青いバラの花言葉は「不可能」です。いくら交配を重ねたところで、空のように青いバラを作り出すことができないから、こんな花言葉がつけられたのだとか。今回は、青いバラにまつわるお話を、改良の歴史とサントリーの遺伝子組み換え技術を駆使した青バラ、さらに初心者でも育てやすい新しい青バラ品種を紹介します。


色鮮やかな青バラは、この世にまだ存在しない!

▲青い花の代表「デルフィニウム」

でこそバラの花にはさまざまな色がありますが、中国バラがもたらされる以前のヨーロッパのバラには、白と、ピンクの濃淡の色味しかありませんでした。

 

鮮明な赤や黄色もなければ、もちろん青もありません

 

1900年、西アジア原産の原種バラ「ロサ・フェティダ」を親に作出された「ソレイユ・ドール」からバラの世界に鮮やかな黄色がもたらされましたが、それから100年以上たつというのに、写真のデルフィニウムのように色鮮やかな青バラはまだ作り出されていません

 

もしも「色鮮やかな青バラを見たことがあるけどなぁ?」と思った人がいるなら・・・それは、白バラに青いカラーインクを吸わせて作った、人工的に着色された青バラです。

 

満足いく青バラを作出するのは、バラの育種家にとって夢であり、今でもなお挑戦しがいのある大仕事なのです。

 

今はまだデルフィニウムのように色鮮やかな青バラがないため、バラの世界で「黒バラ」といえば「黒みを帯びた濃い赤バラ」をさすように、「青バラ」といえば「青みを含んだ紫バラ」をさします。

 

ここでは青バラ、紫バラを語る上で外せないいくつかのバラを紹介しながら、青バラの育種の歴史を紹介します。

 

青バラの原点「カーディナル・ド・リシュリュー」

▲オールド・ローズの「カーディナル・ド・リシュリュー」

っとも古い時代の青みを含んだバラのひとつとされるのが、「カーディナル・ド・リシュリュー」。1847年以前のベルギーで作出されたガリカ系のオールド・ローズです。咲き始めは濃い赤紫で、咲き進むにつれ青みを帯びていきます。古い時代のバラですが、今なお人気の高いガーデン・ローズです。

 

咲き進むにつれ青みを帯びるのは「ブルーイング」と呼ばれる現象で、濃い赤紫色のバラでよく見られます。写真でも外側の花びらがかなり青みを帯びていますね。このバラを親にして数々の紫バラが作出されています。

 

時代を先取りした「グレイパール」

▲グレイパール

に類を見ないグレイッシュなバラ「グレイパール」は、1945年イギリスで作出されました。今でこそ人気の花色ですが、当時はあまりに珍しい花色のため作出者が発表をためらったほどだといいます。

 

写真ではちょっと分かりにくいのですが、実際はグレーを帯びた淡い紫色をしています。このバラも、後に発表される紫バラの親として重要な品種です。

 

紫バラの歴史的名花「スターリング・シルバー」

▲スターリング・シルバー

1957年、アメリカで作出された「スターリング・シルバー」は、澄んだ青みを宿した紫バラの名花です。このバラの誕生が、後に数々の青バラを生むことにつながってゆきます。

 

形の良い花は花径12cmと大輪で、香りも良いのですが、残念なことに樹勢が弱く、病気にかかりやすい育てにくいバラです。

 

「ブルームーン」は、紫バラのひとつの完成形

▲ブルームーン

った花形、ブルーローズ特有の強い香り、そして樹勢も強く花付きもよい1964年にドイツで作出された「ブルー・ムーン」は、紫バラのひとつの完成形です。 「ブルー・ムーン」は「スターリング・シルバー」を親に生まれました。枝替わりの「つるブルームーン」もあり、そちらもとても人気があります。

 

「ブルー・ムーン」は確かに青みの強いバラではあるけれど、けっして「青」ではありませんよね。青というよりも「藤色」または「薄紫」です。より鮮やかな青バラを求める改良は続きます。

 

小林森治氏の青バラ「青竜」

▲青竜

本のアマチュア育種家、小林森治さんが手掛けた一連の青バラがあります。小林森治さんは「グレイパール」の写真に衝撃を受け「世にないものを作りたい」と青バラ作りに情熱を傾けたひとです。

 

1963年に中心が青みを帯びる赤バラ「みかも」を発表。1986年には淡い青紫色の「オンディーナ」。1992年に澄んだ淡い水色の「青竜」を発表。他にも「たそがれ」「紫の園」「すみれの丘」「青の奇跡」「ターンブルー」など数々の薄紫~水色のバラを作出しました。

 

2002年5月に埼玉県で開催された「国際バラとガーデニング・ショウ」に出品された「青竜」を見た「グレイパール」の作出者サミュエル・マクレディは、「世界で最も青いバラ」と賞賛したといいます。

 

「青竜」は、ほとんど赤味を感じさせない、ごく淡い水色が美しいバラです。

 

小林森治さんは2006年に亡くなられましたが、彼が残した種子から「禅ローズ」の河合伸志さんが選別して「青のレクイエム」を発表しています。

 

河本純子さん(河本バラ園)の青バラ「ブルーヘブン」

細で女性らしい表情のバラを数多く作出している河本純子さん(河本バラ園)を代表する青バラのひとつが「ブルーヘブン」です。

 

小林森治さんの「オンディーナ」を交配親として2002年に「ブルーヘブン」は作出されました。バラ苗ショップのバラの家では「世界で一番水色に近いバラ」と表現しています。「ブルーヘブン」は、病気にかかりやすく、少し育てにくいところがあります。

 

なぜ、鮮やかな青バラは作れない?

