夏に咲く白ユリの正体は、外来生物として注意喚起されている「タカサゴユリ」です。できれば駆除が望ましい植物ですが、花がキレイなことからなかなか駆除されません。「タカサゴユリ」の危険性や駆除方法について紹介します。


夏に野に咲く白ユリは「タカサゴユリ」

▲我が家のマンションの公開空域に咲く「タカサゴユリ」

夏のお盆の時期になるとあちこちに咲く「テッポウユリ」のような白ユリ。高速道路脇や道端の植え込みの中など、とても人が植えているとは思えないような場所にも群れ咲いている姿をよく見かけるようになりました。

 

「あの白ユリはなんだろう?」そう疑問に思ったことから以前に書いた記事「日本の原種ユリと、すっかり野生化しているタカサゴユリについて紹介します!」が、毎年夏になると急に閲覧数が増えます。やはり、わたしと同じように疑問に思う方が多いのでしょう。

 

▼以前に公開した日本の野生ユリと夏に野に咲く白ユリについての記事

 

以前の記事にも書きましたが、この白ユリは「テッポウユリ」ではなく「タカサゴユリ」です。「テッポウユリ」は沖縄や奄美諸島に自生する白ユリで、花期は4~6月。すがすがしい良い香りのする花を咲かせます。

 

▲花の外側に赤い筋が入るのが特徴

 

一方「タカサゴユリ」は台湾原産のユリで、花こそ「テッポウユリ」とよく似ていますが、花期は盛夏のお盆シーズン。花に香りはなく、花の外側に赤いラインが入り、茎には細い葉を密につけます。そのため「ホソバテッポウユリ」と呼ばれることもあります。

 

「タカサゴユリ」は1924年に、庭植え用や切り花用として日本に持ち込まれましたが、今では西日本を中心に野生化しています。近年では、関東でもよくみかけるようになりました。

 

▲花に赤いラインの入らない個体も!

 

なかには、花の外側にまったく赤い筋の入っていない個体もあります。これは「タカサゴユリ」が「テッポウユリ」と交雑した「シンテッポウユリ」と呼ばれるもので、「タカサゴユリ」同様に今では日本のあちこちで自生しています。

 

「タカサゴユリ」は外来生物。安易に育てないで!

▲ユリの王様「ヤマユリ」

まり知られていませんが、じつは日本は素晴らしい原種ユリの宝庫です。とても原種とは思えないほど美しく大きな花を咲かせるユリがたくさん自生しています。

 

上の写真の「ヤマユリ」などは、高級な白ユリとして有名な園芸品種「カサブランカ」の親となった日本原産のユリです。

 

でも日本の原種ユリはどれも減少傾向にあります。自生地が減ってきているのです。理由は環境破壊が進んだためや、ユリ根を食用として乱獲したため。さらに、日本の原種ユリがどれも連作を嫌いウイルス病に弱いためです。

 

▲侵入生物データベース 出展/国立環境研究所

 

一方「タカサゴユリ」はとても生命力の強いユリです。「タカサゴユリ」が増えることで日本の原種ユリの自生地が奪われてしまう、または自然交雑が進んだ結果、原種ユリが消失してしまう恐れがあるということで、国立環境研究所では「タカサゴユリ」に対して注意を呼び掛けています。

 

上の表は国立環境研究所の注意を要する外来植物の一覧です。赤枠で囲ったところに「タカサゴユリ」があります。今のところ「タカサゴユリ」に対する法的な指定はありませんが、安易に増やさないようにしたい外来生物です。

 

▲「特定外来生物」に指定された「オオキンケイギク」

 

外来生物が法的な指定を受けた例を紹介します。

 

上の写真は「オオキンケイギク」です。「オオキンケイギク」は北アメリカ原産の多年草で、花期は5~7月。ゴールデンウィークから梅雨明けごろまで、あちこちの道端や河原などに群れ咲いている派手な黄色い花を見たことがあるのではないでしょうか?

 

我が家の近くでも、駅までの道すがらあちこちの道端で見かけます。

 

「オオキンケイギク」は、1880年代に観賞用や緑化用として持ち込まれたものが、今では日本のあちこちで自生しています。「オオキンケイギク」はとても繁殖力が強く、日本固有の植物が減少、消失してしまうとして「特定外来生物」に指定されました。

 

この指定のため「オオキンケイギク」は駆除対象となり、学術目的以外の栽培、増殖、販売、移動などが法律で禁止されています。

 

「タカサゴユリ」は、まだ法的指定がありませんが、いずれ「特殊外来生物」に指定され、駆除対象になる可能性の高い植物といえます。

 

「タカサゴユリ」を増やさない工夫・駆除のしかた

▲「タカサゴユリ」の群落

ころがこの「タカサゴユリ」が外来生物として注意喚起されているという事実は、あまり知られていません。それどころか、公園の花壇や個人の庭など、あちこちで大事に育てられているのを良く見かけます。

 

上の写真は、近所の公園の花壇です。この小さな公園では100本以上の「タカサゴユリ」が咲いていました。雑草はきちんと刈り取られているので、これらの「タカサゴユリ」は雑草と認識されていないのですね。

 

花が美しいので、喜んで咲かせているのでしょう。

 

▲この写真内だけでも20本ほど確認できる

 

「タカサゴユリ」が咲いているのを見つけたら、近くをよく見てみましょう。同じ細い葉をもつ植物がたくさん見つかると思います。

 

