このごろ「修景バラ」という表示をよく見かけますが、どういうバラのことを言うのかはっきり分からないという方も多いのでは? かくいうわたしも、なんとなく「丈夫なバラ?」くらいの認識です。今回は修景バラについて調べてみました。
「修景バラ」は、公共の場に植えるのに適した品種
▲修景バラの「マジカル・ミラクル」
バラ園を訪れて、まるでカーペットのようにびっしりとバラが咲いている様子に圧倒されたことはありませんか? そんなとき「あぁ、こちらのバラ園では、よほどしっかりと手入れされているのだろうなぁ」と感心してしまうのですが、後で調べてみると、その品種がじつは「修景バラ」に分類されるバラだった──ということはよくあります。
では「修景バラ」の定義はどういうものか、というと、これが意外とはっきりしないようです。とあるサイトでは「シュラブ・ローズ(修景バラ)」と書かれているし、また別のサイトでは「修景バラ(フラワーカーペット)」と書かれています。わたしとしては、どちらの表現もしっくりきません。
そこでとりあえず「修景」の意味を調べてみました。デジタル大辞泉によると「修景」はこんな意味です。
都市計画・道路計画などで、自然の美しさを損なわないように風景を整備すること。「修景保存」
この意味をつけ加えて「修景バラ」を分かりやすく言い換えると、
「修景バラ」とは、都市計画に沿った公共の場に植栽するのに適したバラ
と、いえそうです。
親となるバラの系統に関係なく、修景に使いやすいバラの品種をまとめて「修景バラ」という名称で分類しているのですね。
「修景バラ」は、手入れが楽で病虫害に強く、しかもよく咲くバラ
修景バラがどんな特徴をもつバラなのか考えるために、まず、公共の場と個人宅の庭との違いを考えてみましょう。公共の場と個人宅の庭の大きな違いは2つ考えられます。
まず重要なのが、どれだけ手をかけられるかの違いです。
個人宅なら毎日バラの様子を見て、必要なら朝晩2回水やりすることもできるし、こまめに薬剤散布することもできます。一方、公共の場、たとえば公園やマンションの公開空域に植えたバラに、そんなに行き届いた手入れはできません。
こまめな手入れなしでも大丈夫なほど強いバラでなければ公共の場に植えるのは難しいでしょう。つまり修景バラは、ローメンテナンスでも平気なほど強健で、病虫害に強いバラといえます。
手入れが楽なことともう一つ、修景バラには「よく咲く」ことが求められます。
個人の庭なら「とてもデリケートで病虫害に弱いうえにパラパラとしか咲かないけれどこのバラが大好きだから!」という理由で、花つきのよくないバラが植えられることがあるかも知れません。でも、不特定多数の人が楽しめるように考えて植えられる公共の場のバラでは、「よく咲く」ことが大事です。公共の場では、趣味性の高いバラよりも、万人に受け入れられやすいバラが選ばれます。
この2点を合わせると、
修景バラは、手入れが楽で病虫害に強く、しかもよく咲くバラ
と、いえます。なんだか夢のようなバラですね!
バラに限らず公園などに植えられる植物(修景植物)には、手入れが楽で花や紅葉が楽しめるなど、優れた景観を作る植物が選ばれます。ここ20年以内に作られた比較的新しい公園や、大型マンションの公開空域には、扱いやすいコストパフォーマンスの良い植物が選んで植えられていて、参考になることがよくありますよ!
「修景バラ」の基準は販売店によりけり?
