとめましたよ!
白ユリは聖母マリアを象徴する花
Madonnenlilie (Lilium candidum) / blumenbiene
▲欧米で古くから「マドンナ・リリー」と呼ばれ親しまれてきた「ニワシロユリ」
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花──と、日本では立ち姿の美しい女性を形容する花として名高いユリ。欧米ではユリの中でも白ユリは、純潔を象徴する花、さらに聖母マリアを象徴する花とされています。
花言葉は「純潔」「無垢」「威厳」です。
聖母マリアを象徴する白ユリは「マドンナ・リリー」と呼ばれ、受胎告知図に盛んに描かれてきました。もともとは「ニワシロユリ」を「マドンナ・リリー」と呼んでいましたが、幕末に、ドイツ人医師シーボルトにより日本の「テッポウユリ」がヨーロッパにもたらされ「イースター・リリー」と呼ばれて人気になったことから、現在では「ニワシロユリ」ではなく「テッポウユリ」を「マドンナ・リリー」と呼ぶことも多くなっているようです。
「テッポウユリ」は、いまやキリスト教の行事に欠かせない花となっています。
じつは日本は重要な原種ユリの宝庫!
バラと並び称されるほど人気のあるユリの花は、世界じゅうに100種ほどの原種ユリがあります。日本には約15種類が自生しており、そのうちの7種類が日本以外では見られないユリ(固有種)です。
日本に自生する原種ユリをいくつか紹介しましょう。
「テッポウユリ」は沖縄原産の白ユリ
▲沖縄・奄美諸島原産の「テッポウユリ」
キリスト教の式典や、日本の葬儀に欠かせない「テッポウユリ」は、沖縄・奄美諸島を原産地とする純白のユリです。花期は4~6月。爽やかな芳香があります。
花の形が鉄砲に似ていることから「テッポウユリ」と呼ばれますが、武器を花の名前にするのはあまり好ましくありませんよね。こんなにステキな花なのだから、できれば他の名前だったら良かったのに! と、思えてしまいます。
「ヤマユリ」は野趣あふれるユリの王様
▲甘く濃厚な香りも、豪華な花も素晴らしい「ヤマユリ」
花径20cm以上になる大型の花を咲かせる「ヤマユリ」は、原種とは思えないほど豪華な花を咲かせます。白い花びらの中心に黄色の筋が入り、紅色の斑点が載る野趣あふれる花は「ユリの王様」と呼ばれます。香りは甘く濃厚です。
「ヤマユリ」や「カノコユリ」、「タモトユリ」を親に交配された園芸品種のユリは「オリエンタル・ハイブリッド系統」と呼ばれます。代表的な品種は「カサブランカ」です。
「ヤマユリ」の紅斑をなくしさらに大型にした花径30cmにもなる「サクユリ」は、世界最大の原種ユリです。伊豆諸島固有の貴重なユリですが、原産地では絶滅状態にあります。
「ササユリ」は香りの良い淡いピンク色のユリ
▲Lilium japonicumの学名をもつ「ササユリ」
本州の中部地方以西から四国・九州に自生する淡いピンク色のユリが「ササユリ(笹百合)」です。花期は5~7月ごろで香りも良いユリです。
花がやや小ぶり、葉に白い覆輪が入る、花の色が濃いなど、自生地域によりさまざまな変種があります。地域によっては、「ササユリ」を「ヤマユリ」と呼ぶことがあります。
「ササユリ」は学名を「Lilium japonicum」といいます。「japonicum」は「日本の」という意味です。学名からすると、「ササユリ」は日本を代表するユリといえます。
「オトメユリ」または「ヒメサユリ」は、準絶滅危惧種の貴重なユリ
▲「ヒメサユリ」とも呼ばれる絶滅危惧種の「オトメユリ」
オトメユリは、日本にしか自生していない日本固有のユリです。さらに日本の中でも、宮城県南部、及び新潟県、福島県、山形県が県境を接する飯豊連峰、吾妻山、守門岳、朝日連峰、周辺にしか群生していない貴重なユリです。原地では「オトメユリ」よりも「ヒメサユリ」と呼ばれることが多くあります。
「オトメユリ」は、「ササユリ」を小型にしたような、花径5~6cmていどの花を咲かせます。野生種は環境省のレッドリストでは準絶滅危惧(NT)に指定されており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストではEndangered (EN)に指定されている絶滅危惧種です。
「カノコユリ」は花びらが大きく丸まる育てやすいユリ
