誘引も剪定もせずに、バラを自然に伸ばしたらどんな形になるか・・・その樹形を調べてみると、いくつかのパターンに分けられます。それぞれの樹形により、そのバラにはどんな仕立て方が向いているか、どんな剪定をすればいいかなど、バラを育てるために重要なことがほぼ決まってしまいます。ここではバラの樹形について紹介します。
バラの理解に欠かせない4種類の樹形を知ろう!
どんなバラを我が家に迎えようか悩んだとき、一番に考えるのはそのバラの花の色や咲き方ですよね。さらに四季咲きか一季咲きかを調べるでしょう。香りが強いかどうかにこだわる方もいます。でも、意外と樹形は後回しにされがちです。
初心者ほど樹形に気を配らないものですが、じつは、樹形はバラを選ぶ際には、花よりも優先しなければいけないほど重要なものです。
植える場所に合った樹形のバラを選べば、思い描いたようにバラを美しく咲かせることができるし、どんな手入れが必要なのかを知ることもできます。それくらい、バラを知るためにも選ぶためにも、樹形を理解することは大切です。
バラの樹形は、細かく分ければ10以上にも分けられますが、ここでは4つに絞って説明します。
1、ブッシュ(木立性)樹形は、四季咲き性のバラの樹形
ブッシュ樹形の枝の特徴
枝が太くて硬く、自立するのがブッシュ(木立性)樹形です。枝先はしっかり上を向いています。品種により、これをさらに3つに分けている場合もあります。
1、直立タイプ──あまり横に広がらずスリムにまっすぐ自立する
2、半横張り(または半直立)タイプ─横にやや幅をもちながら自立する
3、横張りタイプ─横に幅広くなりながら自立する
ブッシュ樹形の品種は?
▲「オスカル・フランソワ」(HT)
ハイブリッド・ティー系統【HT】やフロリバンダ系統【F】などのモダン・ローズや、オールド・ローズ後期のチャイナ系統のバラなどのほぼすべての四季咲きのバラがブッシュ樹形になります。ミニバラも、ほとんどがブッシュ樹形です。
ただし、モダン・シュラブ系統のイングリッシュ・ローズや、つるバラで「四季咲き」と表示されているものがありますが、それらは除外します。モダン・シュラブ系統の樹形はシュラブ(半つる性)樹形で、つるバラはクライミング樹形またはランブラー樹形です。
ブッシュ樹形の利用のしかた
▲赤いバラよりも手前に咲くバラはすべてブッシュ樹形のバラ
ブッシュ樹形のバラは、誘引しなくても良いので、庭の中央に利用しやすい樹形です。一列に並べて植えれば、生垣としても使えます。
ブッシュ樹形のバラは、剪定を繰り返して育てるので、高さを調整しやすいのが特徴です。バラの花を観賞しやすいように、普通は1m~1.3mていどの高さにします。ミニバラは高さ30cm、パティオ・ローズは50cmていどに育ちます。
剪定で高さを調節できるので、コンパクトに仕立てたい鉢植えにも向きます。
ブッシュ樹形の育て方
ブッシュ樹形のバラは花を四季咲きにします。花が咲いたあとに枝を軽く剪定しておくと、1ヵ月半後くらいにまた花が咲きます。「花が咲く⇒軽く剪定する⇒また花が咲く」ということをくり返しながら、春から晩秋まで花を咲かせ続けます。ブッシュ樹形では、花を咲かせるための剪定作業がとても大切になってきます。
年に何度も花を咲かせるので、四季咲きのバラ(つまりブッシュ樹形のバラ)は、年に何度も肥料が必要になります。
▼くわしいブッシュ樹形(木立性)のバラの育て方はこちらをご覧ください。
2、シュラブ(半つる性)樹形は、自然なままの樹形にしたり、枝先を誘引してつるバラとして扱うこともできる利用範囲の広い樹形
シュラブ(半つる性)樹形の枝の特徴
シュラブ樹形のバラは、ブッシュ樹形よりも細くしなやかな枝先をやや長く2mほどまで伸ばします。自立することはできますが、ブッシュ樹形よりも枝が細くて長いので、花が咲くと、花の重みで枝先が自然なカーブを描いて垂れ下がります。
枝の太さや伸び方は品種により異なります。シュラブ樹形のなかでも枝が太く硬いものはくり返しよく咲く品種に多く、ブッシュ樹形を大型にしたような形をしています。シュラブ樹形のなかでも枝が細く長いものは一季咲きの品種やイングリッシュ・ローズに多くみられます。
樹高1~1.3mほどの枝先の短いシュラブ樹形は、ショート・シュラブと呼ばれることがあります。枝先があまり長く伸びないのでブッシュ樹形と同じように扱えますが、花の重みで枝が自然なカーブを描いて枝垂れるので、より優しい印象があります。ショート・シュラブは、オールド・ローズやイングリッシュ・ローズに見られる樹形です。
シュラブ樹形の品種は?