▲花菜ガーデンの「ノックアウト」
強健でローメンテナンスでもよく咲くバラといえば、フランスのメイアン社が2000年に作出した「ノックアウト」が有名です。上の写真は花菜ガーデンの赤とピンクのノックアウトが花盛りの様子です。これだけびっしり咲いていると、遠くから見ればツツジかと思うほどです。
ノックアウトは、バラの歴史上でも驚くほど病気に強く、「病気をノックアウトする」という意味で「ノックアウト」と名付けられたといいます。「これ、絶対に修景バラでしょう~!」と思って調べてみたのですが、違いました。ノックアウトは「修景バラ」と表記されていません。
こうなると、どういう基準で「修景バラ」かどうか決められているのか分からなくなりますね。
▲2003年 世界バラ会連合殿堂入りのバラ「ボニカ82」
たとえば京成バラ園芸で「修景バラ」とされているものには、世界バラ会連合殿堂入りの名花「ボニカ82」や、原種の「ハマナス」も含まれています。他の販売店では「ボニカ82」や「ハマナス」が「修景バラ」と表記されていることはありません。
どうやら「修景バラ」という概念自体が比較的新しいもので、最初から「修景用のバラ」(Landscape Rose)として作出された品種や、以前からある品種でも「修景用に使いやすい」と判断されるものを販売店が独自基準で「修景バラ」として販売しているのではないかと思われます。
「修景バラ」(Landscape Rose)を作出しているバラのナーセリーは、フランスのメイアン社、ドイツのコルデス社、日本では京成バラ園芸などがあげられます。
花菜ガーデンのガーデナーに質問してみました!
▲池の上にある石垣に垂れて咲く、修景バラ
平塚の花菜ガーデンを訪れた際、ガーデナーさんに「修景バラ」について質問してみました。上の写真は花菜ガーデンのバラ園の奥の方にある池です。池の向こうにある石垣から小花のバラが長く垂れて咲いていますね。
この場所は、池に農薬が入るといけないので石垣に咲くバラに農薬は使えないのだそうです。農薬を使わなくても、これだけびっしりと花を咲かせてくれるバラを選んで植えられているのです。こういうところに選ばれるのが「修景バラ」なのだとか。
他にも庭の骨格を作るバラ、背景になるバラという表現をしてくれました。
▲修景バラとしてよく利用される「センター・ステージ」
花菜ガーデンの池の向こうの石垣に咲かせているピンクのバラは「センター・ステージ」です。高さは40cmほどで、ほふくしてグラウンドカバーのように広がります。下垂させてもよく咲くので、高低差のあるところで使いやすいバラです。
バラ初心者にも安心な「修景バラ」に欠点はある?
▲「アルバ・メイディランド」メイディランド・シリーズは修景バラとしてよく使われる
ここからは、わたしの解釈なのですが。とりあえず「修景バラ」と表示されていれば、あまり手入れをしなくてもよく咲いてくれるバラなんだと思えばいいのでしょう。
たとえば初めてバラを育てるなら
たとえばあまりバラに適切な環境でないのなら
たとえば以前バラを枯らしてしまって手入れに自信がないのなら
「修景バラ」と書かれた品種を選べば間違いないと言えそうです!
修景バラには、木立性樹形やシュラブ樹形やつる性樹形などさまざまな樹形のバラがあります。這う性質の強い品種なら、グラウンド・カバーに使える品種もあります。そして、ほとんどが四季咲きです。
これだけ優秀な修景バラですが、欠点はないのでしょうか?
考えられるのは、「修景バラ」は、咲いている姿全体を観賞するバラで、花一輪の美しさを観賞するバラではないということでしょうか。花一輪だけを比べれば、優雅なイメージのあるオールド・ローズや、凛とした強さを感じさせるハイブリッド・ティー系統のモダン・ローズよりも、どうしても見劣りしてしまいます。
まとめ
地面を這うようにして広がるバラのカーペットを初めて見たとき、とっても驚いたのを覚えています。なにしろバラで地面を覆うなんて、それまで考えたことがなかったのですから! しかもそのバラときたら、びっしり! という言葉がぴったりくるほど隙間なく咲いていました。
バラは手入れが大変なもの・・・という固定概念を華麗にくつがえしてくれるのが「修景バラ」に分類されるバラたちです。あまり手をかけずにきれいに咲かせられる、とても嬉しいバラたちですね!
「修景バラ」の定義は、販売店によりけりなところがありますが、「育てやすく」「たくさん花を咲かせる」という点では共通しているようです。庭にぜひ、取り入れてみてください!