▲栽培がしやすく庭によく植えられた「カノコユリ」
カノコユリは、九州、四国、台湾や中国にも自生するユリで、よく目立つ濃いピンク色の斑点と花びらが大きく外側に反りかえり丸まる特徴があります。
栽培がしやすいので古くから庭で観賞用に栽培されてきたユリです。シーボルトによりヨーロッパに紹介され、かつては海外でも盛んに栽培されていましたが、現在ではあまり人気がないようです。
「オニユリ」は、オレンジ色が目をひくユリ
▲本州~北海道に広く自生する「オニユリ」
オニユリは、グアム、中国、朝鮮半島、日本に自生するユリです。日本では北海道から九州の広い地域でみられ、中国からの帰化植物ともいわれています。
「スカシユリ」は、花を上向きに咲かせる
▲園芸品種の「スカシユリ」
日本の中部地域以北の海岸沿いで見られるのが「スカシユリ」です。太平洋側では「イワトユリ」、日本海側では「イワユリ」と呼ばれます。これらを親に作出されたユリのグループは「アジアンテック・ハイブリッド系統」と呼ばれ、一般に「スカシユリ」と総称されています。
「スカシユリ」は、他のユリと異なり、花を上向きに咲かせるのが特徴です。香りはありません。
ユリは栽培が難しい花
▲遠くからでもよく目立つ、豪華な「ヤマユリ」の花
日本に自生するユリが多いのに、ユリはあまり庭に植えられていません。その理由は、じつはユリは栽培が難しいところがあるからです。
たとえば「ヤマユリ」は、発芽から開花まで少なくとも5年以上必要です。肥料のやりすぎで分球して咲かなくなったり、ウイルス感染から奇形の花になったり、去年まで元気に咲いていたのにとつぜん枯死してしまうこともあります。
同じところに長く留まるのを嫌う性質があり、自然状態でも群生して美しい花を咲かせていたかと思えば、翌年には絶えてしまうということがよくあるそうです。そういえば「ササユリ」を毎年たくさん庭に咲かせている方のブログで、毎年すべての球根を1mずつずらして植え直しているという記事を読んだことがあります。
お盆のころに咲く白百合は「テッポウユリ」ではなく外来種の「タカサゴユリ」
▲「タカサゴユリ」は、花の外側に赤い筋が入る
お盆の帰省シーズンに高速道路脇に白ユリが咲いているのを見かける人も多いと思います。
白ユリといえば「テッポウユリ」です。わたしも長くあれは「テッポウユリ」だと思っていたのですが、上に紹介したように、「テッポウユリ」の自生地域は沖縄や奄美諸島。しかも花期は4~6月です。お盆シーズンの関東に咲いているとは思えません。
ユリの紹介サイトにも、夏に咲く「テッポウユリ」なんて見当たらず、なんだか分からなくて、ずっとモヤモヤしていたのですが、その正体がやっと分かりました。
あれは「テッポウユリ」ではなくて「タカサゴユリ」です!
「タカサゴユリ」とは、台湾原産のユリで、1924年に庭植えや切り花用として日本に持ち込まれたものです。花は「テッポウユリ」とよく似ていますが、花の外側に赤い筋が入るので区別することができます。葉はテッポウユリよりも小型で密についており、「ホソバテッポウユリ」と呼ばれることもあります。
上の項目で紹介したように、もともと日本に自生している原種ユリは気難しいところがあり、栽培しにくいのですが、「タカサゴユリ」はとても生命力の強いユリです。「ヤマユリ」が発芽から花を咲かせるのに5年以上かかるのに対して、「タカサゴユリ」は発芽した翌年から花を咲かせます。「タカサゴユリ」は、現在では西日本を中心に広く自生しています。
国立環境研究所では、在来種と競合し、もともと自生している日本原産のユリが「タカサゴユリ」により駆逐されてしまうのではないかと、警戒を強めています。現在は駆除指定にされていませんが、積極的に植えないよう促しています。
駐車場脇に咲いた白ユリ
▲我が家のマンションの駐車場脇に咲いている白ユリ
お盆シーズンに高速道路脇に咲くユリを写真におさめようにも、ちょっと車を止めて撮影というわけにもいかず困っていたのですが、意外にもわたしの住んでいるマンションの駐車場脇に群れ咲いていました! 少し人目につかないところなので、今まで気がつきませんでしたが、けっこうたくさん咲いています。
花は「テッポウユリ」に似ていて、葉は「タカサゴユリ」のように細っそりしています。「タカサゴユリ」の特徴である花びらの外側に赤い筋はなく真っ白です。そしてこのユリには、まったく香りがありません!
