11月に入ると日本各地で紅葉が見ごろを迎えます。赤や黄色、常緑樹の緑が織りなす紅葉は、毎年見ていてもやっぱりため息ものの美しさですよね。日本の紅葉は世界一の美しさとも言われますが、海外にも紅葉はあるはず! では、日本の紅葉と海外の紅葉はどう違うのか、日本の紅葉が世界一と言われる理由を紹介します。
紅葉が見られるのは世界的にも限られた地域だけ!
日本には四季があり、秋になれば木々は紅葉して葉を落とし、冬には葉のない状態になります。翌春にはまた芽吹き、夏に向けてたくさんの葉を茂らせます。わたしたちはこれが当たり前だと思っているのですが、じつは四季がこれほどはっきりした国は世界的に見て稀です。四季があるからこそ、わたしたちは毎年、美しい紅葉が楽しめるのです。まずは世界の紅葉事情を見てみましょう。
落葉広葉樹林があるのは温帯の限られた地域だけ!
植物が1年じゅう生長することができる気候では、木々は葉を落としません。木々が葉を落とすのは、生長できないほど厳しい環境の時期を休眠してやりすごすための植物の知恵です。つまり1年じゅう温かい熱帯地方では、木々は休眠する必要がないので、落葉樹林はありません。落葉樹林がないということは、当然、紅葉もありません。
一方、1年を通じて気温が低い地方では、木々は寒さに耐える構造の葉をもつ針葉樹となります。カラマツやメタセコイアなどの一部の針葉樹は落葉しますが、針葉樹の多くは常緑です。常緑の針葉樹は紅葉しません。落葉針葉樹は紅葉しますが、その色みは黄色~茶色です。
木々が葉を落とす落葉広葉樹林があるのは、1年の内の一定期間、生長できない季節がある地域に限られます。つまり四季がある温帯地方のみに落葉広葉樹林があるのです。落葉樹は、成長に適さない寒い冬を休眠して耐え忍ぶために、葉を落とします。紅葉は、木々が葉を落とす前段階に起きる現象なのです。
広範囲に落葉広葉樹林があるのは、世界的に見ると、東アジアの沿岸部、アメリカ大陸の東部、ヨーロッパの一部になります。オーストラリアにも四季はありますが、紅葉が楽しめるのはメルボルン近郊の狭い地域に限られるようです。南半球と北半球では季節が逆転するので、メルボルンで紅葉が見られるのは5月ごろです。
アジア以外で有名なのはカナダ・ドイツ・アメリカ北東部
カナダ・メープル街道
Acer saccharum (sugar maple tree in fall colors) (Newark campus of Ohio State University, Newark, Ohio, USA) (23 October 2015) 2 / James St. John
▲黄色く色づいたサトウカエデ
カナダといえば、国旗のデザインにもなっているメープルが有名です。メープルとは日本語に訳すと「楓-かえで-」。メープルシロップを採るのはカエデの中でもサトウカエデ(sugar maple)と呼ばれる種類です。カナダには10種類ていどのカエデが自生しているそうです。
カナダの紅葉を楽しむスポットとしてオンタリオ州からケベック州に続く800kmにも及ぶ「メープル街道」が有名です。街道沿いには赤や黄色に色づいた無数のメープルが立ち並び、ドライブしながら紅葉した壮大な景色が楽しめます。
ドイツ・ロマンチック街道
Schloss Hohenschwangau from Schloss Neuschwanstein / jiuguangw
▲ノイシュバンシュタイン城から見たホーエンシュバンガウ城
ドイツ観光で人気のロマンチック街道も美しい紅葉が楽しめる地域です。ロマンチック街道には多くのお城がありますが、ディズニーのシンデレラ城のモデルとして有名なノイシュバンシュタイン城と、その向かいにあるホーエンシュバンガウ城も、秋には黄色やオレンジに紅葉した木々に彩られます。
アメリカ・紅葉街道
▲アメリカの紅葉名所。バーモントの紅葉街道
アメリカ北東部に位置するバーモント州は、壮大な紅葉が見られることで知られています。ドライブしている間じゅう美しく色づいた紅葉を楽しむことができます。さすが国土の広さを感じる風景ですね。
なぜ日本の紅葉は世界一美しいと言われるの?
世界にはこんなに美しい紅葉が見られるところがたくさんあるというのに、なぜ日本の紅葉が世界一美しいと言われ海外でも人気なのでしょうか? 理由は主に4つあります。それぞれの理由をひとつづつ見ていきましょう。
理由その1、日本は広葉樹の種類が多い
▲あいびー家のマンション前の並木も秋にはこんなに色鮮やかに!