つて、草木染の色素研究をしている方と親しくしていたときに聞いた話なのですが。

 

花には主にアントシアニン色素とカロチノイド色素が含まれていて、アントシアニン色素は赤~紫~青を発色し、カロチノイド色素は朱赤~オレンジ~黄を発色するのだそうです。バラには赤や紫色の花があるのだからアントシアニン色素を含んでいるはずです。それなのに青色のバラを作り出せないのは不思議ですよね。

 

そう思って調べてみたところ、確かにアントシアニン色素はあるのだけれど、それが青に発色するために必要な水酸基の数が足りないので青くならないようです。アントシアニン色素の分子構造につく水酸基が1個で赤く発色し、2個で赤紫色3個で青紫色に発色しますが、バラには3個の水酸基がついた分子構造をもつ品種がないので、鮮やかな青いバラを作ることができないのです。

 

ちなみに3個の水酸基がついたアントシアニン色素は「デルフィニジン」と呼ばれます。デルフィニウムのあの鮮やかな青色はこのデルフィニジンがあるからこその発色なのですね。

 

遺伝子組み換えにより青色素をもつバラ「アプローズ」が誕生!

▲アプローズ

ラには青色素デルフィニジンはありませんが、それに近い赤色素や赤紫色素はあります。なんとか分子構造で水酸基を3つにすれば、理論上は青いバラができるはずです。

 

これに成功したのがサントリーとオーストラリアの共同研究チームです。デルフィニジンを作るために必要な酵素のDNAをパンジーから採取してバラに組み入れることで、2004年、ついにデルフィニジン(青色素)をもつバラが誕生しました。それが「アプローズ」です。

 

ネットで見かける「アプローズ」の写真ではかなり青く写っているものがありますが、実際は上の写真のように青紫色のイメージです。青色素のデルフィニジンをもっているとはいえ、「アプローズ」は今はまだ人の目で見た「青」とは言えません。さらにより青に近いバラを生み出す研究が続けられているそうです。

 

アプローズは現在は切り花だけで入手できます。苗としては流通していません

 

「アプローズ」の誕生により青バラの花言葉は、これまでの「不可能」だけでなく「夢かなう」という素晴らしい意味が追加されました。

 

「青竜」から新しい青色素ロザシアニンが発見される!

伝子組み換え技術により誕生した青色素をもつバラ「アプローズ」ですが、それとは別のアプローチも進められています。

 

小林森治さんが作出した「青竜」などから、なんと新しい青色素が発見されたのです。青バラ独自の青色素ということでこの色素は「ロザシアニン」と命名されました。

 

こちらも今後、研究・開発が続けられていくと思うので、いつか「青竜」をより鮮やかにしたような水色のバラに出会える日がくるかもしれませんね!

 

 

 初心者にも育てやすい青バラの登場

みを帯びた紫色や藤色、ごく淡い水色など、青バラと呼ばれる品種はいくつかありますが、ほとんどの青バラは育てるのが難しい品種ばかりでした。

 

ここまでに紹介したバラの中では、オールド・ローズの「カーディナル・ド・リシュリュー」と「ブルー・ムーン」以外はどれも樹勢が弱かったり、病気に弱かったり、雨に弱かったり、日差しが強いと色が出なかったりと、栽培上級者向けのバラばかりです。

 

長らく初心者にも育てやすい青バラが望まれてきましたが、2000年代になり次々と初心者向けの青バラが登場しています。その中から3品種ピックアップして紹介します。

 

1、「ブルーフォーユー」は、シュラブ状に育つフロリバンダ

2、ひらひら咲く青いつるバラ「レイニーブルー」

3、ツンとした花びらが愛らしいHT「ノヴァーリス」

まとめ

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青バラについて、オールド・ローズの「カーディナル・ド・リシュリュー」から2010年作出の「ノヴァーリス」まで、駆け足でまとめてみました。

 

不可能なことの例えとされてきた「blue rose」を作り出そうと、世界中の多くのバラの育種家が努力を重ねてきた結果、今では初心者でも育てられる美しい青紫色のバラが登場してきました。

 

多くの青バラには特有のブルーの香りがあるのも嬉しいところです。

 

バラは毎年新しい品種が各社から発表されますから、次はどんな青バラが登場してくるのかとても楽しみです。じつはベランダにもう1品種増やそうかと考えていたのですが、今はまだ存在しない、濃い青紫色の絞りのつるバラができたら欲しいなぁと、夢のようなことを考えてしまいました!

 

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