どうやらこれ、「タカサゴユリ」と「テッポウユリ」の自然交雑種で「シンテッポウユリ」と呼ばれているもののようです。これも「タカサゴユリ」と同様に外来植物として警戒されている対象です。いずれ駆除対象になるかもしれない予備軍です。
▲あっちにも、こっちにも。ざっと数えると50株くらいありそうです!
かなり大きな株もあるので、今までわたしが気がつかなかっただけで、数年前からここで咲いているようです。もしも今後、「タカサゴユリ」や「シンタカサゴユリ」が駆除指定になっても、こんなにきれいなのに「外来植物だから!」とほりあげて駆除するのはしのびないように思えますね。
▼おすすめの駆除方法はこちらをご覧ください!
まとめ
今回はユリについて調べてみました。なんと日本は美しい原種ユリがたくさんあるユリの王国だったのですね!
その日本固有種を脅かしかねない外来植物の「タカサゴユリ」が、今、勢力を旺盛に広げています。たしかに日本の固有種に悪影響を及ぼすのならいずれ駆除しなければいけないのでしょうが、夏の帰省シーズンにあちらこちらに咲いている白ユリはとてもきれいで、わたしの中では個人的に夏の風物詩となりつつあります。
じつは去年ベランダで2球の「ササユリ」の球根を植えたのですが、発芽したのは1球のみ。しかも今年は開花しませんでした。秋になったら別の鉢に植え替えようと思っていますが、はたして咲いてくれるかどうか。
▶追記:とてもきれいに咲いてくれました。一番上の淡いピンク色のユリの写真が咲いたときの様子です。香りも素晴らしかったですよ!
確実に咲いてくれそうな「タカサゴユリ」の子株を、駐車場脇から掘ってこようかなぁ、なんて考えています。駆除対象になりそうな野生種なら、気軽にいただいてきてベランダで楽しめそうです! ただし、種を飛ばさないように気をつけなければいけませんね。
我が家の周りで、思わぬ所にユリが生えているのですが、こちらの記事で解決しました。
安易に大事にしてもよろしくなさそうですね。ありがとうございます。
ネットサーファーさん、コメントありがとうございます。
今、タカサゴユリとその交雑品種の開花時期で、あちこちで白い花が揺れているのを見かけます。
近所の住宅街の庭でも5~6本の白ユリが群れ咲いていたりしてとてもキレイです。
きっと住民の方は、いつのまにか生えてきたキレイなユリ!
と思って喜んでいらっしゃるのだろうなぁと想像していますが・・・。
年々、近所で見かける本数が増えていて、確実に勢力を伸ばしているのを感じます。
キレイだから抜くのはしのびないってところが厄介ですね!
ちょうどいいシーズンなので、
むやみに広げない対策方法を紹介する記事を考えています。
あいびー
うちには、今思うと、シンタカサゴユリですね。2018年頃1輪咲いてました。初めてです。鳥取県の東の端ですね。当時は庭に植えた覚えがなく、「外からのユリが咲くんだ!」と感激してましたね! 花の匂いは全くなかったですね。ユリの香ばしい匂いが全くありませんので、少しがっかりしてました。真っ白です。そして、種がとれていて風に飛ばされてましたね。翌年も咲いていました。庭は貧相ですが、買ってきてまで植える甲斐性もありませんので、楽しんでいますね。今年は、シンタカサゴユリは5輪位咲く予定です。また雑草のカタバミが赤紫色の花を咲かせています。庭のスターですよ! 多分いつでも処分できるでしょうが、庭の状況を考えると、ユリもカタバミを抜くのは辛いですよ!