▲ショート・シュラブ樹形の「シスター・エリザベス」(イングリッシュ・ローズ)
ほとんどのオールド・ローズがシュラブ樹形です。オールド・ローズの樹形は、その系統により少しずつ異なります。アルバ系統は枝先がよくしなり噴水のような形に茂ります。ガリカ系統はあまり高くならず、横広がりにややほふくぎみに茂ります。
モダン・ローズでは、モダン・シュラブ系統がシュラブ樹形です。モダン・シュラブ系統にはイングリッシュ・ローズなどが含まれます。
シュラブ樹形の利用のしかた
シュラブ樹形は応用範囲の広い樹形です。自立するので、庭の中央部分にも鉢にも植えることができます。切り詰めてもよく咲く品種を選べば、ブッシュ樹形と同じようにコンパクトに仕立てることもできます。
枝先の長いものを小型のつるバラ(小型といっても枝先は2mくらいになります)として使うこともできます。ベランダのフェンスや家庭用の小型のアーチなどに誘引したいときには、シュラブ樹形の品種が便利です。
四季咲きのつるバラのはずなのに春しか咲かない?
2000年以降に作出された現代バラ(モダン・ローズ)には、シュラブ樹形のバラがとても多くあります。こういうモダン・ローズでシュラブ樹形のバラをモダン・シュラブと呼びます。(厳密にはこの説明は違うのですが、ここでは、わかりやすくこう説明しておきますね)。たとえばイングリッシュ・ローズがモダン・シュラブです。こういったモダン・シュラブのバラは、ほとんどが四季咲き性をもちます。
樹高1m前後の小型のモダン・シュラブなら問題なく四季咲きするのですが、枝先が1.5m以上に伸びる大型のモダン・シュラブが春しか咲かないということが多く起きています。この現象について検証してみました。
大型のモダン・シュラブはつるバラのようにフェンスやアーチに誘引して咲かせることができるので、販売店によっては「つるバラ」と表記されていることが多くあります。さらに、もともと四季咲きの性質をもつので「四季咲きつるバラ」と表記されがちなんですが・・・。
モダン・シュラブの枝先を誘引で固定してしまうと、四季咲き性は失われてしまい、春だけの一季咲き、または咲いてもぽつりぽつりと返り咲きする程度になってしまうことが多いのではないかと思います。
じつはこの現象、イングリッシュ・ローズを調べていたときに見つけた報告なんです。イングリッシュ・ローズは、自然なままの樹形に管理するのがもっとも花をよく咲かせ、誘引して枝先が揺れないように固定してしまうと春以降はほとんど咲かなくなるそうです。
これが、「四季咲きつるバラが春しか咲かない」謎の答えじゃないかと思っています。モダン・シュラブを短く切り詰めてブッシュ仕立てに管理すれば四季咲きだけれど、同じ品種でも枝先を長く伸ばしてつる仕立てに管理すると四季咲きにはならないのです。
近年のクラシカルな花形をしたモダン・シュラブの多くはイングリッシュ・ローズを親に作出されていますから、イングリッシュ・ローズと同じ性質を受け継いでいると思うのです。
わたしは、じっさいに多くの品種をさまざまな仕立てで栽培した経験があるわけではないので推測にすぎませんが、「四季咲きつるバラを購入したのに、春しか咲かないのはどうして?」と、多くの方を悩ませてしまっているのは、こういうことなんじゃないかと思っています。
ほんとうに四季咲きするつるバラもありますが、かなり稀です。
▼「四季咲きつるバラ」についてまとめた記事はこちらです。
シュラブ樹形の育て方
シュラブ樹形の多くの品種は、春の花の後たくさんのシュートを伸ばします。これを放っておくと、枝が多すぎて収集がつかなくなってしまいます。生育旺盛なシュラブ樹形のバラは、スペースに応じて枝を整理することが大切です。
冬になりバラが休眠期になったら、土を替え元肥を与えます。3年目までは同じ枝でよく花を咲かせますが、4年目になると花数が減りますので、冬の間に4年目の枝は根元から切り、新しく伸びてくるシュートに栄養を回すようにします。
3、クライミング樹形はまっすぐ立ちあがり、枝先を長くのばすつるバラの樹形
クライミング樹形の枝の特徴
つるバラには、クライミング樹形とランブラー樹形の2つの種類があります。クライミング樹形の枝は堅くて太く、株元から真っ直ぐに立ち上がります。枝先にいくにつれて枝は細くなり、長く垂れ下がります。
最終的な枝先の長さは品種により異なりますが、3~5mほどです。
クライミング樹形の品種は?
