バラはその香りと薬効が注目され、古代ペルシア時代から栽培されていたといわれています。その後さまざまな交配がくり返され、現在では世界に約4万種もの園芸品種が作り出されました。これら園芸品種の改良に使われた原種バラは主に8種です。ここでは、園芸品種の親となった主だったバラを紹介します。
園芸品種の親として重要なバラは主に8種
より美しく、香り高く、しかも年に何度も楽しめる品種を求めて、バラは今日までさまざまな園芸品種が生み出されてきました。これら園芸品種の親として特に重要な原種バラは、おもに8種類です。(ただし、10種類とする場合や、それ以上とする場合もあるようです)。
バラの品種改良の歴史に重要な意味をもつ原種バラたちは、それぞれに優れた性質をもっています。ここでは園芸品種の親として重要な8種類のバラを順に紹介していきます。
1、ロサ・ムルティフロラは房咲きする園芸品種の親
ロサ・ムルティフロラ(Rosa multiflora)(日本原産のノイバラ)は、房咲き性の親
▲日本原産のノイバラ「ロサ・ムルティフロラ」
日本原産の原種ノイバラは、学名でロサ・ムルティフロラ(Rosa multiflora)といいます。「multiflora」はラテン語で「多花種」を意味します。
性質が強健なことと、学名が示すとおりこのバラの多花性が重要で、オールド・ローズのポリアンサ系統や、それに続くフロリバンダ系統のバラの、房咲きする園芸品種の重要な親となりました。
▼詳しくはバラの花図鑑をご覧ください。
2、ロサ・ルキアエはつる性園芸品種の親
ロサ・ルキアエ(Rosa luciae)またはロサ・ウィクライアナ(Rosa wichuraiana)(日本原産のテリハノイバラ)は、つる性の親
▲日本原産の「テリハノイバラ」(ロサ・ルキアエ)
日本原産の原種テリハノイバラは、学名でロサ・ルキアエ(Rosa luciae)またはロサ・ウィクライアナ(Rosa wichuraiana)といいます。以前はロサ・ウィクライアナ(Rosa wichuraiana)と呼ばれていましたが、現在ではロサ・ルキアエ(Rosa luciae)と呼ばれることが多いのだそうです。
ツヤのある葉が特徴で、花径3~3.5センチの白い花を咲かせます。19世紀末にフランスやアメリカに紹介され、現在のつる性園芸品種の親となりました。
3、ロサ・ガリカは濃紅色のバラの祖
ロサ・ガリカ(Rosa gallica)は、ガリカ系園芸品種の親
Rosa gallica spl. Essigrose / Nouhailler
薬用、香料用にヨーロッパで古くから栽培されていたのがロサ・ガリカ(Rosa gallica)です。学名の「gallica」は、古代ローマ時代に、現在のフランスを中心とした広い地域を「ガリア」と呼んだ地名に由来しています。
ガリカ系統の園芸品種には赤や桃色の花を咲かせ、華やかな香りのあるものが多くあります。
4、ロサ・ダマスケナはダマスク香と返り咲き性質の親
ロサ・ダマスケナ(Rosa × damascena)は、豊かなダマスク香と返り咲きの親
▲「ロサ・ダマスケナ・ビフェラ」(Rosa × damascena var. bifera)
ギリシア、ローマ時代から栽培され、今もなおブルガリアなどで香料を採るために栽培されているのがロサ・ダマスケナ(Rosa × damascena)です。
ロサ・ダマスケナはロサ・ガリカとロサ・モスカータの自然交雑種と考えられています。ただし、人工的に交配したものという見方もあり、原種に含めないとする考え方もあります。ロサ・ダマスケナは、ロサ・ガリカとともに、多くの園芸品種の重要な親となっています。
写真は、ロサ・ダマスケナの中でも秋に返り咲く性質をもつロサ・ダマスケナ・ビフェラ(Rosa × damascena var. bifera)。別名をオータム・ダマスクまたはフランス語でキャトル・セゾン(「四季」の意味)と呼ばれるバラです。オータム・ダマスクのこの返り咲く性質は、ヨーロッパの他のバラにないものだったので、中国原産のバラがヨーロッパにわたる18世紀末~19世紀初頭まで、とても貴重でした。オータム・ダマスクを親として、ポートランド系統やブルボン系統のバラが生み出されています。