鷲見育亮さま、コメントをありがとうございます。
書いてくださったユリの特徴からして、タカサゴユリもしくは
蕾に赤い筋がなかったのならシンテッポウユリなんだと思われます。
あんなに立派でキレイなユリが植えた覚えもないのに庭に咲いたら
感激しますよね!
抜くのは忍びないお気持ちはよく分かります。
あまり外に種を飛ばさないよう、
種ができたら折るなど配慮していただくと、いいかな、と思います。
強い植物なので、どうぞ楽しんでください^^
ピンクのカタバミはハナカタバミでしょうかね。
花が4cm前後と大きいならハナカタバミ
花が2cm以下と小さいならイモカタバミだろうと思います。
最初は観賞用に日本にもちこまれ野生化しています。
特定外来生物に指定されない限り、自然の恵みと思ってたのしみましょうー^^
あいびー
2、3年前に近所の自生地を発見、その白い気高さに感動しました。
てっきり、テッポウユリだと思い、種を蒔いて生息を広げておりました。
U-Tubeを観て外来種と分かったが、在来種自体、自生を観た事が無い。
何故、競合すると言うのか疑問です。
周りに白百合の有る幸せを享受させて欲しい。
塩澤 孝さま。コメントをありがとうございます。
タカサゴユリは現在、すごい速度で自生地域を広げています。
自治体によっては、人海戦術で駆除しているところもあるほどです。
一般の方はまだ認知度が低いので、注意喚起は必要だと思っています。
まず日本の自生ユリは環境が変わることで簡単に自生できなくなるケースが多くあります。
日本の自生植物だけで構成されていた山野なら自生できていた原種ユリたちですが、
環境への適応力や繁殖力に優れた外来種が急速に繁殖することで、元々の山野の環境が変えられてしまい
結果的に原種ユリが生存できなくなる恐れがあります。
簡単にいうと、日本にしかない貴重な原種ユリが絶滅してしまう危険があるのです。
そういう危険性が高い動植物を環境省は外来生物として指定し、駆除することで日本の元々の山野の
環境やそこに生息する貴重な動植物(生態系)を守ろうとしています。
そういう危険な外来生物として、タカサゴユリも指定されているということです。
環境破壊以外にも外来生物が危険な理由に、交雑という問題もあります。
たとえば、タカサゴユリが咲く時期には、ヤマユリも開花します。
同じユリの仲間なので、この2種類が交雑して、新種が誕生する恐れがあります。
いや、もう既に誕生している可能性もあります。
この交雑が進めば、見た目はヤマユリに似ているけれど、DNA的にはまったく別のユリに
日本中のヤマユリが置き換わってしまう恐れがあります。
実際に昆虫や水棲動物では、そういうケースもあるそうです。
これも外来生物を野放しにした結果、日本の固有種が失われてしまったのです。
ヤマユリをはじめ、日本の固有種は、日本だけにしかありません。
日本で失われてしまえば、地球上から絶滅してしまうのです。
大げさだと思われますか?
どうぞご理解のうえ、タカサゴユリをむやみに広げる行為は控えてくださるようお願いします。
長くなったので次のコメントに続きます。
続きです。
でも、今のところまだタカサゴユリは「特定外来生物」に指定されていません。
「特定外来生物」に指定された植物は法律で栽培が禁止されますが、
今はまだタカサゴユリを育てても法的措置を受けることはありません。
将来的には分かりませんが、今のところは大丈夫です。
そこで、どうしてもタカサゴユリを育てたい方には、
10本なら10本と本数を決めて、その本数を増やさないようにしながら
楽しむのなら、まぁ、アリかなぁとわたしは考えています。
タネが熟す前にタネの入った鞘ごと切り取ってゴミとして処分するという
やり方をしっかり守るなら、また、ご自宅の庭なら許されるかなぁと考えます。
そして、タカサゴユリが特定外来生物に指定されていないか、ときどき
環境庁のリストをチェックなさってみてください。
特定外来生物に指定されたら、法律違反となりますので、すみやかに処分なさってください。
いずれにせよ環境庁のデータに要注意外来植物としてリストアップされている植物を
作為的に増やすのは、おやめになった方がよろしいかと存じます。
御参考になさってください。
あいびー