▲ラージフラワード・クライマー系統の「ピエール・ドゥ・ロンサール」
略記号で【Cl】と表示されているクライミング系統のバラがクライミング樹形です。ピエール・ドゥ・ロンサールやシティ・オブ・ヨークなどのラージ・フラワード・クライマー系統【LCl】もクライミング樹形です。
クライミング樹形の利用のしかた
家の壁や広い壁面、アーチなど、高さのある広い面積をカバーしたいときには、クライミング樹形が適しています。ただし枝が堅くて太いので、低いフェンスなどに誘引するのは適しません。
クライミング樹形の育て方
クライミング樹形も、次に紹介するランブラー樹形も、ほぼ春のみの一季咲きです。春の花が終わったらあちらこちらからシュートが伸びてくるので、これを台風の影響などで折ってしまわないよう冬まで管理します。
冬になりバラが休眠期になったら、土を替え元肥を与え、枝を誘引しなおします。
▼クライミング樹形のつるバラの詳しい育て方は、こちらをご覧ください。
4、ランブラー樹形は、柔らかく細い枝先を6m以上までも長く伸ばす。どんなところにも誘引できる使い勝手の良さが魅力のつるバラ
ランブラー樹形の枝の特徴
ランブラー樹形もつるバラの樹形です。ランブラー樹形の枝は細くしなやかで、自在に曲げることができ、どんな場所にも誘引することができます。枝先は長く、6m以上、品種によっては10mに達するものもあります。ほふくするタイプのランブラー樹形もあります。
ランブラー樹形の品種は?
▲ランブラー樹形のバラ「ヴァイオレット」(ハイブリッド・ムルティフロラ系統)
日本原産のノイバラ(ロサ・ムルティフロラ)を親とする「ハイブリッド・ムルティフロラ系統【HMult】」と、同じく日本原産のテリハノイバラ(ロサ・ルキアエ)を親とする「ハイブリッド・ウィクライアナ系統【HWich】」が、主にランブラー系統のバラです。小花を房咲きにする品種が多くあります。
ランブラー樹形の利用のしかた
ランブラー樹形の枝は柔らかくて曲げやすいのが特徴です。壁面でも大型アーチでも、さらにクライミング樹形ではやりにくい低い位置のフェンスにも誘引できます。下垂させても花が咲く性質を利用して、高い位置から枝垂れさせたり、ほふくさせてグラウンド・カバーのように使うこともできます。
ただし6m~10mと枝先が長いので、広い場所が必要です。
ランブラー樹形の育て方
ランブラー樹形のバラは、春のみの一季咲きです。このタイプのバラは、一度花が咲いた枝には翌年、花を咲かせません。花後は、新しく伸びてきたシュートのみを残し、古い枝は切り取ります。伸びてきたシュートを順次、誘引していってもいいし、冬まで伸びるにまかせても構いません。
冬になりバラが休眠期になったら、土を替え元肥を与え、夏に誘引していない枝があれば誘引しなおします。
まとめ
一口に「バラ」といっても、その樹形はさまざまですが、ここでは
1、ブッシュ(木立性)樹形
2、シュラブ(半つる性)樹形
3、クライミング樹形
4、ランブラー樹形
の、4タイプに分けて紹介しました。
樹形によりどこに植えるか、どんな仕立て方ができるか、どんな育て方をするかがほぼ決まってしまいます。それくらい、樹形を知るのは大事なことです。
それぞれの特性を生かして、素敵なバラの庭を作ってくださいね!