ロサ・ダマスケナ系統のバラは通称ダマスク・ローズと呼ばれ、その豊かな香りはダマスク香と呼ばれています。
5、ロサ・キネンシスは四季咲き性と木立性(ブッシュ)樹形の親
ロサ・キネンシス(Rosa chinensis)(中国原産のコウシンバラ)は、四季咲き・木立性樹形の親
▲中国原産の「ロサ・キネンシス」(庚申バラ)
中国原産の原種ロサ・キネンシス(庚申バラ)は、18世紀末~19世紀初めに中国からヨーロッパへ渡りました。
原種バラで唯一、四季咲きの性質をもち、オールド・ローズのポートランド系統、ブルボン系統などのさまざまな系統のバラに受け継がれました。さらにそれらは現代バラ(モダン・ローズ)のハイブリッド・ティー系統のバラを作る重要な親となりました。
ロサ・キネンシスはもともと四季咲き性質を持っていたわけではなく、もとは他のバラと同じように一季咲きだったものが、突然変異で四季咲き性質を獲得したと考えられています。四季咲き性質をもつバラは、枝を長く伸ばすためのエネルギーをくり返し花を咲かせるために使うので、樹高はあまり高くならず木立性(ブッシュ)樹形になるようです。
一季咲きのバラはほとんどが枝先の長いシュラブ樹形ですが、ロサ・キネンシスの四季咲き性と同時に木立性(ブッシュ)樹形もヨーロッパにもたらされました。
6、ロサ・ギガンティアは、大輪、剣弁咲き、ティー香の親
ロサ・ギガンティア(Rosa gigantea)は、大輪の花を咲かせる性質と剣弁咲き、さらにティー香の親
▲ヒマラヤ山脈山麓原産の「ロサ・ギガンティア」(Rosa gigantea)
ヒマラヤ山脈山麓 , ミャンマー北部 , 中華人民共和国南西部原産のロサ・ギガンティア(Rosa gigantea)は、枝がよく伸び、他のどの原種バラよりも大きな10センチ近い花を咲かせます。
学名の「gigantea」は、ラテン語で「巨大な」という意味です。ややクリーム色がかる白い一重の花で、花びらが中心から左右に反り返る剣弁咲きの性質があります。香りは紅茶を思わせるティー香。
モダン・ローズの代表的な系統、ハイブリッド・ティー系統の、重要な親となりました。
ロサ・ギガンティアにより、大輪の花、剣弁の花びら、ティー香がもたらされました。
7、ロサ・モスカータは、ムスク香の親
ロサ・モスカータ(Rosa moschata)は、ロサ・ダマスケナの親となった、ムスク香が特徴のバラ
▲西アジア原産の「ロサ・モスカータ」(Rosa moschata)
ロサ・モスカータ(Rosa moschata)は、ムスク(じゃこう)の香りがするので、別名ムスク・ローズとも呼ばれる西アジア、北アフリカ原産のバラです。
香料を採るバラとして今でも盛んに栽培されているロサ・ダマスケナ(Rosa × damascena)の親となった、香りの強い原種バラです。
8、ロサ・フェティダは、黄色いモダン・ローズの親
ロサ・フェティダ(Rosa foetida)は、鮮やかな黄色い花色の親
▲黒海東岸原産の「ロサ・フェティダ」(Rosa foetida)
黒海東岸の国・グルジアのカフカース山脈山麓の丘陵地帯を原産地とする原種のバラがロサ・フェティダ(Rosa foetida)です。学名の「foetida」がラテン語で「悪臭を放つ」という意味をもつことから分かるように、酸っぱい腐敗臭があります。
原種のバラとしては他にない鮮やかな黄色い花で、黄色系の現代バラを生み出す重要な親となりました。
まとめ
バラはヨーロッパで盛んに品種改良されたのですが、ヨーロッパのバラに中国や日本、さらに中近東の原種バラを組み合わせることで、現在のバラエティに富んだ園芸品種が作られたのですね。
バラ属の原種が世界各地でそれぞれ特有の個性をもっていたからこそ、より良いものにできたんです。皆が皆、同じじゃない、多様性があるってことは、人間世界でも植物の世界でも、とても重要なことだと言えそうです。