紅葉は、木の種類により色みが異なります。銀杏やブナは黄色く色づき、楓は黄色、オレンジ、赤に色づきます。紅葉する木の種類が多ければ多いほど、それだけ色みも豊かになります。一説によると日本の落葉広葉樹の種類は、欧米の倍あるのだそうです。落葉広葉樹の種類が多いから、それだけ紅葉の色の幅が広く、錦に例えられるほど繊細な美しさになるのです。
さらに日本は国土の7割が山林で、山あり谷ありの複雑な地形をしています。複雑な地形にさまざまな種類の木々が生えているので、日本の紅葉は、ヨーロッパや北米と異なった景色を生み出しています。ヨーロッパや北米の紅葉が「一面黄色」または「一面オレンジ色」というように、広大な景色を単色で染め上げる傾向にあるのに比べて、日本の紅葉は狭い場所にさまざまな色がぎゅっと凝縮されているのが特徴です。
理由その2、真っ赤に色づく木が多い
Japanese Wax Tree (Toxicodendron succedaneum) / harum.koh
▲真っ赤に色づくハゼノキの紅葉
ヨーロッパの紅葉は、全体に黄色いのが特徴です。赤くなる種類の木が少ないのです。オレンジ色はあっても、真っ赤に紅葉する木の種類はあまりありません。カナダやアメリカのバーモント州では赤く色づく木があるので、紅葉が色鮮やかになり、観光名所となっているのです。
日本では、イロハモミジを始め、さまざまな真っ赤になる落葉広葉樹があります。ガマズミ、マユミ、ヤマボウシ、ハゼノキ、ニシキギ、ナナカマド、ウルシなど、など。鮮やかな赤になる木がたくさんあるので、日本の紅葉は美しいのです。
理由その3、モミジをたくさん植えている
▲燃えるように赤く色づいたイロハモミジ
日本で「モミジ」と呼ばれている植物は、植物学的にいうと「カエデ」の1種類です。「カエデ」の中でも特に美しく紅葉し、深い切れ込みのある葉をもつ種類を日本では「モミジ」と呼び分けています。紅葉の美しさと姿の美しさで庭木などに特に愛されているのが「イロハモミジ」です。
美しく紅葉するイロハモミジをたくさん植えているのだから、当然、紅葉は美しくなります!
理由その4、日本建築と紅葉の調和が美しい
▲京都市左京区の蓮華寺の紅葉した庭
奈良時代から盛んに歌に詠まれていた紅葉ですが、当時は山に紅葉を見に行くというのが一般的でした。モミジを庭に植えるようになったのはずっと後、江戸時代になってからのことです。江戸時代には紅葉したモミジの下に幕を張り、弁当やお酒を持ち込んで騒いでいる様子が描かれています。現代の花見と同じように紅葉見(?)を楽しんでいたようです。
日本の建築物の美しさと紅葉の調和は特に見事です。薄暗い寺院の中から眺める紅葉した庭の景色は、室内の暗さとのコントラストもあり、息をのむほどの美しさです。京都には、美しい庭をもつ寺院がたくさんあります。日本人と同じように、海外の方も日本建築と紅葉を同時に見られる京都の秋を、格別に美しいと思うようです!
だから、多くの海外の人にも日本の紅葉は感動を与える!
海外の壮大な紅葉と日本の紅葉は趣が異なり、それぞれに良さがあると思います。でも、日本建築と紅葉が作る景色は、日本でしか観ることができない美しさです。
外国人が世界一訪れてみたい都市、京都。その紅葉は、やっぱり世界一でした!
まとめ
日本は狭い場所にぎゅっと凝縮してさまざまな落葉広葉樹が生えているので、紅葉の色彩が豊かなのが特徴です。まるで箱庭のように、コンパクトに効率よく美しさを堪能できるのは、欧米とは全く異なった紅葉の景色ですね。
そんな日本の紅葉の美しさを支えているのが「赤くなる落葉広葉樹」の存在です。日本には赤くなる木の種類が欧米に比べて多いのです。赤く紅葉する日本のモミジは、英語で「Japanese maple」と呼ばれ、庭に植える海外の方も増えてきているそうです。たしかにモミジは日本の紅葉の肝ですよね! もしもモミジがなかったら、どんなに日本の紅葉は寂しくなるだろうかと思います。
世界で紅葉を楽しめる場所はいくつもあります。でも、色彩の豊かさからいっても日本の紅葉は世界一、なかでも日本建築とのコラボレーションが素晴らしい京都の紅葉は別格ということなんですね! 久しぶりに今年は11月の京都に紅葉を観に行ってみたくなりました!