「タカサゴユリ」は萌芽した年は花を咲かせず、2年目から花を咲かせます。上の写真では、蕾のない小さいタカサゴユリも含めて20株以上が写っています。ここは我が家のマンションの公開空域なんですが、おそらく総数200株以上の群落になってしまっているようです。

 

もちろん公開空域には定期的に除草業者が入っていますが、業者も「タカサゴユリ」を放置しているようです。

 

いくら花が美しくても「タカサゴユリ」は外来生物です。日本の生態系を守るため、増えすぎないようにしたいもの。つぎに「タカサゴユリ」の駆除のしかたを2つ紹介します。

 

駆除のしかた その1、「球根ごと掘り上げる」

▲「タカサゴユリ」は球根ごと掘り上げる

っとも確実な駆除のしかたは「球根ごと掘り上げる」方法です。

 

▲「タカサゴユリ」の球根と根

 

まだ若い株なので、小さな球根ができていました。この球根、毒はないけれど、苦みが強くて食べにくいそうです。

 

でも、ゴーヤと同じように苦み抜きをしてチャンプルー(卵と野菜の炒め物)にすれば食べられなくもないとか。興味のある方、試してみます?

 

駆除のしかた その2、「花がらを実ごと取り除く」

▲花が散ったばかりの「タカサゴユリ」

うひとつは、「タカサゴユリ」の花が終わったら、実ごと取り除く方法です。

 

「タカサゴユリ」の花びらは開花後、数日で付け根から散ってしまいます。上の写真は、花びらが散ったところです。まだ長い雄しべが残っていますね。

 

▲「タカサゴユリ」の実(蒴果)

 

しばらくすると雄しべが取れ、残った実(蒴果)が上を向きます。この後、じょじょに実が太っていき、やがて中に種をつけます。ひとつの実のなかに、多いときにはなんと1000粒もの種が入っているのだとか!

 

成熟した実は自然に割れ、種が周囲にばらまかれます。こうして「タカサゴユリ」は、短期間に大群落をつくるのです。

 

▲花が終わったら実を取り除く

 

種をばらまかせないためには、この実を成熟させなければいいのです。花が終わったら、実ごと取り除けば爆発的に増えるのを防ぐことができます。

 

「タカサゴユリ」は花がキレイなので、掘り上げるのはもったいなく感じる方が多く、そのため駆除作業がはかどらないという側面があります。

 

いつのまにか自宅の庭に生えてきた「タカサゴユリ」を大事に育てている方も多いことでしょう。そんな方は、この方法なら自宅の花を楽しみながら「タカサゴユリ」が爆発的に増えるのを防ぐことができます。

 

駆除する前に注意!

カサゴユリは日本固有の生態系に悪影響を与えるとして、注意喚起されている外来生物です。だからといって、私有地に生えているものをむやみに他人が駆除するのは考え物です。

 

花がキレイなことから、庭で大事に育てている方もいるのです。駆除するのではなく、所有者に「外来生物」なのだと知らせるに留めましょう! そして、花が終わったら実が熟す前に取り除くよう教えてあげればいいと思います。

 

まとめ

今回は、お盆シーズンに野に咲く白ユリ「タカサゴユリ」について紹介しました。テッポウユリによく似た美しい白ユリ「タカサゴユリ」は、日本の生態系を壊しかねないと国立環境研究所で注意喚起している外来生物です。

 

今のところ法的な指定はありませんが、積極的に植えたり増やしたりしないようにする必要のある植物です。

 

「タカサゴユリ」を見つけたら、できれば掘り上げて駆除、もしくは花を楽しみたいなら実が熟すまえに切り取り増やさないよう注意してください。

 

ところで、国立環境研究所の侵入生物データベースを見て気づいたんですが、意外な植物も外来生物に指定されています。下にリンクを掲載していますので、一度、実際にご覧になってはいかがでしょう?

 

▲涼感あふれる「ホテイアオイ」の花

 

たとえば夏に薄紫色の涼し気な花を咲かせる「ホテイアオイ」(別名/ウォーターヒヤシンス)も侵入生物データベースにリストアップされています。上の方で紹介した国立環境研究所のページで、「タカサゴユリ」の2つ上に「ホテイアオイ」があるので確認してください。

 

「ホテイアオイ」は要注意外来生物の指定がされているので、環境への懸念が「タカサゴユリ」よりさらに高いとみなされているのが分かります。でも「ホテイアオイ」って、普通に販売されていますよね・・・。昨日も近所のスーパーで売っているのを見かけましたが・・・。

 

▲数年前まで販売されていた「ボタンウキクサ」は駆除対象

 

もっと驚いたのが「ボタンウキクサ」(別名/ウォーターレタス)。こちらは「特定外来生物」の指定がされていて、「オオキンケイギク」と同じく駆除対象の植物です。学術目的以外の栽培、販売、移動などが禁止されています。

 

以前は金魚屋さんなどで普通に売られていたし、つい最近まで近所のスーパーで売っていたような気がするんだけど・・・。

 

届け出なしに栽培していると、違法栽培として警察沙汰になるそうなので、昔購入したものが残っているという方、どうぞ燃えるゴミとして廃棄処分してくださいね!

 

参考文献

国立環境研究所「侵入生物データベース」

 

 

この記事は「季節の花々」に分類されています。

 

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