私は、初心者です。新苗で全て四季咲きつるバラと聞いていますが
マリアカラス。アンクルヲーターは高さ約1.5mほどになりよこはり。シュラブあまりないかも?ゴールドバニーは高さ0.8mほどなのでフェンス仕立てでよい。
ザマッカートニーローズ、プリンセスドモナコは四季咲き自立系なので
きりこみをする。との理解をしておりますがこのような解釈で宜しいでしょうか。何卒宜しく御指導お願い致します
レモンさん、コメントをありがとうございます。
わたしも勉強中で、そんな「御指導」なんてできるようなものではないですが(^^;
とりあえず、コメントに上げられている品種を手持ちの資料で調べてみました。
マリアカラスは木立ち品種ととつる品種があります。木立ち品種は四季咲きですが、つる品種はほぼ一季咲きです。
アンクルウォルターは、日本で育てると大型になりつるバラとして扱われます。少し返り咲きする性質があります。
つる品種のマリアカラス、アンクルウォルター、どちらも日当たりの良い地植えなら2m以上になると思います。
ゴールドバニーは木立ち樹形の品種とつる樹形の品種があります。
木立ち樹形では1.3m、つる樹形では3mくらいになります。こちらも少し返り咲きします。
ザマッカートニーローズ、プリンセスドモナコはどちらも木立ち樹形の四季咲き品種です。
花が咲いた枝を適切に剪定しておけば、1~1ヵ月半後にまた花が咲きます。
と、いう感じです。参考になりましたでしょうか?
早速お返事誠にありがとうございました。
全く知識が無いのに、欲張った希望で
薔薇苗木を購入したのだと認識致しました。ちょっと予定が狂いましたが、
教えて頂いたので、その様な心づもりで
育ててみたいと思います。
ありがとうございました。
どれも大輪花が美しい品種なので、
咲き揃うと素敵ですよ。
大切に育ててあげてくださいね^^
日本原産のノイバラ(ロサ・ムルティフロラ)を親とする「ハイブリッド・ムルティフロラ系統【HMult】」と、同じく日本原産のテリハノイバラ(ロサ・ルキアエ)を親とする「ハイブリッド・ウィクライアナ系統【HWich】」が、主にランブラー系統のバラです。
とありますが、区分として
HMult. オールド系
HWich. オールド系
と理解でよろしいでしょうか?
ある書籍では、HWich はモダンローズとなっています。
素人の質問ですみません。
この系統記号はあまり見かけませんが? 何故?
福田州生さま、コメントをありがとうございます。
とても細かい部分での疑問ですね。
わたしは基本知識として、バラ大百科(NHK出版)をベースにしています。
なので、本により監修者によっては違った意見もあり得ると、まずご承知おきください。
それに加えて、わたし自身も一般人なので、間違いがあったらごめんなさい。
という前提で。ここからはわたしの理解としてお読みください。
まずランブラー系統というのは、細くしなやかな枝を6m以上、ときに10mまでも伸ばすつるバラです。
同じつるバラでもクライミング系統は、太く硬い枝を2~3mまで伸ばすつるバラです。
これらの系統表記は、ARS(アメリカン・ローズ・ソサエティ)で制定されたものです。
これとは別に、オールドローズ、モダンローズという区別の仕方がありますが、
これはARSが制定したものではなく、
1867年に作出された「ラ・フランス」以前に制定された系統をオールドローズ
1867年以降に制定された系統をモダンローズと、便宜的に区別して呼ばれています。
では元にもどってランブラー系統について。
ランブラー系統には「ハイブリッド・ムルティフロラ系統【HMult】」と、
「ハイブリッド・ウィクライアナ系統【HWich】」
があるわけですが、前述の「バラ大百科」(NHK出版)では
HMultはオールドローズとして
HWichモダンローズとして分類されています。
つまりARSにおいて、HMultという分類は1867年以前に成立している
HWichという分類は1867年以降に成立している
とみなされている、ということでしょう。
だから、ランブラー系統=オールドローズとするのは間違いということですね。
(どこかで、そう表記しているかも、と、ちょっと不安になってます^^;)
「この系統記号はあまり見かけませんが? 何故?」についての答えは、
2点考えられます。
まず、専門的すぎるからです。
ランブラー系統自体をご存じの方が少ないです。
さらにランブラーを2つに分類すること自体、
現在の日本では意味がないのだと思います。
もうひとつは、ランブラー系統自体があまり人気がないからです。
とても大きく育つため、それだけの場所を確保できるお宅が少ないです。
さらにイングリッシュローズの誕生から新しく制定されたシュラブ系統の
存在も、ランブラーを不人気にさせています。
シュラブ系統は2mていどと、ランブラーほど大きくなりすぎず、さらに
返り咲きも期待できるところから個人の庭で好まれるつるバラです。
というかんじで、よろしいでしょうか?
疑問は晴れましたか?
あいびー